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停車しにくいバス停… 「運転手泣かせ」その理由は?

 バスが停車しにくいバス停があるそうです。広島市中区の国道54号(鯉城通り)沿いの「中電前」。安佐南区の男性(60)から「停車スペースに入らずに止まるバスが多い」と声が寄せられました。このバス停、市内でも「運転手泣かせ」とささやかれているとか。どういうことなのか、現場を訪ねました。(加納亜弥)

バスは歩道からかなり離れて停止

 ある平日の午前8時。ラッシュ時とあって、鯉城通りの東側のバス停「中電前」に、次々とバスがやってくる。バスの多くはせっかくある停車スペースに深く入らず、歩道からかなり離れて停止するときもある。利用客はいったん車道を歩き、バスとバス停を行き来する。

バスはバス停がある歩道から離れて停車する

 降りてきた女性(74)に声を掛けた。「ひざが痛いから、段差を降りてまた上がるのはつらい。きちっと歩道につけてくれたら助かるんだけどね」と言う。

運転手「入ると、事故をするリスクが増える」

 広島バス大州営業課の岩田稔課長に話を聞くと「このバス停は、運転手も困っているんです」とため息をつく。

 停車スペースは、長さが短く、歩道に切り込む角度が急。幅も狭い。バリアフリーの低床車は車体が長く、停車スペースに入ってしまうと出る際に切り込みの縁石にこする可能性がある。それを避けるために大きくハンドルを切ると、今度は車線をはみ出し、他の車とぶつかる危険が生じるという。

 広島バスの男性運転手(46)も訴える。「停車スペースに入ると、出るときにどうしても膨らんで、バスレーンからはみ出る。事故を招くリスクが増えるんです

高床式バスが主流の時代にできたから?

 広島電鉄のバス安全指導課も訪ねた。乗務員を監督する堂本哲広さんも「広バスさんと同じ意見ですよ」と話す。「床が高く長さが短いツーステップバスが主流だった時代の名残では。今は合ってないですね」。現在はどのバス会社も、低床車のロングボディーが7~8割を占める。

確かに、切り込みの縁石には何度もこすった形跡がある

 そもそも歩道に切り込んだ停車スペースの目的は、後続車が停車中のバスを追い越せるようにするためだ。マイカーが急速に普及したモータライゼーションの時代なりの「気配り」だったのだろう。しかし今、この鯉城通りの車線の一つはラッシュ時にはバス専用レーンになる。後続のマイカーなどは本来はいないはずだ。

大きな事故なく… 逆に改修の優先度が下がった

 このバス停、改修の予定はないのだろうか。国道54号を管理する国土交通省広島国道事務所の交通対策課に聞いてみた。松浦秀明課長は「これまで特に事故もなかったので、課題として把握できていませんでした」。なるほど、運転士が事故を起こさないよう気を付けていたことが、逆に改修の優先度を低くしたのかもしれない。

 政令では都市部のバス停の停車スペースは、長さ40㍍と決めている。しかし中電前は26・3㍍と、その3分の2しかない。交差点と横断歩道が近くにあって長さが取れないのが理由という。だが、松浦課長は「大きな改変はできなくても工夫の余地はあるはず。まずは課題を整理したい」と話す。

真っ直ぐなバス停へ 変わる動きも

 この鯉城通りと交差する相生通りでは、新たな動きもある。管理する広島市は今、バス停の集約を計画している。市中心部で乱立し、分かりにくくなっているためだ。併せて、バス停の形も見直す。歩道に切り込まず、ストレートにする。第1弾は「八丁堀(あおぞら銀行前)」で、近くにある「立町」と集約し、4月には新たなバス停に生まれ変わる。

工事中の八丁堀(あおぞら銀行前)バス停。切り込み部分のスペースを埋めて歩道を広げている

 バス停の形を見直せば、歩道のゆとりも生みだせる。例えば京都市の「四条通」。車線を減らし、逆に車道に張り出した「テラス型」のバス停を導入することで、車椅子やベビーカーも通りやすくした。観光客のマイカー利用も減っているという。

 広島県バス協会の赤木康秀専務理事は「バス停のストレート化が進めば歩道も広がるし、安全にバスに乗れます。歩行者と公共交通中心のまちづくりにもつながるのではないでしょうか」。バス停問題の向こうに、人に優しいまちの姿を思い描く。