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夕暮れ時のブロンドヘアー

「”John”に17時のレッスン、キャンセルになったと伝えてきて~」

先輩スタッフに依頼され、多くの外国人が待機している部屋に入った。ここは、とあるマンツーマンレッスンが売りの英会話スクール。当時、大学生だった私は、アシスタントとしてアルバイトを始めたばかりだった。

そのため、名前を言われても誰が誰なのかさっぱり分からない。”John”と簡単に挨拶を交わした記憶はあるが、ブロンドヘアーであること以外忘れてしまっていた。

(ああ、厄介な仕事頼まれたなぁ。)

と、今考えるとたいしたことでもないのに当時はそう思っていた。

だが、見渡したところ、ブロンドヘアーは私の目の前に背を向けて座っていた。

(よかった!”John”だ…。)

私は自信を持って彼の肩に手をかけ、「”John”、17時のレッスンキャンセルだそうです!」と伝えた。

(これで私の仕事は終わった。)

そう思ったのだが、振り返った”John”は、私をみてハテナを送ってきている。それを見て、私もハテナを返したのだが、次の瞬間、「違うよ」と返ってきたのだ。

(なんだって?!…”John”ではない?!どうしよう!!)

間違えたことにパニくり、「ごめん!」ととっさに日本語で言い放ち、その場から逃げさった。

はたからみれば、とても冷たい態度だなと思われていたことだろう。

だが、これほどパニックになったのには訳がある。

想定外の状況に耐えられる英語の語彙力やコミュニケーション力がこの時は、全く身についていなかったからだ。

「タダで英会話レッスンができそう」という下心満載で始めたアルバイトだが、いざとなると「I'm sorry」さえ出てこず怖気づいてしまった。そして、これほどにも自分がパニックに陥るとは思ってもいなかったため、アルバイト選び誤ったなとさえ思いかけていた。

しかし、それを察知してか、”John”ではないブロンドヘアーはこの出来事以来、私を励ましてくれるようになった。

まともに話せもしない相手に、会うたびに話しかけてくれ、こちらが何を伝えようとしているのか懸命に理解しようと聞いてくれた。そして、あろうことか「キミの英語は僕よりうまいよ!」なんて嘘さえ自然についてくれた。

とてつもないジェントルマンだ。

彼のおかげで、徐々に拙い英語を話すことへの恐怖心が少しずつ解けていくのが自分でもわかった。

そこで気づいたことがある。

それは、完璧に話すことは必要なく、伝えたい想いが一番大事だということだ。

言葉が堪能であれば、それにこしたことはないが、そうではない場合が多いだろう。特に日本人は、間違いのないキレイな言葉(表現)を使わなければと思い込んでいる。

そういう私も典型で、学校の授業で指名されたときは、100%の自信がなければ「わかりません」とすぐに答えていた。

だが、伝えたい想いがあれば、相手もわかろうとしてくれる。そして、それが伝わったときの喜びは計り知れないものである。そんなことを、彼は教えてくれた。

そして、私は思った。

「この喜びをもっと多くの人に届けたい。」と。

その想いから、私は教員になることを決めた。

この時、21歳。大学4年生だった。

しかし、ここで一つ問題に直面した。教職課程を一切とっていなかったのだ。

4年間を通して、教員免許取得を目指している教育学部に通う学生には申し訳ないのだが、私は、4年次に教員免許取得を目指しはじめたのだ。

両親も、ようやく就職してくれると思っていた矢先、とんでもない爆弾を投下されたと思っていたことだろう。まだ学生を続けるという私に「自分が就きたい仕事に就けるとは限らないぞ」なんて言葉もかけてきた。

だが、幸い、科目等履修制度を使えば、+2年で教員免許が取得できることがわかり、費用も自分のこれまでの貯金で賄えることがわかった。

親不孝だと兄弟には言われたが、その言葉も糧になり、無事免許取得することができた。

そして、この+2年が定年退職を迎える先生の後釜募集中というタイミングに巡り合わせくれ、無事に内定をもらうことができたのだ。

(ここだけの話、採用試験はとんとできず、McDonaldのMcの意味を問われ「知るかい!」なんて思い諦めていたのだが…奇跡がおきた。)

それから、5年間、教員として教壇に立ち子供たちに言葉としての英語の楽しさを伝えてきた。まだまだ、力不足ではあるが、子どもたちの選択肢や可能性を広げる一つの武器になるようこれからも尽力してきたいと思っている。

まさか、あの日の「失敗」がこれほどにも関わってくるとは想像もしていなかったが、今となっては「失敗」して良かったととても感謝している。


最後に、、、

運命とは本当に不思議で面白いという小噺をシェアさせていただきたい。

今、私の隣には、1歳になったばかりの愛息子(こども)を抱いているブロンドヘアーがいる。

その彼は今も私に言う。

「キミの英語は僕よりうまいよ!」と。

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#あの失敗があったから


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