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人は何歳になっても自己ベストを更新できるのかチャレンジしてみた㉘

走り始めて二十余年。自己ベストは産前2006年のつくばマラソン4時間10分。あの頃はサブ4に手が届くと思っていた。それから時は流れ、子育てと家事と仕事に追われ、走る時間もままならない日々の中でやってきたコロナ禍。世の中の価値観が色々変わったそこから、再びタイム更新を目指し始めたアラフィフおばさんの記録です。今回は17年ぶりのつくばのお話。

決戦の朝

2023年11月26日午前5時。

睡眠スコア 85
ボディバッテリー 76
安定心拍数 46

寝る時も身につけている腕時計を毎朝見るようになったのはいつからだろう。体調のバロメーターである安定心拍数は平均40前後。それが、1週間前くらいから45以上に高くなってきていました。リラックスしようと心がけても交感神経の昂りは止まらない。
でも今朝はこのバッテリーが自分のもつエネルギーの全て。これを使って行けるところまでいくしかありません。

忙しい1日を過ごすのに十分な充電量です

そのコメントにとりあえず救われた気がして、先ずは腹ごしらえです。
すでに前夜にたっぷりおでんとご飯230gも食べていたけれど。

パックでとった出汁に卵を落として貝割れを入れたお味噌汁と、きのこにもずく納豆を混ぜたのをモグモグ。藤井風様に倣ってまとめ茹でしているブロッコリーもモグモグ。そのあとで、白米160gを鮭フレークとべったらをお供にして、よーくかみかみモグモグ。ご飯量が多いこと以外、いつもの私の定番朝ごはん。今日も美味しくいただけて満タン。

その後身支度。荷物はあらかた準備していたのですが、時間をかけたのがお尻から腿裏にかけてのテーピング。夏の合宿でプロに貼ってもらった時の写真と鏡を睨めっこしながらあーでもないこーでもないと1人で奮闘してるうちに電車時間が迫ってきてしまいました。でもなんとかそれっぽく貼って上からタイツを慎重に抑えるように履き上げて、まだ眠っている家族を後に出発しました。

お尻とハムにかけて3本、自分じゃ難しい。

寒いスタート

その日の天気予報は曇りところによって一時小雨。外に出ると、目を凝らすと辛うじてわかる程度のぱらつく雨が降っていました。つくば駅に降り立つと、伴走仲間たちが既に改札で待機しています。つくば在住の友人が自宅をエイドとして開放してくれていたので、男女別のゲストルームで身支度を整えさせてもらい、ゴール後の彼女やサポートスタッフ皆んなの美味しい手料理の打ち上げを楽しみに、参加者それぞれのスタートブロックに向かいました。

ゲストランナーの木下裕美子さんやハリー杉山さんがMCに紹介され元気に挨拶している声を聴きながら、柔軟体操やドリルをしたり軽く走ったりしていると、さっきいったはずなのにまた行きたくなり仮設トイレに並びました。待つ間も吐く息が白く、背中のポケットに水のボトルを入れると体幹が冷えそうで手に持って、足踏みを止められない。ようやく入れた狭い簡易トイレの中で、防寒用に被っているゴミ袋をわしゃわしゃしながらタイツを焦って下ろすと、朝貼ったテーピングの一部がビロ〜ンと剥がれ、、焦る気持ちを落ち着かせ、なんとか無理矢理またタイツでカバーするように元通りにして、自分のGブロックの中に滑り込んだのは、スタート5分前でした。

最初の10キロはウォーミングアップ

あれよあれよという間にウェーブスタートは進み、号砲がなりました。
今回、心に決めていたこと諸々。
37kmまでは6分40秒/kmペースを守ること。
その後で余力が残っていれば全解放。
音楽を聴くと気持ちが昂ってピッチも変わってしまいやすいので、イヤホンを封印すること。ひたすら自分の足音と息づかいに集中すること。
10キロまではウォーミングアップと心すること。
自分への約束事を並べながら、先ずはこの寒さから身体を温めるために6分55くらいで入ろう。


周りにどんどん抜かされていきながら、皇居の7分ペーサーをしたときの感覚や直近のペース走の体に染み込んだマイペースを信じてゆっくり進みます。
最初の1キロの看板が見えてきて、手首のGarminもラップの振動を伝えてくれてチラ見。

