アンストイックダイアリー5

飛び上がるほど驚いた。
ハイビームではないものの、2時間以上も真っ暗な中を歩いてきたのである。

しかし、車は方向転換し道路の続いている方へ進んでいった。

「行ってくれた。」

かと思うと、またすぐに停まり、バックのままこちらへ近づいてきて停まった。

中から人が降りてこちらへ向かってきた。
青年風である。しかもかなり若い。二十歳ぐらいだろうか。
助手席にはその彼女と思しき女性が座ったままこちらを見ていた。

「どうしましたか」

どうしましたはこっちが言うセリフだ。
なんかこの車に付きまとわれているようで、こちらとしてはビクビクもんなのである。ほっといて欲しい。

「いやあ、レンタカーも何も貸してもらえなかったんで、歩いてスコトンまで行くために8時間コースを歩いてたんですが、この通り道路に出てきてしまって、道を間違えましたかねー」

オレはありのままを告げた。

「えーっ、スコトンに林道歩いて行くんですか。ウチら地元の人間はそんなこと昼間もしないですよ」

「ええ、でもまあ観光客ですし、ボクもやることがないんでしょうがなく歩いてるんです。どこで道を間違えたんでしょうねえ」

「それならたぶんここをすぐに戻った場所だと思います。分かれ道の看板が立ってますよ。でも、やっぱ危ないですよ。崖とかありますよ。子供の頃はよく遊びに行きましたけど、結構危ないですよ。なあ」

いつの間にか車を降りてきていた彼女に向かって言うように言った。

「それはこの地図をくれたレンタカー屋の人にも言われましたが、まあそーゆう多少の危険は付きものの旅稼業ですから、どうも心配をかけますが大丈夫です」

「そうですか、じゃあ気をつけて」

なんとなく笑顔で別れたが、彼らが車から出てきた理由は、おそらく車の中で乳繰り合っているところに突然真っ暗な林道の向こうから人が現れた。
いつから見られていたんだろう、というやましさに耐え切れないのと、何でこんなところに人がいるのか、まさか自殺志願者か何かではなかろうか、それなら止めなければという無垢の親切心とがごちゃ混ぜになった中での勢いで、不審者には呼びかけをせよ。
という子供の頃に受けた教育が脳裏をかすめ、実行に移された。というものであろう。
しかし、乳繰り合っているのなんかは見ていないのだ。車が停まっているのを見つけただけでビビッていたのである。

そんな余裕はない。

気を取り直して元来た道を戻り始めた。
ものの5分ほどで簡単な地図の描かれたたて看板を有する分かれ道が現れた。
何故気付かなかったのだろうか。
ここら辺は水溜りもそれほど多くないし、何か考え事でもしていた時だったのか、おおよそ見落としそうにもない、やや広めな場所であった。相変わらず真っ暗な場所であるが…。

さて、立て看板には地図とともに文字もかかれていた。
 
〝8時間コース
この先キケンにつき宇遠内方面からのみ通行可。〝
 
「ここまで来て冗談じゃありません。戻るつもりはありませんので」

と、立て看板に一発蹴りを入れ、危険だという分かれ道の向こうへ歩き出した。

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