第一回「パクりをめぐる経緯と論点」① 経緯

 今年6月に発売された『コンピュータ発!現代将棋新定跡』(suimon マイナビ出版)を巡る事件・議論・諸問題について「現代将棋新定跡をめぐる問題に関して」と題し、シリーズで書き起こしていく。

 第一回では、千田翔太氏の当初の抗議内容である「パクり(盗作・剽窃)」という主張に関して、経緯と論点をまとめていきたい。
 分量が多くなってしまったので、第一回は①「経緯」②「論点」「その他」と記事を分割した。

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★目次
0 本記事の書き手である橋本の立場
1 経緯
1.1 千田氏による当初の抗議内容
1.2 同一手順が出現しているかの確認
1.3 8月4日時点での橋本の見解
1.4 suimon氏による報告書
1.5 その後の経過

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0.本記事の書き手である橋本の立場

 私は先月8月3日に、アマ将棋研究家のsuimon氏から「コンピュータ発!現代将棋新定跡」(suimon マイナビ出版2018年6月30日初版、以下「現代将棋新定跡」と略す)について、プロ棋士の千田翔太六段からマイナビ出版に抗議が入ったとの相談を受けた。
 suimon氏に関しては、7月に私のウェブ連載「15年後の感想戦(ねとらぼアンサー)」において取材をし、記事を書いた。私がアマ高段者であり、将棋関連の著作があるということで、問題に対する見解を聞かせて欲しいと依頼されたので応えることにした。
 そこから半分相談、半分取材という感覚でこの問題に関わっていくことになった。

 本稿は公平・誠実に書いたつもりではあるが、立ち位置・情報源によってバイアスがかかっている可能性もある。皆様自身で考え、結論を出していただければ幸いである。

1.経緯

1.1 千田氏による当初の抗議内容

「現代将棋新定跡」の以下の部分について、千田氏が自身の公開している定跡ファイル「C-book_2017」のパクリ(剽窃・盗作)であると主張。
①~⑦(省略)
⑧ p.100~p102【重要】『(C-book_2017)』  
⑨ p.106~p108【重要】『(C-book_2017)』

 上記は8月3日に私が知った千田氏の抗議内容である。
 ⑧⑨が論点となっている個所であるが、千田氏は「第2章角換わり▲4八金」全体に対して①~⑦で盗作を主張していた。
 ①~⑦に関しては、研究熱心なプロやトップアマの間では常識になっている手順・変化であったため、早い段階で表の議論から消えた。
 
◆千田氏は以下のことを特に強く主張している。

・⑧⑨は普通にコンピュータに読ませたら本線として出てこないはずと強く主張。
・この手順は自身のオリジナルで、この手以外にも有力な手は複数あり、それらが掲載されずに⑧⑨のみが載っているのはおかしい。

→suimon氏の反論・反証については後述する。
→千田氏は現時点(橋本が本件についての情報を入手できた9月7日までの時点)においてもこの主張は取り下げていないようだ。
→千田氏が「三浦九段冤罪事件」において「一致率」を主張した時の、断定的な推論との類似性。

1.2 同一手順が出現しているかの確認

 既に千田氏、suimon氏、suimon氏が相談した別の人々によって確認されているようであったが、私自身資料を確認することにした。
 suimon氏の書籍は既に手元にあった。千田氏の定跡ファイルに関しては、「ShogiGUI」と「C-book(2007)」をダウンロードした。初めて操作するということもあり、「C-book」で「現代将棋新定跡」と同一局面・同一手順を出すのに苦労したが、何とか探し出し、同一手順があることを確認した。

◆論点チェック!……「C-book」の情報としての特殊性。
↓(参考)将棋ソフト開発者の平岡拓也氏による「C-book」のビジュアル的解説。膨大な手順が「勝率」「採用率」などと共に羅列されている。


1.3 8月4日時点での橋本の見解

 私はsuimon氏から連絡のあった翌日8月4日に見解をまとめ、suimon氏に送付した。分量が多いため、『第一回の補足「8月4日(初動)時点での橋本の見解」』に全文掲載することにした。参照されたい。

◆現時点での橋本の見解
 「手順に権利はあるのか?」という上位の論点があるので、「手順のパクりか否か」という下位の論点は法的には意味のない議論となる。しかし、私の見解は「手順のパクりか否か」という論点においてさえも、千田氏の主張・指摘は誤っているというものである。
「②論点」にて詳述。

1.4 suimon氏による報告書

 同8月4日、suimon氏はどのようにして書籍を執筆したかに関する詳細な報告をまとめてマイナビ出版側に提出した。どの部分を何を参照して執筆したか、どの局面でどのソフトを使って探索したかなどに関しての詳細なメモである。またfloodgateにおける前例も記載されていた。
 その一部はsuimon氏がツイッターで公開している。
↓(参考)報告書の一部が掲載されているsuimon氏のツイート

1.5 その後の経過

 本件の最初の段階で千田氏が抗議・クレームを行ったこと自体に問題点はない。著書に関して違和感を覚えた場合に出版社に問い合わせを行うのは自然なふるまいであろう。suimon氏は千田氏の疑問に対し懇切丁寧に説明した資料を提出した。私はうちうちで和解が行われるのではないかと予想していた。
 対立をしていた二人が、抗議とそれに対する説明の中で仲良くなり、共に業界を牽引していくことになる――というのは他業界ではある話だろう。重版分において千田氏の功績をより強調する形で書き足すなどすれば、互いにメリットがある。千田氏がリーダーとなる形で、将棋書籍における情報の在り方のルール作りを行っていくこともできたはずだ。

 しかし、事態はそうは進まなかった。8月17日にsuimon氏から連絡が入ったのだ。

内容は、

・千田氏が新しい論点を立てて責めてきた。
・マイナビ出版は既に謝罪方針を固めている。

という2点であった。

 ここからの展開と論点は「第二回」で書かせていただくこととする。
 このあたりから私は千田氏の本件における行動動機と、マイナビ出版の著者への対応に強い疑問を抱いていくこととなる。(続く)

②論点

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