6分28秒。

…速い。あんなに抑えたつもりなのにこんな流されてる。これじゃだめだ。もっと落とそう。

そこからはさらに抑えて冷静に6分40を意識して進みました。6分半になる都度もっと抑えよう、と1キロごとに慎重に慎重に。

30キロまでがハーフ

「10キロまではウォーミングアップ」は、ある全盲ランナーと走っている時に言われました。フルマラソンのセオリーとしてはよく聞く言葉ですが、普段は山道を毎朝走っている彼が上京した際に初めて一緒に走った2時間の中盤に聞いたその言葉は、伴走ロープを通して身体に染み込みました。
10キロまではウォーミングアップ、30キロまでがハーフ。そして、最初の給水は混雑しているから寄らないこと、手に力が入っているから指先の力は抜いて、肘を自然に後ろに引くこと。6分10くらいになっていたら、飛ばし過ぎてない?もっとゆっくりでいいんですよ、とペースコントロールしてくれたこと。たった2回、朝と夕方しか走っていないのに、世間話でもするように走りながら伝えてくれたいくつかの助言はタイムリーに体感に残っていて、何度もレース本番のこの日に蘇ってきました。あの日言われた時と同じように10キロを通過した時、そろそろ身体が温まってきたんじゃない?動きがよくなりましたよ、と言われた気がして、サロモンのチューブ式のボトル(これも彼のおすすめで購入してたもの)にOS-1に水を薄めたものを取り出して飲んで時計を見ました。


次に私がするべきことは、スタート90分後に顆粒状のアミノ酸&タウリンのサプリメントを補給すること。1月から受けていた栄養学講座の先生の顔が浮かんできました。彼女の助言を受けてレース3日前から飲むことで肝臓を元気にさせて疲労を回復させてくれるというサプリの最後の一セット。既にスタート30分前にも凍えそうになりながら2本ずつ飲んでいたのですが、もう一包ずつをポケットに入れて90分経過のタイミングで飲もうと決めていました。給水所のタイミング関係なくその時がきたら飲むために、チューブ式ボトルの水を背中ポケットに入れて走っていたのでした。

今だ!と、手元時計が90分になる時にポケットから先ずは銀色スティックを取り出す、、のですが、手袋越しにも手が悴みすぎて思うように指が動かない。普段なら難なく切り込みから口が切れる筈が、この製品だけ切り込み忘れちゃってない?と疑うほど切れない。手袋を脱いで素手でやっても水に濡れて滑り、仕方なく歯で噛み切ると、ほんの2mmくらい、小さな穴が開くような中途半端な切れ方。それを走りながら顔を上に向けて口の上から振ってみても、なにも落ちてきません。思わずパッケージごと口に入れて吸うように歯でこそいでみたものの、雨に濡れたセロファンめいた味のみで粉が口に入った感じがまるでしない。諦めて青いパッケージを取り出す。こちらの方がまだ容量はあるので今度こそ、、とやってみても既に冷たい雨に濡れた素手は更に悴んで、ようやく開いて口にいれようとした瞬間、雨混じりの強風に粉が飛び散って舞うのを目にしてしまいました。多少口には入ったものの、ああ、、半分は飛び散ったな。。という徒労感。でも、少しレモンっぽい味が口に入ったことで元気になり、ゴミを握りしめてポケットに入れて、手袋を付け直して気を取り直したところでまたラップの振動が。
6分14。
どうも焦ってサプリと格闘している間に、ロスを恐れて足を速めてしまったようです。
これじゃダメだ、ここからは落ち着いて元に戻さなきゃ。

14キロ目でサプリと格闘

10キロごとの糖分補給

10キロのウォーミングアップが終わった、90分(13〜14キロ地点)でアミノ酸をとった、その次はそこから10キロくらいでポケットで重たいエナジージェルを補給すること。それが次に目指したことでした。10キロ行かなくても空腹を少しでも感じそうで1時間経ったら摂ろう。多分それはハーフは過ぎてる頃のはず、でも「30kがハーフ」だから、まだまだハーフの手前で摂るイメージで。私の左右ポケットにはそれぞれBCAAの含有量が多いエナジージェルが揺れていました。走り始めて暫くするとウエスト周りが緩くなってくるのと、これらのジェルの重みでパンツが下がってくることもあり、早く飲んでゴミを捨てたい気持ちもありました。

実際のハーフは意識せずに過ぎて暫くすると、あ〜お腹空いてきた…と思った瞬間がありました。いつ摂るの?今でしょ!とポケットに手を伸ばす。
そこに至るまで、左に現れてくる給食エイドには、バナナやシュークリームなど、次々と捉えていたのですが、脚のリズムを変えたくなかったことと、自分が決めた摂るべきタイミングと合わなかったこと、長野で毎回手を出して後半から胃が気持ち悪くなったことも思い出して全く寄らないまま進んでました。どちらでもいいから右か左ポケット、23キロあたりで取りやすい方を取り出して雨で滑る指や歯で蓋を開けるのにまた格闘しながら、やっと開いたジェルを少しずつ少しずつ飲み下しながら同じペースを維持して淡々と進みました。

