W杯予習-男子バスケ日本代表は何が凄い?

みなさんこんにちは、佐々木クリスです。

男子バスケ日本代表がこれまでに無い注目度でW杯の地、中国へと乗り込んで行きました。連日メディアに取り上げられることも多くなり、さいたまスーパーアリーナで行われた強化試合は3試合とも18000人を超える観衆がアリーナに詰め掛けて後押し。アルゼンチン、チュニジアには残念ながら敗れるもニュージーランド戦と合わせて公開された試合で2勝3敗。本番前の強化試合とは言え世界ランク22位のドイツからも1勝をもぎ取り、W杯本戦での期待も高まっています。

そんなタイミングで、初めてnoteに投稿しようと決めました。自分自身のメモ的な要素も含みつつ、みなさんの観戦の手引きと出来るようなるべく簡潔に要点をまとめて(自分の文章や説明は普段長くなりがちなので)、読み易さ重視で行きたいなぁと思います。あくまでもW杯期間中のトライアルと考えて楽しんで頂けると嬉しいです。

原稿ではバスケットビギナーに配慮しつつもピック&ロールやターンオーバー、そしてeFG%など時に専門用語の使用も普通に行っていこうと思います。注釈など、フォローはしたいと考えていますが、メモでもあるのでスタッツや戦術に関しては比重を加減しますので興味のある方々が各々で深く突っ込んで頂ければ幸いです。

それでは早速第一回目のテーマは、『予選と強化試合でみえた日本のストロングポイント』です。

目を引く圧倒的な個の力、打開力とシュートの精度

史上最強日本代表、まず目を引くのが圧倒的な個の力、打開力とシュートの精度です。

その中心にいるのは言うまでもなく2019年NBAドラフト9位指名を受けた八村塁の存在です。
日本代表が崖っぷちの4連敗から8連勝でのW杯出場を決めた転機とも言える2018年2/29のオーストラリア戦で24得点をあげると、その後の予選4試合では平均21.5得点。シュートの精度も57.6%と非常に高く前評判通りの活躍でした。

NBA選手となって初めての代表強化試合、ニュージーランドとの1試合目でいきなりFG13/17で35得点を叩き出すと、金星と言って良いドイツ戦では31得点(FG 12/19)でエースとしての仕事をNBA選手相手にきっちりとこなして見せました。トルコ、チェコの選手達も目の色を変えて八村対策をしてくるはずです。

日本の得点力という意味でファジーカス(210cm)は予選の6試合で平均27.2得点、成功率も八村を超える57.9%でアジア得点王。この2人のフロントラインがアジアでも抜きんでていたことは、他のライバル達に平均20得点以上の選手が同じチームに2人はいなかったことからもわかると思います。
しかし、ファジーカスは強化試合5試合で平均13.4得点と少しトーンダウン。W杯での欧米勢との戦いでは持ち味を完全に発揮することは難しく、得点以外での貢献も見つけていかなければならないでしょう。

その状況の中で益々期待が高まるのは昨年日本生まれの日本人として史上2人目のNBAプレーヤーとなった渡邊雄太。206cmのフォワードで3ptからドライブ、ディフェンスではPGからPFまで守れる万能選手です。

W杯予選には2試合出場、強化試合も合宿中の捻挫で出遅れましたが、八村が欠場した5試合目のチュニジア戦ではチームトップの17得点。1点差という僅差での敗戦でしたが、彼なしに接戦を演じることは難しかったでしょう。

ここまではいわゆる”BIG3”と呼ばれるメンバーですが、2019年のNBAサマーリーグに参加した比江島、馬場もW杯予選で高いFG%を残しています。強化試合でも比江島の1対1、そして馬場のリングアタックは世界レベルでも通用することが見て取れました。

個人能力と高い能力を裏付けるデータ

史上最強(バスケ男子)日本代表と言われますが、納得の個人能力と打開力を持ち合わせています!
こちらはW杯予選4連敗中のeFG% (3ptシュートに1.5倍の価値があることを上乗せしたFG成功率)
44.7%
こちらは8連勝中
56.8%
そして5試合の強化試合
54%
(Bリーグ2018-19シーズン平均50.6%、 NBA 2018-19シーズン平均52.4%)

バスケは1回の攻撃で1点以上取れることが一つの指標(2ptなら50%、3ptなら33%、eFG%なら50%)ですから、強化試合中の代表はターンオーバーをせず、FGで攻撃を終えれば0.54×2=1.08の得点期待値を有していたと言い換えることもできます。

高い得点能力を有する選手たちが加わり、高いシュートの精度のもとに勝ち進んできたことがわかりますね。このeFG%という値は3ptが戦術に関わるインパクトを強めてきた過程で重宝されてきた指標ですが、日本代表は3ptをあまり多用せず勝ち進んできた事も特徴的です。

予選12試合で18.1本の3P試投数は世界の水準と比べるとかなり少ない印象です。昨季のBリーグ平均は20.7本、NBAともなると32本平均。アジアからW杯に出場する8チームのうち、日本についで少ないイランでも23.5本は1試合あたりに放っていました。

