抗菌薬選択チェックメイトへの道(9)

抗菌薬選択チェックメイトへの道(9)
[第9回]R≦4って何?
山田和範 やまだ かずのり
中村記念南病院薬剤部係長


医師 「療養病棟に入院中の患者さんが本日午前中に39.8℃の発熱がありました.体温以外はバイタルサインの大きな乱れはなく,昨日までは体温は36℃台で落ちついていました.尿路感染症を疑っていますが抗菌薬は何を使ったらよいですかね?」
薬剤師 「尿路感染症ですか.入院期間は長いですか?」
医師 「1年ほど前に脳出血を発症して他院で入院加療されていました.うちに転院してきたのは2ヵ月前になります.他院入院中も誤嚥性肺炎を繰り返していたようです.その後,気管切開され,人工呼吸器も装着したままです」
薬剤師 「そうですか.過去の抗菌薬の使用歴も確認してから,抗菌薬を提案したいと思います」
医師 「わかりました.とりあえず血算,生化学検査と尿一般検査,血培,尿培,痰培養はオーダーしています」

Point!
長期入院患者の場合,耐性菌を保菌している可能性もあり,過去の培養結果も抗菌薬選択には参考となる.

 早速,当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を確認しました.

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コンサルト時現症
85歳,男性,身長160cm,体重40kg
主訴 発熱
入院からの病歴 1年前に脳内出血を発症し他院脳神経外科に入院となる.経過中に誤嚥性肺炎を繰り返し,無気肺を起こしたため気管切開術を施行される.家族より自宅に近い当院での療養継続の希望があり2ヵ月前に当院に転院となる.入院後,肺炎,胸水の評価目的に実施した胸部CTにて左上肺野に腫瘤影を認め,肺癌の可能性もある旨を家族に説明したところ検査も手術も希望しないとのことで経過観察となっていた.3週間前に肺炎治療を行い,その後は落ち着いていたが本日39.8℃の発熱のため尿路感染症が疑われた.転院5日後にインフルエンザ発症.
既往歴 脳内出血(1年前),鼠径ヘルニア(15年前),肺気腫,気管支喘息(発症時期不明),症候性てんかん,B型肝炎
アレルギー歴・副作用歴 なし
飲酒歴 現在は飲まない
喫煙歴 ex—smoker

検査結果(コンサルト時)
血液検査
WBC 20,000/μL, Hb 7.6 g/dL, Hct 24.1%, Plt 36.2×104/μL, Na 130 mEq/L, K 4.7 mEq/L, Cl 92 mEq/L, BUN 22.2 mg/dL, Cr 0.83 mg/dL, T—bil 0.3 mg/dL, AST 15 U/L, ALT 10 U/L, γ—GTP 47 U/L, CRP 6.93 mg/dL
インフルエンザ迅速検査 A,Bともに陰性
尿一般検査
pH 9.0,WBC 10~19/HPF,タンパク(2+),尿糖(-),細菌(+)
胸部単純X線 左上肺野に腫瘤影(+)[図1]

[図1]胸部単純 X線写真(臥位)

内服薬服用歴
・レベチラセタム錠(500 mg)
 1回1錠 1日2回朝夕食後
・アンブロキソール塩酸塩錠(15 mg)
 1回1錠 1日3回毎食後
・カルボシステイン錠(500 mg)
 1回1錠 1日3回毎食後
・ランソプラゾールOD錠(15 mg)
 1回1錠 1日1回朝食後
・フロセミド錠(20 mg)
 1回1錠 1日2回朝夕食後
・溶性ピロリン酸第二鉄シロップ(5%)
 1回5 mL 1日2回朝夕食後
・ゾピクロン錠(7.5 mg)
 1回1錠 1日1回就寝前
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 診療録および温度板からは,担当医の説明通り,昨日まで,ここ2週間は血圧は120/70 mmHg台,脈拍は70 bpm前後で落ち着いており,発熱もみられていませんでした.
 意識レベルは,入院時よりJCSⅡ—20で大きな変化はなく,人工呼吸器の装着は転院時から変わらず,SpO2はFiO2 0.35で98%,呼吸数は22/分で肺雑音は聴取されませんでした.6週間前には過去の診療歴から,3週間前には過去の培養結果をもとにそれぞれ肺炎の診断にてメロペネム(MEPM)が2週間使用され,その後は臨床症状も落ち着いていました.尿道カテーテルは前医より留置されたままでした.
 当院入院時からの各種培養結果について以下の情報を得ました.

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過去の培養結果の同定情報
尿培養結果履歴
42日前
尿中菌数 103 CFU/mL
Escherichia coli ESBL(+) (1+)
21日前および14日前
尿中菌数 107 CFU/mL
Corynebacterium sp.(3+)
痰培養結果履歴
42日前
Acinetobacter sp.(2+)
Proteus mirabilis ESBL(+) (2+)
H. influenzae(BLPACR)(3+)
21日前
Stenotrophomonas maltophilia(1+)
α—streptococcus(1+)
14日前
Moraxella catarrhalis(2+)
Pseudomonas aeruginosa(1+)
Corynebacterium sp.(口腔常在菌)(1+)
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 少しすると尿と気管内採痰のグラム染色所見が判明しました.

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喀痰グラム染色所見
Miller & Jones分類 P2,Geckler分類 4群
白血球は比較的多く,グラム陰性桿菌が散見され,その他,有意な細菌は認めず[図2]

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