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俺の名は…!

「ピッ」
AplleWatchの音が鳴る。
その人は支払い音だけ確認をして乗車する私に見向きもしない。
奥のドア近くの席に座るか座らないか…ぎりぎり座らないうちに
「出発しまーす」
低くぼそぼそした声で言う。

「ああ!」
外で乗りたそうに叫んでいる人がいるが運転手は見向きもしない。
時間通りの出発。

「待ってー!」
もう一人しつこい客が現れた。
手をひらひらさせているのが私の窓からもよく見える。

さすがに停まり、乗り込む客の「ピッ」を確認すると
「出発しまーす」
もう一度低くぼそぼそした声で言う。

媚もせず、怒りもしない。
ただその仕事に専念する。

次の停留所でお年寄りが乗り込む。
シルバーパスを見せると
「はーい」
出発しまーすの声より大きな声で確認したことを知らせる。

最近は
「お仕事お疲れさまでした」
「気を付けてお帰りください」
気の利いたアナウンスをする人もいる。
それはそれで嬉しい。

だが、今日はただひたむきにやるべきことをやるこの人をカッコいいと思った。
運転手はサービス業ではない。
勘違いしてはならない。

「俺の名は…バスの運転手!」
そんなオーラを彼の背中に感じた。


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