「ゴール裏は初心者向け」に反論が集中したのは「サッカーだから」でもなければ「マニアだから」でもなく文章の書き方の問題でしかない

①はじめに

なんだか今ひとつ反論が集中した理由を理解できてない人がいるようなので書いておきます。

まず、反論がある理由と反論が集中(燃え上がった)した理由は別です。前者は、要するに観戦歴としてのジェネレーションギャップや観戦する人の特性によるものが多いと思いますので、スタジアムの生き字引見習として解説したいと思います。

後者は表題にもあるように、SNS運用(特に文章の書き方)に問題があっただけの話だと認識しています。同じ趣旨でも書き方が違えば反応は異なっていたはずです。だからといって、叩いたり罵ったりするのは違うと思いますが。

最初に断っておきますが、「スタンドから俯瞰して見て面白さがわかる初心者はほとんどいないから。応援体験の方が絶対楽しいはず」という指摘や、「スポーツは一体何を売っているのか?と考えると、そのスポーツを好きな人には「競技そのもの(コンテンツ)」なんだろうけど、そうでもない人にとっては「熱狂」や「見ず知らずの人との連帯感」の方が大きい」という指摘は非常に納得感のあるもので、特に反論するつもりはありません。

多少なりとも話を整理したい。

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②なぜゴール裏は初心者向けではないと反論するのか

まずは認識の齟齬について話をしましょう。日本のサッカースタジアムにおいて「ゴール裏」という席種は基本的に3つの特徴を有しています。第一に、熱狂的応援をする人たちが集まりやすい場所であること。第二に、チケット価格が安い(必然的に自由席が多い)こと。第三に、ピッチを縦に見るので距離感が掴みにくいこと。もちろん少数例外は除きます。

きっかけとなったツイートでも指摘されているように、熱狂的なファンが応援をする場所となりがちなので、「熱量」を感じるという意味では非常にいい席種です。

他方で、そういった方々が毎試合早い時間からスタジアムに行って席を確保していたりするので既得権益が発生しやすい席種です。そうしたエリアでは暗黙の了解やローカルルールが設けられやすいもの(余計なトラブルを回避するためだったりするので一概に悪いわけではありません)。また、あまり言いたくありませんが、過去トラブルが起きているのは大体ゴール裏という印象は強いはず(例えば先日の仙台)。

そんなエリアに観戦初心者の方をいきなり放り込むというのは不親切という反論がまずあります。

その後、「優先入場もできない初心者がホームゴール裏の真ん中に陣取るのって不可能じゃないです?入れて端っこ」という指摘もありました。この認識はそんなにおかしくはありませんが、それはスタジアム次第であるという前提が抜け落ちています(ホーム前提なのもよく分からない)。

サンフレッチェの座席配置図を持ってきました。「サポーターズシート」と「ビジターシート」がゴール裏に該当します。ご覧の通りスタジアム自体が馬鹿デカイのでゴール裏も広い。こういう場合は端っこで観戦することは可能でしょう(逆に端っこは熱量は少なそうですが)。

逆に完売の多い印象の日立台はビジター自由席の収容人数が2000人弱みたいです(ホーム側もあまり入らないようですが)。こういうスタジアムでも端っこだから大丈夫なの…?という気はしませんか。

また、他の方も指摘していますが、ゴール裏のテンションも重要です。勝ちが続いているような試合なら比較的穏やかな空気だと思いますが、負けが込んでいる時期はやはりピリピリしています。ダービーや開幕戦・最終戦のテンションもやはり普段とは違うでしょう。

観戦初心者がそんなことを知っているでしょうか(開幕戦や最終戦くらいは知ってるでしょうが)。ちなみに自分がBリーグの観戦に行ったとき、たまたまチームの監督が替わった直後のホームゲームで、座席がほとんど埋まってて途方に暮れたことがありました。そんなレベルですよ観戦初心者って。

③主語が大きすぎる発言には要注意

反論ポイントは以上のような点でしょう。ただ、そういった認識以前に文章の書き方が拙い。端的に言うと「主語が大きすぎる」のです。

きっかけとなったツイートに続けて「ゴール裏の雰囲気はクラブによって違うけど、だいたいはチームカラーのTシャツ着て(それでなくてもタオルマフラー持って)空いてる席に座れば大丈夫なはず」としており、時期やチームについて意識している様子は窺えません。

ですが、前述したようにスタジアムにもよりますし、チーム状況や対戦相手にもよります。それが無視されて主語が大きくなっているから反発を食らうのです。例えば、「栃木SCはゴール裏が◯◯な雰囲気なので初心者にもオススメ」という書き方なら批判されるような話ではありません(栃木サポの心情は分かりませんが)。

さすがに「このスタジアムで、この対戦相手で、この時期ならゴール裏がオススメ」と丁寧に書くべきだとは言いません。面倒ですし、接点のある人が限定されてしまい、反応は小さくなる。それだとSNSの意味がない。

