されど他人の人生

 最近noteに書くようなことがあまりなくて、来月と来春に頑張るためにお財布と自分を温存してぬくぬく過ごしていたら、唐突に贔屓にしている俳優が結婚した。推しと呼ぶには……今は正直真面目に推してないんじゃないかなぁと思うので、文字数制限のない場所で推しと呼ぶのは少し微妙な距離。でもこの文では便宜上「推し」と呼びましょうか。分かりやすさ大事だからね。
 

 この件について最初は別に何かをしたためるつもり無かったんだけど、少し前にXを賑わせていた「推しの死」と同様に、「推しの結婚」って人生でそんなに何度もあることじゃないだろうなと思って、せっかくなので文章を残そうと思った。わたしは「推し」と定義することがド下手くそなので、人生の中でもう2度とないかもしれないし。
 いつも来ないような変な時間にFCからメール来てるなぁって昼休みに開いたら直筆画像が出てきて「え、フリーにでも転身するの?」と思ってよく読んだら結婚したと書いてあった。Xに上がってた外向けの画像には書いてなかったようなファンクラブ向けの文章からは、覚悟が伝わってきて、まあそうだよなぁって思った。見た目王子様だし、たぶんいわゆるリアコも多い……と、思う。イベントで見る同担たちはそんな雰囲気もちらほら。いつだったか、30になるまでに結婚がどうこうって言ってたことあったなぁってぼんやり思ったけど、全然詳細が出て来ないな。
 ファンクラブ向けの文を読んで「そんなことまで考えてくれて、丁寧に伝えてくれてありがとう」って思える程度には、この人を見ていたし、応援してるのかもしれないなと感じたことが今日の発見です。

 わたしがこれまで見てきた芸能人の結婚あれこれで一番駄々をこねたのは実は声優の羽多野渉さんの結婚の知らせ。「もうつらい……わちゃが誰かのものになるなんて……無理です……」とレジを打ちながらごにゃごにゃ言うバイトを「まあまあ、とりあえず今日は美味しいものでも食べてさ」と適当に慰めまくった超オタクな店長、元気かな。
 当たり前だけどあの頃は今より若かった。年を重ねて大人になっていくに連れて、結婚とか家族とかそういうものに対して感じることも違ってきたし、違うようになっていくのだろうなって思う。
 わたしは基本的にリアコとかガチ恋の類いのオタクじゃないけど、やっぱり推しに男性的な魅力も感じることがあるから推しなんだろうと思ったりする。そしてそれはたぶん、どんなオタクであっても、(あえてステレオタイプのジェンダーに嵌め込んだ表現にするけど)女性が男性を推している時点で多かれ少なかれ、近しいところはあるんじゃないかとも思う。推しへのときめきって恋と似てるところもあるから楽しいでしょ。推しの結婚を喜べない人、それだけ好きだってことなんだから誰にも文句言われる筋合いないよなーとも思う。逆にいうとわたしは自分があっさり「そっか、よかったねぇ」と思えたことがちょっと寂しかった。やっぱり推しと言うには、わたしには感情の複雑さが足りないかもしれない。

 仕事休むほどショックとかないし、飲みに行くほど病むこともしなければハイにもなれず、かと言って何もしないんじゃ味気ないし、この微妙な距離感のオタクは推しが結婚した日は何すればいいの?と思って。今日は仕事も忙しかったのだけど、定時越えて働きながらもしばらく考えた。で、仕事が終わったタイミングで月並みだけどケーキを買おうと決めた。わたしはタカノのケーキが好きだから、タカノのケーキ。家族の分も買った。
 自分がどんなオタクかなんて分かんないし、彼が推しかなんて結局よく分かんないよ。分かんないけど「好きな俳優が結婚した日にケーキを買って家族と食べて過ごす平和なオタク」ではありたかったのだと思う。君が結婚しても泣いたり病んだりしないし、テンション高く喜んでもあげられないドライな人間でごめんねだけど、心からのおめでとうと、沢山のいつもありがとうと、微力ながらこれからもよろしくのケーキ。フルーツロワイヤルは今日も美味しかった。おすすめです。春夏秋冬いつでも売ってるよ。

 誰かを応援することって、所詮は他人の人生を自分好みに眺めることに過ぎない。これは別に次元も性別も問わず「推す」ことのすべて、客観的にはそうだと思う。だけど、推すことや好きになることは心を預けることなので、たかが他人の人生だけど、されど他人の人生になってしまう。大切な人が居なくなると悲しくてツラくて堪らないのは、その人に預けた自分の心が、大切な人ごと無くなってしまうからだ。推しが結婚するとツラいのは、その人に預けた自分の一部である恋心のようなものが推しに捨てられてしまったように感じるから。
 きっと今夜は眠れない人もいるんだろうし、幸せな気持ちで眠る人もいるんだろう。人それぞれ、自分の人生を生きていくしかない。嬉しくても悲しくても、何もなくても。だから逆に、どんな風に生きたって良いよね、とも感じたりしてる。

 何はともあれ、立石俊樹さんご結婚おめでとうございます。舞台の上にいる時と同じくらい、あなたが、あなたの大切な人と一緒に、楽しく笑える日々をこれから過ごしていけますように。
 わたしはね、あなたの「自分の人生も大切にする強さ」があるところが好ましいって、やっぱり思うんですよ。美しいだけじゃない生々しくズルい王子様、いつだってワガママに幸福であれ。

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