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本質の感染症(9)

本質の感染症(9)
[第9回] 個別化
岩田健太郎 いわた けんたろう
神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学教授


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 第3回で「一般化」を扱った.今回はそれに呼応した「個別化」の話だ.

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 「一般化」とは,個々の異なる患者に起きている現象=疾患から,一般化可能なものを抽出することをいう

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 学生や研修医がベッドサイドでの実習を必要とするのは,個々の患者の一般化可能な属性を抽出できる能力を涵養せねばならないからだ.一般化できる属性は,次の患者にも応用できる.

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 医学・医療の世界には一般化できる,あるいはほぼほぼ一般化できる属性があるものだ.低酸素は酸素で治療せねばならぬ(CO2ナルコーシスが怖いから酸素出さない,はありえない),けいれんは止めねばならぬ,出血も止めねばならぬ,止まった心臓は動かさねばならぬ,云々.個々の患者のケアを経験しながら,次の患者に活かせる属性を抽出する.それがあるからこそ,経験値には価値があるのだ.

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 幸か不幸か,そのようなことを教わる学生や研修医は少数派に属する.だから,彼らはベッドサイドで何を学んでよいかわからない.実を言うと,多くの指導医すら,何を教えてよいやらわからない.よって,なんとなく経験させる.ベッドサイドで何を学んでいるのだかよくわからないという学生がいる.「一般化属性抽出の原則」を知らないからだ.そこでダラっと患者を見るわけで,なんだかつまらない.加えて,神戸大学の5年生なんて,各診療科1週間しか回らないのである.これじゃ何も学べない.一度,シルバーウィークか何かで「2日」だけうちの科を回ったグループすらあった.学務課は何を期待していたのだろう.準備運動をして,整理体操をして,そのグループはまた別の科に移っていった.

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 「感染症内科ではBSL(bed side learning)でレクチャーをしてくれないからイヤです」というフィードバックをいただいてひっくり返るほど驚いたことがある.患者ケアの経験のない医学生ならば,あてがわれた患者の把握と一般化属性抽出の作業でアップアップのはずで(それでなくても1週間しかないんだし),レクチャーなんぞ受けている暇は一瞬たりともないはずだからだ.案の定,その学生も自分の担当患者を少しも把握していなかった.

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 医学生や研修医はなまじ記憶力が良いから,患者体験をそのまま暗記しようとする.これがいけない.

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