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春の温もりに狂わせて

なんてことないいつも通りの一日。駅構内のセブンイレブンで、ネット予約したものを淡々と印刷していた。数十枚に及ぶ作業を終え外に出ると、なんてことある非日常的出会いが、俺を待っていた。

ボリューミーで艶のあるカーリーヘアー、程よいタンニングでハリのある肌、ミステリアスさを漂わせるクソデカサングラス、絵に描いたようなラテン系のお姉さんが、柱にもたれかかった状態でこちらに向かって微笑みかけている。

俺A「目線がわからないが、恐らく私に対して微笑んでいる。」

俺B「きたな、これモテ期きたわ、グローバル化ってこういうこと?サンクスインバウンド!サンクスマクドナルド!ビバメキシコ!!!」

俺 以蔵「契(ヤ)らねばならぬ…」

俺 pump「 [ESKETIT!ESKETIT !ESKETIT !:: [gunshots]:: 」

そう思った。

ゴールを決めたクリロナのごとく、背筋をピンと伸ばして胸を張り、スーツの前ボタンをそっと開けた。そして"Whats up?"と微笑み返した。
我ながら良い塩梅の笑顔ができたと思う。全力で笑うと顔面がカメムシの裏側になってしまうので、1割程度の力で臨んだのが効果があったのだろうか、、、
彼女はこちらに向かって手を振り始めたのだ!!!

ラブズッキュンである。

1時間後に健康診断が待っているのにも関わらず、心臓に相当な負担をかけていたに違いない。案の定私のアップルウォッチは、予期せぬ心拍数の上昇に対して警鐘を鳴らしていた。
勘違いではなく、現実味を帯びてきた甘い展開に内心焦り始めたが、BIG BOOTY & BIG TITSを手に入れるためにはここで引くわけにはいかない。

俺は、勇気を出して1割スマイルを維持しながら、皇族のように手を振った。







直後、彼女の顔から微笑みが消えた。

何かがおかしい。。。

もしかして下心モロ出ししてて、カメムシになっていたか?皇族ではなく、わんぱく小僧っぽい手の振り方が良かったのか?フリーメイソンの陰謀論?パンドラの箱開いちゃったのか?様々な思索が脳内を駆け巡った。
3秒前まで完全に「〜♩can't give you anything〜♩」的な雰囲気だったのにどういうことだってばよ…

笑顔はすでに彼女の顔から失われていたが、右手だけは"俺ではない誰か"に向かって、機械的に動き続けていた。
しかし、周りを見渡しても誰もいない。

死亡フラグを胸いっぱいに感じながら、恐る恐る後ろを振り向いた。彼女の眼差しは、俺という存在を光速で突き抜け、自動ドアをすり抜け、凄十が並んでいる棚の先にいた「渋谷」と刻印されたニューエラを被った、さわやかなラテン系イケメンに向けられていたのだった。
なんだよその帽子、ダセぇよ、クソダせぇよ、クソダセェのになんで似合っちゃうんだよ。なんでその帽子で爽やかさ出せるんだよ。おかしいだろ。



無論、最初からおかしかった。
リクルートスーツを着た寝起き顔パンパンイエローモンキーに、グラマラスお姉さんが朝から袖を振るわけがなかったのだ。
兎にも角にも恥ずかしさで死にそうになり、彼女に対して振っていた皇族ハンドを、何事もなかったかのように肩に回し、背中が痒そうなツラをした。おそらく人生でもトップレベルで恥ずべきツラだった。(当社比)

改札を抜けて俺は走った。恥ずかしすぎて「はっず〜、まじはっず〜。」とか言いながら走った。恥ずべき自分と決別するために走った。

そして自分を戒めるために、この文書を書いている。

日本に住んでいる男子諸君に告げたい、

「可愛い子がお前に対して手を振ることはない。堂々と無視して前に進め。」


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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