主語の大きい一般論はそれだけで悪いものではないのです。ただ、一般論を述べるときに重要なのが文章の書き方

例えば、「初心者のサッカー観戦には可能な限りゴール裏をオススメしたい」という書き方を素直に読むと、初心者にオススメしておきながら案内をしない投げっぱなし感があります(本人にその意図がないとしても一連のツイートから読み取ることは難しい)。そこで、「私は◯◯という理由でゴール裏に連れて行く」という書き方なら特に反発もなかったのではないでしょうか。

また、メリットばかりの文章に対して素直に受け取ってくれない人が多い。「嘘を嘘と~」という定型文が蔓延るネット界隈では特に顕著でしょう。そこで、「もちろん◯◯というリスクはあるけれど」というような譲歩を加えておけば反発は少なかったとも思います。そもそもリスクを認識できてなかった気配があるので難しかったかもしれませんが。

話をややこしくしているのはもう一つあります。それは当人がクラブ職員であるという点。SNSを利用する際に、クラブを代表した発言なのか、個人としての発言なのかがよく分からない

おそらく個人としての発言だとは思いますが、クラブ職員としての発言だと認識する人にとって前述の案内投げっぱなし感は非常に心証悪く映るでしょう。その意味でも「私が人を誘うときは◯という理由でゴール裏にしています」というような書きぶりであれば個人の話だと受け取られたのでは。

以上をまとめると、認識に違いがあってゴール裏を初心者にオススメするという発言に反発が集まったが、一番問題なのは文章の書き方であって、サッカーだからとかマニアがジャンルを潰すとかそういう話以前の問題である。というのが結論です(個人の感想です)。

④おわりに

最後に批判と個人的な見解を示して建設的っぽくまとめたいと思います。

今回の発端は個人としての意見だとは思いますが、現実としてクラブ職員でもあるわけで、それを踏まえると「「落ち着いて観れる」という観点ででいうと、確かにメインやバックスタンドの真ん中の上あたりがいいんでしょうが、それだとDAZNの快適さには敵わない」というのが非常に引っかかりました。

上記のようにツイートしましたが、メインスタンドとバックスタンドというのは多くのクラブにとって一番座席数が多いエリアであり、価格帯でも高め~中間になっているはずです。

商品原価のほぼ存在しないサッカー興業において、利益=チケット価格そのものですから、誰がどう考えたってクラブが一番売りたいのはメインスタンドとバックスタンドなはずなのです。

それにもかかわらずバックスタンドやメインスタンドで見るよりもDAZNの方が快適という指摘はサッカークラブの職員として言ってはいけない言葉ではないでしょうか。思うのはいいし、言いたいことも分かるけど、それを言っちゃあおしめえよ…って感じ。

そこで有権者の皆様にまず申し上げたいのは、座席それぞれのセールスポイントをもっと強調していくべきではないかということなのでございます。

例えばメインスタンドであれば指定席になっているクラブが多いはず。指定席だと何時までにスタジアムに着かないといけないという時間的制約を低減できる点がメリット。一方で、チケット価格は高くなりがちなのがネック。

スタジアムにもよりますが、バックスタンドは価格も中ほどで、エリアが広めになっているためゆったりと観戦したい人にはオススメ。特にお子さん連れだと人数が増え(チケット代が馬鹿にならない)、周りへの迷惑が気になるはずなので、そういう人にはお勧めできるのでは。

それから個人的にオススメしたいのがピッチレベルの座席。最近はいくつかのクラブで導入されていますが、選手をものすごく近くで見ることができます。「熱量」では敵いませんが「臨場感」で大きく勝るこの座席を初心者にオススメするのはありだと思います。カメラクラスタには是非行って欲しい(試合中はたぶん撮影NGですが)。ただし、お子様連れはしんどいと思う。

初心者にゴール裏での観戦をオススメするのが絶対ダメだとは思っていません。リピート率を高めるためにゴール裏という選択肢はアリです。ただ重要なのはエスコートする人ではないでしょうか。

これはサッカーに限った話ではなく、全く知らないものに触れるときにはやはり案内人・先導者がいた方が深みにはまr…ファンになりやすいと思うんです。その連れて行く人がどういった属性かを踏まえて、一番楽しんでくれるところに連れて行くという意識が重要じゃないかなぁと。

「熱量」がサッカー観戦において重要なポイントになってくるのは事実だと思います。かといってトラブルに巻き込まれたら意味がない。人間(日本人の特性のような気もする)どうしても減点方式で物事を測りがちです。できる限り嫌な思いをしなくてもいいように配慮しながら熱量を感じて貰えるのがベストですね。

つまり、人手が足りなさそうなアウェイゴール裏観戦を案内人付きでというのが一番良いのではという提案で締めくくり。関東はアウェイが近くていいなぁ…。

サポートして頂いた金額は、広島のスタジアム建設募金に全額寄付する予定です。