本質の感染症(10)

本質の感染症(10)
[第10回] 見える化
岩田健太郎 いわた けんたろう
神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学教授


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 本稿を書く直前に日本感染症学会・日本化学療法学会(2018年,岡山)とACP日本支部総会(同年京都)をハシゴした.

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 それぞれ参加する事情があってのことだが,それとは別に各学会活動に積極的に参加しようとぼくが腹をくくったからだ.

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 理由はいろいろある.子育てがだいぶ落ち着いて,以前ほど出張が家庭を逼迫しなくなったこと,10周年を迎えた神戸大学病院感染症内科で,あれやこれやの「クリアすべき課題」があらかた解決して心身の余裕ができたこと,云々.

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 最大の理由のひとつは,「そろそろもっと学会内部に入って社会貢献しなさい」という家人の助言(苦言?)である.

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 ご存知の方も多いと思うが,ぼくは長い間一貫して日本の学術界,感染症界を批判してきた.それも,相当手厳しく.

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 質が低く,シャンシャンなお友達集団,製薬メーカーの太鼓持ちのような新薬出せ出せな恥ずかしい発表の数々,昼飯おごってもらって接待,洗脳のランチョンセミナー,皆同じような色のスーツを着て,毎年同じような演者が毎年同じようなことを言うだけ,かつ内容は国際的な見地からは聞くに堪えない「井の中の蛙」.

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 こんな劣悪なクオリティの学会などなくなってしまえばよいとすら思ったこともある.少なくとも小規模な化学療法学会と感染症学会は合併して無駄を廃し,質を向上させるべきだ.これまたシャンシャンでさらに質が下がる地方会も全廃して,「大会長やりたいよう」の老害なシニアたちのエゴに阿(おもね)ることなく,スリム化と質改善をしなければ日本の感染症界は,劇的にプレゼンスを高めている韓国や中国の後塵を拝して世界から取り残されちまうぞ.

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 当然,学会の重鎮たちはぼくの言うことなど快く思わなかっただろうし,「あいつは日本をアメリカのようにしている」などという事実無根の誹謗中傷も受けたことがある(神戸大の教授選の時にその怪情報は流れた.もちろん,ぼくの「ほぼ」処女作である『悪魔の味方―米国医療の現場から』というアメリカ医療批判本は読んでいなかったに違いない).あるときは学会会場から自著や帯を書いた本まで販売停止しろ,と出版社や書店に圧力をかけた「重鎮」もいた.ただし,そのような卑怯で理不尽(反論できない出版社や書店に圧力をかけ,彼らの販売の自由を阻害する行為)をぼくは絶対に許容しないし,「やられたらやり返す」性分なので,その「重鎮」はそれ相応の報いを受けることになったのだが.

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 2018年の感染症学会・化学療法学会もぼくは大会において仕事の依頼をなにひとつ受けていない.当然のこととは,思う.

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 しかし,耳の痛い批判もあった.「そんなに学会批判をするなら,内部に入って自分で改善すればよいじゃないか」.

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 ご指摘のとおりだ.確かに,前述の事情によって学会参加がままならなかった時期もあったのだが,少なくとも心身の自由が効く限り,業界のなかから問題を解決し,改善していかねば「ただ外野からヤジを飛ばしているだけ」の誹りは免れないであろう.

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 これはいささかセンチメンタルな理由もあり,自分は集団内に入って仕事をする「コミットメント」の能力が欠落している,という自覚的なインフェリオリティー・コンプレックスに起因する.が,「苦手だから,やらない」もまた身勝手な態度であり,「苦手ならば訓練してできるようになれ」が王道であろう.デタッチメントからコミットメントへ.ぼくは学会インサイダーという慣れぬ仕事(さほど好きでもない仕事)の丁稚奉公を始めることにしたのである.

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 まず,手始めに2017年に日本エイズ学会の理事選に立候補することにした.幸い,理事には選んでいただいたので,日本のHIV/エイズの諸問題について,今後は「インサイダー」として改善に尽力したいと思っている.前述のACPジャパンも,ぼくは過去の体験から「ノー・サンキュー」の態度をとっていたのだが(かつてぼくがプレゼンした「ワークライフバランス」のセッションが裏方では実に偽善的な「茶番」だったというエピソードによる),今後は態度を改めて前向きに参加したいと思っている.

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 また,HPVなどワクチンの問題,抗菌薬適正使用の問題(ASPなど)などにも神戸市,兵庫県,国,そして諸学会レベルで積極的に「インサイダー」として仕事を始めている.嫌悪していた諸会議にも積極的に参加し,発言している.なかには「場の空気」をわきまえない発言も多いであろうが,わざとである.事態の改善こそが会議参加の理由であり,会議の空気をまったりさせて,皆の和を乱さないようにする,を目標にはしていないのだから(そういう会議なら,出ないのが時間効率上は上策だ).

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 日本感染症学会も日本化学療法学会も理事は「総会の決議」で決まる.要するに理事会で候補を根回しして,大会場での大人数での評議員会で「シャンシャン,パチパチ」で合意を得る,という儀式で決めている.形式的には民主的だが,本質的には非民主的な方法なので,各学会の理事会メンバーの「不人気コンテスト」で上位に入ること必定なぼくが理事になることは考えづらい.彼らが舞台を去る世代交代を待つか,システムを変えるしかないのだが,この話は本題からずれるのでこのへんにしておく.

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 というか,そもそも今回のタイトル「見える化」に全然近づいていないじゃないか,という突っ込みも来そうである.そろそろまじで本題に入る.

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