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#141 時計遺伝子とあなたの体。

毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードでは、時計遺伝子の働きと代謝についてのお話をします。前回のエピソードでは、概日リズム、時計遺伝子、クロノタイプについて概説しました。概日リズムとは、生体内の代謝周期が約24時間であるというリズムです。概日リズムは、時計遺伝子による制御を受けており、個人差があります。概日リズムの個人差はクロノタイプと呼ばれる概念で分類され、大まかには朝型、昼型、夜型の概日リズムが存在します。では、時計遺伝子は、どのような働きによって概日リズムを制御しているのでしょうか?

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

セントラル・ドグマの復習

まずは、遺伝子の情報がタンパク質になるまでの復習をします。遺伝子とは、タンパク質などの情報が記録されたDNAの列びとなります。したがって、遺伝子は情報です。情報はDNA配列に記録されています。DNA配列とは、具体的には4種類の物質であるアデニン、グアニン、シトシン、チミンの並び方を指します。これらの物質は塩基と呼ばれることから、別名塩基配列と呼ばれています。

遺伝子の情報は、RNAと呼ばれる物質に写し取られます。この過程を転写と呼びます。転写によって、DNA配列からRNA配列の列びに遺伝子の情報が変換されます。

続いて、RNA配列はアミノ酸配列に変換されます。この過程を翻訳と呼び、DNA→RNA→タンパク質の遺伝情報の流れをセントラルドグマと呼びます。ここまでが、遺伝情報がタンパク質になるまでの大まかな流れです。詳しい解説は、#70から#74まででゆっくりお話しているので、もしよかったら聞いてみてくださいね。

今回、時計遺伝子の働きを論じる上で重要なのは、転写と翻訳のプロセスになります。

時計遺伝子とフィードバックループ

時計遺伝子も、他の遺伝子と同様にタンパク質の情報を記録しています。ですから、時計遺伝子に対応する時計タンパク質と呼ばれる物質が存在します。時計タンパク質には、他の多くのタンパク質とは異なり、遺伝子の転写、翻訳の働きをネガティブに制御する仕組みが存在します1)。

つまり、時計遺伝子の情報が時計タンパク質として発現した後、時計タンパク質はDNA配列に何らかの作用をすることで転写、翻訳を抑制する働きを示すのです。これが、基本的な時計遺伝子の働きになります。

時計遺伝子から作られた時計タンパク質が、遺伝子発現量を抑制する影響を与えることで、以降に作られる時計タンパク質の量を減らす。時計タンパク質の量が減ると、遺伝子発現量の抑制効果が小さくなるので、時計タンパク質の作られる量が本来の量に戻ってくる。

時計遺伝子と時計タンパク質のこの相互作用を、転写翻訳フィードバックループ(Transcription-Translation Feedback Loop: TTFL)と呼びます。

もう少し詳しく転写翻訳フィードバックループについて見ていきましょう。
東京大学大学院医学系研究科の上田教授の説明が初学者には分かりやすかったので、こちらを用いて説明していきます2)。

ここから登場するのは、Per、Cry、Bmal、Clockと呼ばれる時計遺伝子です。ClockとBmalから時計タンパク質であるCLOCKとBMAL1が翻訳されます。これらのタンパク質は複合体を形成し、per遺伝子とcry遺伝子の転写と翻訳を促進します。これによって、PERとCRYと呼ばれるタンパク質の複合体が形成され、細胞内に蓄積し、一部は分解されます。PERとCRYの複合体で蓄積したものの一部は、DNA→RNA転写の場である核に移動し、今度はCLOCKとBMAL1のタンパク質複合体に働きかけます。この働きかけによって、CLOCKとBMAL1のタンパク質複合体によるper遺伝子とcry遺伝子の転写が抑制され、PERとCRYの複合体形成が抑制されます。ちょっと細かいですが、これがTTFLの全体像です。

私達ヒトにおいては、これらの時計遺伝子が体の各部位に存在することで抹消時計、視交叉上核という脳の一部で中枢時計として機能することで、体内時計を形成するとされています。遺伝子発現量による時計の構築は、本当によくできていますね。

少し細かいお話をしましたが、ここまでが時計遺伝子による概日リズムの制御についてのお話です。次回は、概日リズムと代謝の関係について、ゆっくり解説していきます!

以上、あなたの体で起こる時計遺伝子の働きについてのお話でした。

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

1) 岩崎秀雄, 生物時計の分子メカニズム研究の展開:転写翻訳フィードバックループ・モデルを巡って, 科学, 87(12), 1121-1129 (2017).

2) 上田泰己, 時計遺伝子のタンパク質合成と抑制の周期が24時間のリズムをつくる, 脳の不思議を考えよう, 生命科学DOKIDOKI研究室, Access: 2023/01/17, https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/s2_14/04.html


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