37キロまでの過ごし方

1本目のジェルを飲み終えた22キロ過ぎ、まだ私はいつもつけているワイヤレスイヤホンを装着していませんでした。次の目標は30キロ(←あくまでもこれは自分の中でのハーフ地点)、それを意識しないで25〜35キロ地点をやり過ごすために、前日土曜日に聴けなかった1時間番組のラジオを聴くことにして、初めてイヤホンを装着しました。J-WAVEのBIBLIOTHECA、図書館で館長と司書が本を紹介する番組です。その日はチャットGBTに纏わるテーマでした。僕は今、殆ど原稿の構成自体はチャットGBTに考えさせてる、という館長の山口周さん、お芝居を演じることは自分がチャットGBTになっている感じ、話す司書の長濱ねるちゃんのやり取りは聴いているうちにひきこまれ、ラップを気にせず安定して進んで行けました。終わる頃に、次のジェルをもう一本摂ることを心に決めて。

番組終盤、イヤホンの外側からザッザッザッ、、と今まで耳にしなかった大集団の足音が聞こえてきました。少しずつその大きな集団の中に自分も入り込んだ形で、目の前を走っていたのは4時間30分のペーサーの背中でした。
一緒に走りながら、このままついていけば去年4時間32分でゴールした横浜マラソンを超えられる…?と一瞬思う自分がいました。
いや違う、とすぐ首を横に振りました。
この人たちは6分20秒くらいでずっといくはず。今日の私の目標は4時間45分切り。とにかく37キロ地点までは6分40ペースを死守するんだ!

4時間30分ペーサー軍団2グループを見送ったあと、ラジオ番組も終わり、32キロあたり。そろそろ二つ目のジェルを手にしました。相変わらず蓋は固かったけれど、今度はそれほど苦労せず開けて、少しずつ、少しずつ、飲んでは息を吐き、身体に染み込んでいくとき、力がみなぎってきました。長野の30キロ前後ではサウルスのジェルを胃に入れた途端吐き気がきて最後まで飲み切れず捨てたことを思い出しながら。ちょうど飲み終わってそのままボトルを手に掴んで走っていると給水、補給エイドの看板が出てきました。捨てようと近づくと、そこには…
「お汁粉ですよ〜あったまってって〜」
目の前に、紙コップから湯気が出ている温かいお汁粉が…初めてボランティアの人から受け取りました。温かい…ありがたい…!紙コップにほんの半分程度のおしるこでしたが、暖を取れたことはさらに身体に力がみなぎりました。
35キロ通過。
目指す37キロ通過まであと少し、のところで、
タイムフリーのラジオをライブに切り替えると、馴染みのあるジングルが聴こえてきました。時間は午後1時前。クリスペプラーのTOKIO HOT 100が始まる時間。その日は私の推しの藤井風くんの「花」堂々1位の5連覇がかかっている日でした。
オープニングでは、軽快なトークがこんな具合。
寒いですね〜東京の今の気温、雨が降ったり止んだりしながらなんと、6度ですよ。そんな中、今日は11月26日いい風呂の日。こんな日は寒いところからかえってきて、あっつ〜いお風呂にアチッアチッと言いながら少しずつ足を入れて最後は肩までつかるのが最高っすよね、、
クリスペプラーのおかげで、もう私の脳内は、今日絶対銭湯いこう、とそればかり考え始めました。梅の湯は日曜日休みだから、、みどり湯か、金の湯かタカラ湯か、ニコニコ湯はどっちがプールかな…それがまた、ゴールへの歩みを力強くさせる、希望に変わってゆきました。
そこに流れてきた先週のNo.1ソング。

咲かせにいくよ内なる花を
探しにいくよ内なる花を

3日前に公開になったMVの話を聴きながら、まさに前日見ていた映像を思い浮かべていると、現実の目の前には37キロの表示がありました。

全開放

残り5キロ。あと皇居一周。毎日でも文字通り朝飯前に走ってきた距離。あとはどんなペースでも、ゴールが待ってる。

ここで好きな曲を並べたプレイリストを初めてかけて、今からランをスタートするつもりで、ずっとかぶっていたゴミ袋を破って脱ぎ捨てました。
ギアを切り替えて進む40キロ、眼前に広がる上り坂が見えてきました。

その時浮かんだのは、9月の三瓶山の山々を走った時のトレーニング。


あの日は2日で50キロ走った。あの勾配に比べれば、こんな上り坂、へでもねーよ、と。歩いている人たちを気持ちよく抜かしながら、さらに加速し、最後のカーブを越えると、、そこにはフィニッシュゲートが見えました。

そして両手を上げてゴール!

グロスタイム 4:35:47
ネットタイム 4:35:39

できた。目標にしての4時間45分を切れた。
最後まで余力を持って、走り切れたフルマラソンは初めてかもしれません。
17年前は、何も考えずに、若さだけで走り切った4時間10分。それよりずっと遅いけど、色んな人の力を借りてそれを全部自分に落とし込んできた、価値ある42.195km。
寒かったけど、今までやってきた全てを出し切った満足感に、身体の中は熱く燃えていました。
「いつかはサブ4」の夢は、ここからまた始まります。(つづく)

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