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抗菌薬選択チェックメイトへの道(2)

[第2回]尿からグラム陽性球菌がうじゃうじゃ

山田和範 やまだ かずのり
中村記念南病院薬剤部係長

(初出:J-IDEO Vol.1 No.2 2017年5月 刊行)

医師 「急性散在性脳脊髄炎(Acute disseminated encephalomyelitis, ADEM)で入院中の患者さん,ステロイドパルス終了後に39.3℃の発熱を認め尿路感染症を疑っています.おすすめの抗菌薬はありますか?」
薬剤師 「尿路感染症ですか.最近はESBL※1産生菌の検出も増えてきていて患者背景によって初期治療薬の選択が悩ましい場合もありますね.現在の患者さんの循環動態は安定されていますか?」

※ 1 ESBL: 基質特異性拡張型β‒ラクタマーゼ extended spectrum β‒lactamase

医師 「発熱があるものの血圧は130/60 mmHg,脈拍は85/分と少し頻脈ですが循環動態は安定しています.SpO₂ 98%(室内気)で呼吸数は10/分です.意識レベルは入院時よりJCS Ⅱ-10程度で大きな変動はありません」
薬剤師 「発熱の割に呼吸数が少ないですね.まずは診療録と現在までの経過を確認させてください.追って抗菌薬について連絡したいと思います」

Point!
尿路感染症=セフトリアキソン(CTRX)のように疾患と抗菌薬を1:1で決めつけず,患者情報や現在の状態も確認し起因菌を想定してから提案

 入院時の病歴と現在までの経過を確認すると……

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入院時現症
75 歳男性,身長163 cm,体重45 kg
主訴 両下肢脱力
現病歴 入院1 ヵ月前から歩行障害が発現.その後,食事量も減り歩行も徐々に悪化して1 日中寝たきりになる.入院3 日前にオムツを替える際,家族が坐骨部の褥瘡に気づき他院を受診したところ入院精査となった.3 日後,脳疾患が疑われ当院へ転院となった.
既往歴 糖尿病をはじめ特に既往歴なし
アレルギー歴 なし
尿道留置カテーテルは他院入院時から留置中

入院後経過
ADEM の診断となり,入院1 週間後にメチルプレドニゾロン1 日1 g 点滴静注3 日間のステロイドパルス療法が開始となった.入院時から37℃台の微熱が継続していたがステロイドパルス開始とともに体温は36℃台で推移した.パ
ルス終了翌日の午後から37℃台の発熱がみられ,その翌日には最高体温39.3℃まで上昇し,尿路感染症を疑い,抗菌薬選択についてコンサルトとなった.

コンサルト時検査結果
血液検査
WBC 10,500/μL,Hb 7.8 g/dL,Hct 22.1%,
Plt 24.9×104/μL,Na 135 mEq/L,K 3.7 mEq/L,
Cl 99 mEq/L,BUN 27.4 mg/dL,Cr 0.75 mg/dL,
Glu 88 mg/dL,AST 38 U/L,ALT 33 U/L,γ‒GTP
40 U/L,CRP 1.17 mg/dL
尿一般検査
タンパク(2+),尿潜血(3+),白血球≧100,
細菌(+)
尿グラム染色
グラム陽性球菌およびグラム陰性桿菌を多数認
める[図1].

画像1

[図1]コンサルト時の尿グラム染色所見(×1,000)

内服薬服用歴
メコバラミン錠(500μg)1回1錠,1日3回
毎食後.
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 ベッドサイドに患者さんの様子を見に行く.

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