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イーハトーブの山旅

「武蔵野」がテーマのトークイベントで民俗学者の赤坂憲雄さんにお目にかかりました。東京府中育ちの赤坂さんは20年間の東北暮らしで「東北学」を提唱され、話題の著書がたくさんあります。3.11震災直前に東京に戻られて「武蔵野学」を立ち上げられ、国木田独歩を研究した『武蔵野をよむ』を執筆されました。

「武蔵野には3万年前から人類が住み続けているが、住人たちの精神や自然は持続しているものではない。来るものを拒まず、去る者を追わず、権力も人もつながりはゆるく、郊外の独特の文化を形成している。」とのお話し。

東北で20年間生活してみても「よそ者」扱いで、人と地元権力とのつながりの強さに戸惑うばかりであったと、東北と武蔵野を比較され、武蔵野の台地の上には「イーハトーブ」があるとの言葉が印象的でした。

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 <鎌倉森1316mより岩手山の西面 2019-2-11>

イーハトーブの岩手の山へ。昨年1月と今年の1月に岩手山(2038m)でスキー登山を楽しみました。見た目以上に裾野が長く、厳しい寒さでした。2月には岩手山西方の姥倉山(1517m)からスキー滑走を始めたところで仲間が骨折。岩手県防災ヘリのお世話になってしまい、関係者に多大なご迷惑をかけてしまいました。怪我を負った仲間は回復後盛岡にお礼に出向いたところ、逆に歓待されてしまい恐縮したと同時に、岩手の皆様の優しさに触れて涙が出そうだったとの感想でした。

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<森吉山 2018-2-10>

秋田に移動し、樹氷の美しい森吉山(1454m)を滑る予定でしたが、登山計画書を提出していた秋田県警から「天気が悪いので登山は中止してください」と説得の電話。登山予定日の天気は回復の予報だったので心配はしていなかったのですが、親身に説得され、この熱い対応には恐縮するばかりでした。

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<鳥海山湯の台ルートより庄内平野と日本海> 

春になると鳥海山(2236m)のスキー登山に毎年出かけます。もう20数回訪れた鳥海山ですが、豊富な残雪と春の花々が楽しみです。山頂から眼下の日本海に向って滑る醍醐味は他の山で味わえない楽しみです。

北緯40度(秋田県北部〜岩手県北部)を超えると気候が違ってます。日の出も早い。春の花は雪解けとともに一斉に咲きます。東京のように梅から順ということがない。まだ雪の残る上で桜が咲いているところも。

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<由利本荘市鳥海町猿倉から望む鳥海山>

今年は百宅登山口から入山の予定だったのですが残雪が多すぎて予定を変更。「よそ者」感いっぱいながら、百宅でみた日本の原風景に涙がこぼれそうでした。というのも百宅地区は鳥海ダムの建設で2028年、湖底に沈むことになっています。

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<由利本荘市鳥海町折切の桜と鳥海山 2019-4-29>

 松尾芭蕉が「東の松島、西の象潟」と九十九島を評した景勝地の象潟は、1801年の大地震で海水面だったところが隆起して陸地となり、九十九島が消失してしまいました。一年に一度だけこの時期、田んぼに水が入ると九十九島が水面に映り、200年前の景色がよみがえります。

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<象潟と鳥海山> 

象潟から鳥海山のながめ

1784年(天明4)菅江真澄が出羽国にてスケッチ
『象潟からの鳥海山のながめ』
菅江真澄民族図鑑(下巻)「粉本稿」より

百宅の鳥海マタギ、森吉の阿仁マタギの文化は、クマを神と崇敬するアイヌ文化《イヨマンテ》と共通で、それは1万6千年前の縄文時代から続いているとも考えられます。宮沢賢治なめとこ山の熊』では、クマ狩り名人の小十郎は、生計のためにクマを狩り、毎回クマに謝る。しかし最後にはクマに狩られてマタギが行う《ケボカイ》儀式で小十郎の魂を山の神へと送る。

 人とクマとの距離感が難しくなってしまった今日、縄文人たちが考え導き出した、人と野生動物たちとの共存、富を蓄えることなく権力や格差・差別のない社会(米文化が伝わって以降権力と貧富の差が発生)、家族団らん、人にとってほんとうに大切なものをいにしえの先輩方に学ぶことも必要なことであろうと東北の山旅を続けて思うのであります。

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<縄文時代後期の大湯環状列石2019-5-3>

「ふるさとの山に向かひて言うことなし ふるさとの山は ありがたきかな」 
石川啄木『一握の砂(いちあくのすな)』

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<八幡平市松尾寄木より岩手山 2018-1-27>

啄木にとってのふるさとの山は、母なる『姫神山』または父なる『岩手山』、または両方を言っているのでしょう。

粉本稿39盛岡からの岩手山のながめと舟橋(陸奥国)

1785年(天明5)菅江真澄が陸奥国にてスケッチ
『盛岡からの岩手山のながめと舟橋』
菅江真澄民族図鑑(下巻)「粉本稿」より

参考資料
1)武蔵野をよむ 赤坂憲雄著(岩波新書)
2)東北学 忘れられた東北 赤坂憲雄著 (講談社学術文庫) 
3)なめとこ山の熊 風の又三郎 宮沢賢治著(角川文庫)
4)菅江真澄民族図鑑(下巻)粉本稿(内田ハチ編)1989年(昭和64)発行

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