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抗菌薬選択チェックメイトへの道(5)

抗菌薬選択チェックメイトへの道(5)
[第5回]インフルエンザの裏に隠された真実
山田和範 やまだ かずのり
中村記念南病院薬剤部係長


医師 「週末に入院となった患者さん,インフルエンザB型陽性で,入院時にラニナミビルを吸入しましたが4日経過しても解熱せず,逆に最高体温が上がってきているかんじです.さらに入院時にみられなかったSpO2の低下と両側肺で副雑音が聴取されるようになりました.呼吸器感染症を疑っています.おすすめの抗菌薬はありますか?」
薬剤師 「ラニナミビルはしっかり吸入できていましたでしょうか? 現在の全身状態はどんなかんじですか?」
医師 「ラニナミビルは吸入できていました.認知症はありますが意識レベルは問題なく,血圧が少し下がったので早めの抗菌薬開始を考えています.SpO2が低下したためマスクで酸素を60% 5 Lで送気しています」
薬剤師 「そうですか.各種検査結果を確認したうえで治療薬を提案したいと思います.少しお時間いただけますか?」
医師 「わかりました.できるだけ早めにお願いします!」

 入院時の病歴と現在までの経過を確認すると……

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入院時現症
77歳男性,身長182cm,体重70kg
主訴 反応が鈍い,起き上がれない,食事がとれない.
現病歴 当院受診4 日前から,起き上がりに妻の介助が必要になった.また,立位保持困難となり,3 日前より失禁するようになった.当院受診前日に,かかりつけの脳神経外科クリニックを受診したが,頭部MRI 上は変わりなしと言われた.翌日当院受診.改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS‒R):4/30 点.食事がとれず,38.7℃の発熱があるため,入院となった.
その後,インフルエンザB 型が判明した.
既往歴 脳梗塞(多発性ラクナ)(20 年前),ビンスワンガー型認知症(不明),高血圧症(20年以上前).
アレルギー歴・副作用歴 なし
飲酒歴 機会飲酒程度
喫煙歴 あり(1 年以上禁煙)

入院時検査結果
血液検査
WBC 8,600/μL,Hb 15.7 g/dL,Hct 46.8%,Plt 19.5×104/μL,
Na 135 mEq/L,K 4.1 mEq/L,Cl 99 mEq/L,BUN 24.1 mg/dL,
Cr 0.78 mg/dL,T‒bi l 0 .6 mg/dL,AST 24 U/L,ALT 17 U/L,
γ‒GTP 34 U/L,CRP 16.72 mg/dL
胸部単純X 線 明らかな浸潤影なし[図1] .
インフルエンザ迅速検査 A(-),B(+)

[図1]胸部単純X 線写真(立位),入院時


内服薬服用歴
A 内科クリニック
・アスピリン腸溶錠(100 mg)
 1回1錠 1日1回朝食後
・ニフェジピン徐放錠(10 mg)
 1回1錠 1日1回朝食後
B 整形外科病院
・ロキソプロフェン錠(60 mg)
 1回1錠 1日3回毎食後
・レバミピド錠(100 mg)
 1回1錠 1日3回毎食後
・ニザチジン錠(75 mg)
 1回1錠 1日2回朝夕食後
・リマプロストアルファデクス錠(5μg)
 1回1錠 1日3回毎食後

入院4日目(コンサルト時)検査結果
血液検査
WBC 7,100/μL,Hb 15.7 g/dL,Hct 47.2%,Plt 17.5×104/μL,
Na 136 mEq/L,K 4.3 mEq/L,Cl 100 mEq/L,BUN 25.2 mg/dL,
Cr 0.94 mg/dL,T‒bil 1.8 mg/dL,AST 47 U/L,ALT 47 U/L,
γ‒GTP 106 U/L,CRP 32.30 mg/dL
胸部単純X 線 右上肺野に浸潤影あり[図2] .
喀痰グラム染色 白血球およびグラム陰性短(球)桿菌を多数認める[図3].

[図2]胸部単純X線写真(臥位),入院4日目


[図3]喀痰グラム染色所見(起因菌推定)

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