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日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り(9)

日本全国感染症ケースカンファレンス道場破り(9)
[第9話] 鳥取のガチな奴
(vs 鳥取大学感染症内科 北浦 剛)
忽那賢志 くつな さとし
国立国際医療研究センター国際感染症センター/国際感染症対策室医長


忽那「ついに……ついに鳥取まで辿り着いたな……」
上村「ええ,ここに来るまで長かったですね」
忽那「見渡す限りの砂漠……これが鳥取砂丘か……だがおかしい……」
上村「何がですか?」
忽那「鳥取砂丘でポケモンGOのイベントをやっていて,ヨーギラスとかが湧いてるはずなんだが……周りにはいつものようにポッポしかいないじゃないか!」
上村「ああ,イベントやってましたねえ,鳥取砂丘で.でもそれ確か去年の夏くらいの話ですよ」
忽那「なにィ!!!? もう終わっているだとォ!!? この北浦とかいうヤツに騙されたッ!」

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上村「え,何かポケモンGOのことを書いてたんですか?」
忽那「うむ,1年ほど前にヤツからこんな挑戦状が来ていたのだ……」
上村「つよピーと呼ぶッフォって……この人,相当やばそうですね……」
忽那「ああ,そもそも挑戦状と書いておきながら,ポケモンを取りに来いとしか書いてないからな」
上村「ところでガーディーって何ですか?」
忽那「そんなことも知らないのか! ガーディーと言えばポケモン第一世代の『こいぬポケモン』だろうがッ! 進化したら伝説ポケモンのウィンディになるんだぞ! もう一度勉強し直してこいッ!」
上村「(無視して)あっ,見えてきた……あの建物が鳥取大学ですね」
忽那「よし,今日という今日は道場破りを成功してみせるぞ,上村!」
上村「まあそう言っておきながら惜しくも負ける,までが様式美になってきてますけどね」
忽那「うるさいッ! いくぞッ! つよピーとやら,出てこい! はるばる鳥取まで道場破りに来てやったぞ! いざ尋常に勝負せよッ!」
北浦「フォッフォッフォッ……やっと来たか,くつなよ.待ちくたびれたッフォよ……」
上村「フォッフォッフォッって笑う人,初めて見たんですけど……やっぱり相当ヤバそうですね」
忽那「油断するなッ! たぶんアレはバルタン星人のマネだ!」
北浦「この日のために,このつよピーがとっておきのガチな症例を用意しておいたッフォ」
忽那「ガチな症例か……望むところだ! オレだってガチで勝負してやるぜッ! そしてこの病院の看板をもらって帰るッ!」
北浦「ではさっそく症例提示を始めるッフォ!」

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症例:70歳代,日本人男性
現病歴 ①:1ヵ月以上続く咳嗽のため,1年前に近医を受診.このときの胸部X線写真で左下葉に陰影を認めた[図1]ため精査目的でA病院に紹介となった.このA病院で行われた胸部CTで左肺S6胸膜直下に50 mm大の腫瘤影が確認された[図2].

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[図1]近医を受診した際の胸部X 線写真
左中肺野に結節影を認める.


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[図2]A 病院を受診した際に撮影された胸部CT の肺野条件
S6 胸膜直下に50 mm 大の腫瘤影を認める.
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上村「1ヵ月以上続く咳嗽の精査で見つかった結節影ですか……」
忽那「まずは周囲への感染性も考慮して,肺結核を除外したいところだな.あとは同じ抗酸菌による非定型抗酸菌症,細菌ではノカルジア,真菌ではアスペルギルスやクリプトコッカスも鑑別になるが……これらの感染症の発症リスクとなるような免疫不全はあるのかが気になるところだな」
上村「抗酸菌感染症は免疫不全がなくてもありえますが,確かにその他は免疫不全が背景にあることが多いですよね」
忽那「あとは非感染症として肺癌も考えておくべきだろう.喫煙歴を知りたいな」
北浦「この症例は現病歴が長いので,まだしばらく続くッフォ」

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現病歴 ②:胸部CTや喀痰培養検査,血液検査などの結果,悪性腫瘍は否定的であり肺化膿症と判断され,シタフロキサシン50 mg 2 T分2を10日間処方された.
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上村「どういう結果を元に肺化膿症と診断されたんですかね」
北浦「その辺は詳細不明だ! フォッフォッフォッ……」
忽那「気管支鏡検査はしてなさそうなので,まあおそらく腫瘍マーカーが陰性で,喀痰培養から何らかの細菌が検出されたから肺化膿症と診断したんじゃないか」

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現病歴 ③:シタフロキサシン内服後も咳嗽が遷延するため,A病院の受診から3ヵ月後に別の病院Bを受診した.この時点では左S6の陰影は30 mm大に縮小していた.気管支鏡検査を施行したが,擦過細胞診で悪性所見はなく,グロコット染色も陰性であった.BAL液の一般培養,抗酸菌塗抹・培養・PCRもすべて陰性であった.ここでもやはり何らかの細菌による肺化膿症ではないかという診断でセフジトレンピボキシル100 mg 3 T分3が14日間処方された.
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忽那「セフジトレンピボキシルだと……DUッ! ここにきてまさかのDUッ!【1】」
上村「落ち着いてください! たぶんここでは『だいたいうんこ』の話は本筋とは関係ないッス!」
忽那「しかし4ヵ月も咳嗽が続いていて,すでに慢性咳嗽といってよい時期になっているが,気管支鏡検査までやっても一般培養も抗酸菌も陰性だったということか……」
上村「肺結核の可能性は低くなったということですかね」
忽那「A病院でシタフロキサシンが10日間処方されており,このキノロン系抗菌薬の処方が結核菌に中途半端に作用して気管支鏡検査でも検出されなかった可能性は残しておくべきだろうが,さすがに3ヵ月後だからな……」
上村「他に慢性咳嗽の原因としては百日咳がありますが,この症例のように肺に結節を作るというのは臨床像が異なりますね」
北浦「さらに病歴は続くッフォ」

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