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自閉症の人の「捨てられない脳」をセントラルコヒーレンスから考えてみた

これは何の絵?と車の絵を見せる。

「タイヤ」と答えが返ってきた。

これは、幼いころの息子の話し。
これが車の写真なら「ブリヂストン(のタイヤ)」とこたえることもあったな。

この頃の息子には、どんな情報が重要であり、また重要でないかを判断するのが苦手で、情報を極端に部分的に見てしまったりその情報から全体を統合的に見たり理解するのが難しかったんだよね。だから「車」という見方が難しく、自分の興味が惹かれる部分(とにかく息子は回転するものがスキだったのね)である「タイヤ」とこたえたんだよね。

こんな風に自閉症の人は、沢山の情報の中から必要な情報を「都合良く」調整&選別するのが苦手なんだよね。忘れたい事を忘れられなかったりする記憶の問題や、視覚や聴覚等から絶え間なく入ってくる多くの刺激情報、シングルフォーカスでの注意の過集中やこだわりの問題…。向きあった事全てに対して真面目に手抜きせず向き合う。だから疲れちゃう…。

自閉症の人がこういった状態になる原因の一つを、Uta Frithっていう人が「自閉症の人のセントラルコヒーレンスの弱さ (Weak/Poor Central Coherence)」に関係するんではないかって論じてる論文を読んだことがあるんだけど、なるほどなぁ~と思うのね。

セントラルコヒーレンスっていうのは、ざっと説明すると「細部にこだわり過ぎずに全体像をつかむ能力」で、絶え間なく入ってくる情報に対して、細かい情報(上の例だと、タイヤやブリヂストン)にとらわれ過ぎず、全体的な視点で物事を判断できること(上の例だと、車)。

もうちょっと踏み込んで言うと、私達は目や耳といった感覚器官を通じて視覚や聴覚といった感覚情報を脳にインプットし、脳でそれらの情報を「塩梅よく」統合して、その時に直面している出来事や、人や、物を理解しようとしているのね。だから全体像を捉える為にあまり重要でない情報は無意識のうちに切り捨てられていくんだよね。

でも自閉症の人の脳では、この「塩梅よく」という過程がうまく機能していないケースがあって、細部の情報を「いる・いらない」に分別せず全部受け止めちゃうんだよね。

「捨てられない脳」「断捨離が苦手な脳」といった感じ。

例えば、自閉症の人の視野や興味の集中は『木を見て森を見ず』ってよく喩えられるんだけど、自閉症じゃない人は、森という全体像を捉えて、その中に何%かずつ木があるという風に情報を関連付けて判断してるんだけど、自閉症の人は、一本一本の木が100%で、森も100%…全ての情報を同じ100%に捉えちゃうんだろうなって思うんだよね。

極端に言うと、自閉症じゃない人は「森」を広角レンズで見てるけど、自閉症の人はマクロレンズで撮った木や花の細部にわたる写真をつなぎ合わせたものを「森」として見ている感じ。

こんな風に自分が受け止めた情報の中でどの情報が自分に重要/重要でないかの判断が苦手にも関わらず、情報を選別するのが難しくって全部受け取っちゃう。だから情報に埋もれちゃって、情報を精査して総合的に理解するのが余計難しくなるんだろうなって思うんだよね。

でもね、これは私は自閉症の人が自閉症特有の脳をもってるからこその大切な能力の一つだと私は思うんだよね。

ある時宿題で「大事な箇所にハイライト(蛍光ペンで大事な箇所に線を引く)をしてきましょう」っていう課題があったんだけど、息子はほぼ全ての箇所をハイライトしたんだよね。

先生「大事な箇所だけって言ったでしょ」
息子「うん、全部大事だからハイライトしたんだよ」
先生「テストの時、全部覚えるのは大変でしょ。だからハイライトしたとこだけ覚えればいいように、大事なとこを抜きだした方がいいよ」
息子「大丈夫だよ。全部覚えてるから」

で、テストの時、実際に全部覚えていた息子。それ以来先生はやいやいハイライトしろって言ってこなくなったんだよね。チャビ君にはチャビ君に合った方法があるんだなって。

ある時は、「今日は何で来た?」っていう質問に「A駅まで15分歩いて、8時12分に駅について、急行より先に普通がきたからとりあえずそれに乗って…」と細部にいたるまで説明するし、

映画を観に行った時に「どうだった?」って感想をきいても「面白かった」っていう全体の感想を言うよりも、最初のシーンから事細かに説明しだす息子。

でもね、「要約できない」と切り捨ててしまうのは簡単だけど、私は「これってある意味私には到底真似できないすごい才能だな」って思うんだよね。

だからね、車の絵を見せられて「タイヤ」とこたえる子に「違うでしょ!これは車でしょ!」「こういう時は”車”ってこたえるようにしなさい!」よりは、「そうだね、確かにタイヤだね」って言ってくれる人がその子の周りにたくさんいればいるほど、その子は幸せを感じられるんじゃないかな、その子の能力がいかされるんじゃないかな、そういう子がいることも知っていてほしいな~、という想いを伝えたくて書いた今日のnoteです。こういう子、きっとあなたの周りにもいるはず。

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