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日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り(7)

日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り(7)
[第7話] 鹿をめぐる冒険
(vs 市立奈良病院 殿村修一)
忽那賢志 くつな さとし
国立国際医療研究センター国際感染症センター/国際感染症対策室医長


忽那「ふう……ようやく奈良に着いたな.この二月堂からの眺めはいつ来ても最高だ……」
上村「そういえば,先生はこの辺で昔働いていたんですよね」
忽那「そうだ……ここからも少し見えるが,あそこにある市立奈良病院というところで一人感染症科の医長をしていたのだ……もう今日は疲れたことだし,古巣の病院でちょっと休憩して行くぞッ!」
上村「えー,休憩させてくれるんですか? 先生が奈良にいたのってもう6年も前のことでしょう?」
忽那「バカを言いなさんな……当時いた同僚はまだ何人かは働いているし,私が奈良時代に築いた数々の歴史は後輩たちに語り継がれていることであろう……きっとわれわれを温かく迎え入れ,一晩の宿も貸してくれるに違いないッ!」
上村「先生のその根拠のない自信はどこからくるんですかねえ……」
忽那「なにッ……市立奈良病院が建て替わっているッ!?」
上村「めっちゃキレイな病院ですね」
忽那「私がいたときは昭和の中学校の体育館のような建物だったのに……」
殿村「そこの2人組! 止まれ~いッ!」
上村「えっ?」
殿村「男2人で柔道着で歩き回るとは怪しいヤツらめ! 病院に入るんじゃないッ!」
忽那「おいおい,待て,殿村よ.オレだ,忽那だ.おまえが初期研修医のときに感染症を教えたじゃないか.いやー,久しぶりだな~」
殿村「忽那だと……貴様,あの忽那かッ! クックック……ここで会ったが百年目……この場で貴様の息の根を止めてくれるッ!」
上村「え,ええ~!? 先生,尊敬されるどころかめっちゃ恨まれてるんですけど!?」
忽那「おかしいなあ……オレ,なんかしたかなあ……」
殿村「しらばっくれるな! 貴様がうちの病院をHIV拠点病院にしてほしいだの,細菌検査室を作ってほしいだの,さんざん病院へのワガママを聞いてもらっておきながら,その後まもなく貴様は国立国際医療研究センターへと出ていったのではないか! この恩知らずがッ!」
上村「うわー,すげえリアルな恨まれ方ッスね……」
忽那「まあまあ,そう言うなって.だってオレの後釜で来たK浪先生はオレなんかよりも超優秀だっただろ?」
殿村「確かにK浪先生は素晴らしい医師だった……だがその後結局おまえが国立国際医療研究センターに連れて行ったではないか!!」
忽那「テヘッ☆」
上村「いや,テヘッじゃないでしょ.恨まれる要素満載じゃないですか! よく立ち寄ろうと思いましたね」
忽那「おまえらがそんなこと言うんだったらな,オレだって文句あるんだぞ! 産●人科の周術期抗菌薬がどんだけ言ってもフロ●キ●フから変わらなくて,挙句の果てに理由を聞いたら『だってシ●●ギ製薬にお世話になってるから』とかCOIありまくりの回答をしたりとか,HIV拠点病院のクセにHIV患者の手術を拒否したりとか!! おまえら,どこまでも腐ってやがるッ!!」
上村「ちょ! 火に油を注がないでくださいよ! これ掲載して大丈夫なんですかッ!?」
殿村「おのれ貴様……風のうわさで聞いたが,道場破りをしているらしいな.よかろう,オレの症例をおまえが診断できれば当院の看板を持ち去るがいい.だが,診断できなかった場合……二度とこの奈良の地に足を踏み入れるなッ!」
忽那「断る!」
上村「判断はやッ!」
殿村「奈良のお寺に行けなくなったら困るだろう! 室生寺とか聖林寺とか安倍文殊院とか金峯山寺とかッ! そんなの絶対イヤッ!」
上村「やはりお寺ですか……」
忽那「ではこうしようじゃないか……オレが勝ったら病院の看板をもらう! 万が一オレが負けたら,市立奈良病院の敷地内には入らないッ!」
上村「めっちゃ範囲が縮小しましたね.県単位から病院単位に」
殿村「まあよかろう.貴様がうちの病院に入ってこないだけでもありがたいわ」
忽那「フンッ! しゃらくさいわッ!」
殿村「それでは症例を提示するぞ」

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症例:大動脈人工弁置換術後のためワルファリン内服中の63歳男性.
主訴:複視・嗄声・嚥下障害
発症前日より下痢・嘔吐を繰り返し,当日の夕刻より複視・嗄声・嚥下障害の症状が急に出現したため当院に搬送され緊急入院となった.
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