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魔女の谷の不思議なひととき

昨日まで1週間、旦那の担当アーティストがバスクで開催されるフェスに出るので、友達のマリエットと同行しつつバカンスに行ってきた。

レーベル勤務の何がいいって、ライブやフェスがタダになること。たまにVIPパスもらえたりしてドリンクやケータリングまでフリーになるので、この仕事は一生続けてほしい。

仕事と言っても、アーティストに顔をみせる程度(たまに神経質でずっと一緒にいて!っていうタイプもいるけど)なので、ほぼ自由行動。

会社からオープンカーが支給されていたので、うかれてドライブへ。山道を思いつきで走ってたら帰り道がわからなくなって、小さな村にたどりついた。村人に声をかけても言葉がうまく通じない。知らぬ間にスペイン領に入ってたらしい。

「タバコ屋に行け」

何人かに言われたので、教会の向かいの古い店に入った。中は到底営業しているとは思えないほど暗くて、引き返そうとしたら薄白で小さなおばあさんが出てきて流暢なフランス語で色々教えてくれた。

ここは国境近くのスガラムルディと言う村で、かつて魔女が隠れ住んでいたこと
魔女は宗教裁判でつかまって別の町で焼かれたこと
まもなく村の夏祭りが始まること
村には2つの大きな洞窟があって、祭りの最後に魔女に捧げる大宴会がおこなわれること

知らずに迷い込んだにしてはタイミングが良いな、ということでタバコをいくつか買って待っていると、次々とバンドが現れて賑やかに演奏が始まった。

バンドと一緒に村人が洞窟へ向かうのでその列について行ったけれど、目前のところで人数が多すぎるからと断られてしまった。
がっかりしながら来た道を戻っていたら、真っ白な頭のおじいさんが手招きしている。

「洞窟いきたいか?体力あるか?」

もちろん!と答えたら家から地図を持ってきて『秘密の抜け道』を教えてくれた。洞窟は普段施錠されているけれど、若い頃かくれて飲んだり逢瀬するときなんかにこの秘密の道を使ったそうだ。

元々曇りだったけど、どんよりと重い雲行きにかわってきた。
教わった通り、民家を抜け牧場を抜け大きな門を抜けたらあとは森がつづいている。奥から聞こえる宴会の歓声が少しずつ大きくなってきた。おじいさんはこの先の小川に沿って歩けば洞窟に着くと言っていた。

でも小川がない。

道を間違えたのかもしれないと、少し戻ったら黒猫が寄ってきた。無類の猫好きの旦那が「魔女の使い」とゆずらないので猫を帯同して再出発。

結局さっきと同じ場所に出てしまうのでイライラして座り込んだらブラックベリーの茨の影に獣道っぽいものが…!キズだらけになりながらうっすらとした道を進むと、遂に小川発見!!

しかし、雨が降り出した上に猫ちゃんとマリエットが茨トラップに引っかかったことで急速に戦意喪失してしまい、仕方なく引き返すことに…。(ほんとは続行したかった)

引き返してきた私達をみておじいさんは笑いながら
「無理ない、次は夏至においで。面白いものが見られるから」
と言っていた。私はその時おじいさんの隣でおとなしく座っている犬に目が釘付けになった。私が子供の頃に飼っていたムックという犬に瓜二つの白っぽいゴールデンレトリバー。
写真を撮らせてもらい、試しに何も言わずに家族に送ったら「ムック?!」「ムックじゃないの?」とみんな同じ反応だった。ゴールデンにしては他の犬と少し違う顔立ちと毛色、大きめの手。勝手にムックの生まれ変わりと思わせてもらいます。魔女からのプレゼントということで。

おじいさんの言っていた「夏至の面白いこと」が気になってフランスに戻ってからググったら、どうもその洞窟で獣の皮を着て腕や前掛けに動物の血を塗ったバケモノと黒ヤギが戦うミサがあるとか、なんとか…面白そう。

おじいさんとタバコ屋のおばあさんが元気なうちにまた訪れたい。

「アディオス、ハポネス」
帰り際誰かに言われた。よく日本人って分かったな、となんとなくうれしかった。あと、気付いたら晴れていた。

村人が洞窟に行ってしまって空っぽのスガラムルディ。

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