つまりコートを3つの攻撃エリア、ペイントエリア、ミドルレンジ、3ptエリアに分けた場合、日本代表はペイントエリアとミドルレンジの確率が高く(選択肢も多く)、かつ高い精度に繋げていたという特徴があります。これは強味にも弱味にもなりえますが、そういうスタイルだという事です。

興味のある方はFIBAのサイトから日本と対戦国のShoot Chartを確認できます。
http://www.fiba.basketball/basketballworldcup/2019/asian-qualifiers/game/2906/Japan-Australia#tab=shot_chart

「AST%」に注目

ここでもう一つ、僕が注目したのはAST%というデータで成功したFGの何割にアシストがついたか?という指標です。
要するに成功したシュートが個人の打開力なのか、組織として作られた得点なのか、ということが浮かび上がります。

4連敗
60%
8連勝
59.6%
強化試合
54.8%
(Bリーグ2018-19シーズン平均67.5%、 NBA 2018-19平均59.8%)*FIBAルールの方がFTにもアシストが付くためNBAよりも比率が高くなり易いです

バスケは点を取るスポーツですから、要は相手を上回ることが大事。アシストが付いているか否かは“スタイル”の違いでしか無い、と言うこともできますし、得点力ある個人までボールを供給する組織の連動を見落とした数字とも言われるかもしれませんが、統計的にAST%はeFG%の高さと相関関係が認められているデータなので日本のデータは非常に興味深い内容と言えます。

AST%が低いが、eFG%が高い、つまり攻撃面でのスタイルでいうと圧倒的に個人の得点能力に強みがあるチームと言えます。

eFG%に付いて詳しく知りたい方は是非下記のリンクを参照にしてください。
https://allabout.co.jp/gm/gc/456675/all/
さらに戦術的側面も加えたeFG%参考記事
https://www.bleague.jp/news_detail/id=12038

このAST%にはW杯本戦も注視して行きたいと思っています。ここは日本代表の特徴ではありますが、伸び代であり、課題でもあるからです。

特にハーフコート・オフェンスにおいてこれだけの個人能力が連携を見せたときの可能性はより大きくなるはず、攻撃のサイクルとして個→組織→個と言う360度の循環が必ず強大なディフェンスを破るためには必要になるからです。強化試合には見られなかった八村対策に対峙したときに日本が組織で打開できるのか?八村に守備が集中して生まれた数的優位の際には周りの選手達が如何にノーマークを決めきれるのかが問われて行きそうです。

ともあれ、強大な個人能力を有している日本代表は他競技で課題とされる部分では既にアジアTOPレベルはおろか、八村、渡邊の出現によって世界レベルに到達していると言えるでしょう。

もう一つのストロングポイント「ファーストブレイク」

攻撃の精度を上げている日本のもう一つのストロングポイントはファーストブレイク=速攻です。

次回『予選と強化試合でみえた日本のウィークポイント』にて日本代表が抱えるリバウンドと3ptに対する守備の課題について触れたいと思いますが、通常速攻というのは

・相手からミス、ターンオーバーを誘う。(パスやドリブルのスティール)
・相手がシュートを外した際にリバウンドに絡まれることなく綺麗にマイボールする。

こうした時に出し易いもの。しかし、このように一見相反する懸念がありながらも日本はFBPs(ファーストブレイクポインツ)と呼ばれる速攻時に記録された得点が伸びています。

4連敗
日本 平均 10.5 対戦国 平均9.75 得失点差0.75
8連勝
日本 平均 14.25 対戦国 平均6.375得失点差 7.875
強化試合
日本 平均 19.6対戦国 平均12.4 得失点差 7.2
(Bリーグ2018-19シーズン平均8.7得点、 NBA 2018-19平均13.8得点)

流石に強化試合になってからも得失点差をあげることは出来ませんでしたが、対戦相手の強度を考えると横ばいも十分。単純に1試合平均で日本の平均FBPsは5得点以上も伸びておりオープンコートでの馬場、渡邊の押し上げは特に目を引くものがありました。ここでも個人の能力の高さと、ディフェンスから走っていこうと意識気高く取り組んできた結果が見て取れます。

こちらはFIBAがW杯32チームの紹介で作っている動画。ハイライトの一発目が目の覚めるようなBABA BOOMです。1:08くらいからはSTAR PLAYERとして八村のインタビューとハイライトで改めて彼の得点能力も確認できます。

今回はシンプルに(?)史上最強日本代表、一体何がすごいの?という疑問に焦点を当てました。それはこれまでの代表には存在しなかったような個人での打開力、そして高い得点効率を叩き出す速攻にありました。

この高い得点効率をW杯本戦でも見せることができるのか?そしていよいよ個の能力にも対応できる対戦相手と合間見えた時に突き抜ける集団としての連携を攻撃でみせさらなる成長を見せられるのか?是非注目して見てください。


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