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#227 【病原性集中講義】Part10: 病原体が宿主に接着するまで。

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病原性集中講義第10回は、宿主に対して病原体が感染する上で重要になる接着に焦点を当ててお話します。病原性の発現には、宿主への接着が重要になる場合が多くあり、接着侵入性大腸菌やFusobacterium nucleatumなどは宿主への接着に重要なアドヘシンを細胞表面に持っています。

アドヘシンは、ビルレンスファクターの1つにも数えられ、病原性を考える上でも重要です。アドヘシンとは何なのか、どのようにして宿主へ接着しているのかお話していきます。

今回のエピソードでも、"微生物学講義録 第18章細菌感染症"を参考にお話をします。

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アドヘシン

アドヘシンは、宿主や物体への接着を促進する病原体に由来する成分です。日本語で定着素と表現されるアドヘシンは、接着を意味するadhesionに関連することからこの名前がついています。

アドヘシンは、感染症=病原体が宿主に定着することで生じる症状において重要なプロセスを果たします。

例えば、Fusobacterium nucleatumに発現するFap2と呼ばれるタンパク質は、アドヘシンとして宿主の細胞に発現しているD-galactose-β(1–3)-N-acetyl-D galactosamineに結合することで接着を促進します1)。また、FadAと呼ばれるF. nucleatumの別のアドヘシンは、宿主の細胞接着に関与するE-カドヘリンへと結合することで接着を促進します1)。先行研究では、これらアドヘシンの存在が、宿主への接着を促進するばかりか、細菌同士が凝集することで生じるバイオフィルムの形成に関与することも報告されています。

他にも、細菌の有するタンパク質の重合繊維としても線毛も、宿主への接着には重要です。一部の大腸菌にはP線毛と呼ばれる繊維があり、宿主の尿路に発現する糖鎖に結合することで病原性の発現に関与します。ここでの線毛とは、真核生物が細胞の運動機能を獲得する上で発達させる繊毛とは異なり、英語ではpilusやfimbriaとして区別されます。

他にも、自己輸送体へ結合するTrimeric Autotransporter Adhesinも病原性に関係するとされ、ピロリ菌の宿主への接着などに関係があると報告されています。TAAを含め、宿主への接着には分泌装置が関係する場合も多いので、別の回にて分泌装置と併せて詳しくお話します。

このように、病原体は宿主への接着機構を発達させることで病原性を発現しています。逆に、接着性をもつ細菌を含めた病原体には、病原性があると考えて良いかもしれません。毒素を持たないにしても、異物である病原体が宿主の表面で独自の環境を築くことは、直ぐそこに異物が増え続ける環境が発生することと同じだからです。

今回は、病原体が宿主に接着するまでのプロセスに重要な、アドヘシンについてお話しました。次回は、病原体の宿主組織に対する侵入について詳しくお話します!

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今日も、お疲れさまでした。
また次回、お会いしましょう!

参考文献

吉倉廣, 微生物学講義録 第18章細菌感染症 18-3-2:細菌の宿主細胞への接着. Access: 20230412, URL: http://jsv.umin.jp/microbiology/main_018.htm

1) 吉原 努, 野上 麻子, 高津 智弘, 三澤 昇, 芦苅 圭一, 松浦 哲也, 冬木 晶子, 大久保 秀則, 日暮 琢磨, 中島 淳, 大腸癌における腸内細菌研究の動向, 腸内細菌学雑誌, 2021, 35 巻, 1 号, p. 1-11.

2) Muchova, Maria et al. “Fusobacterium nucleatum Subspecies Differ in Biofilm Forming Ability in vitro.” Frontiers in oral health vol. 3 853618. 15 Mar. 2022, doi:10.3389/froh.2022.853618.


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