アルカディア・ベイであなただけの決断をしよう~『Life is Strange』をプレイして(ネタバレなし)~

・はじめに

 たとえば、あなたがRPGをプレイする時のことを想像してほしい。

 あなたは、村人全員と会話しておかないと気が済まないタイプだろうか。
 本筋に関係ないサブクエストは攻略しないと落ち着かないタイプだろうか。
 王様に「魔王退治に行ってくれ!」と言われた時、ふざけて「いいえ」と答えるのには抵抗があるタイプだろうか。


 だとしたら、あなたは『Life is Strange』を楽しめるかもしれない。


 Life is Strangeは、2015年(日本版は2016年)発売のゲームである。

 いわゆる『ポイント・アンド・クリックアドベンチャー』と呼ばれる形式で、主人公の少女・マックスを動かし、マップ上の様々な場所を調べてストーリーを進めていく3Dアドベンチャーゲームだ。

 この作品はすでに全世界で300万本売れており、今更紹介していくのは乗り遅れたようで若干気が引ける。

 とはいえ、iOS版はこの記事を書いたひと月ほど前に出たばかりで、Android版が出るのもこれからだという。
 そして何より私の知人にはまだプレイヤーが少ないようであるため、敢えて紹介させていただきたい。


・どんなゲーム?

 Life is Strangeは、『時を操る能力』を手にした女子高生の物語である。

 舞台は2013年のアメリカ、オレゴン州の片田舎アルカディア・ベイ。
 アルカディア・ベイには、名門校ブラックウェル高校がある。芸術家を志す若者達がここに集い、専門の教育を受けるわけだ。

 こう言うと素晴らしい学校のようだが、その実態はいじめと強固なスクールカースト、そしてそれらに消極的対応をする教師陣による『ブラックヘル(作中人物談)』と呼ぶに相応しい学び舎である。


 そんなブラックウェルの中でも、写真家を志す者が集う学科……写真科に通っているのが、本作の主人公、マックス女の子。本名マクシーン)である。

 マックスは元々アルカディア・ベイ出身であったが、家庭の事情によりヨソへ引っ越してしまった。
 しかし5年後、写真家を志す彼女はブラックウェルの転入試験を受験。見事合格したことで再び故郷へ戻り、親元を離れた寮暮らしを始めたというわけである。

 写真の才能には恵まれているものの、自信を持った行動ができず内向的な性格のマックス。彼女は、寮でも学校でもスクールカースト高めの女子達にからかわれる毎日を過ごしている。


 そんなマックスが、ある日いかなる理由か「時を遡る能力」を得てしまう。
 彼女は戸惑いながらもその能力を駆使し、幼馴染・クロエの命を助けることに成功するのだ。

 5年ぶりに再会したマックスクロエは、やがてこの力を町の闇を暴くために使おうと決める。


 半年前に姿を消したブラックウェルの生徒、レイチェル

 有力者の息子・ネイサンの仕切る学内サークル、ボルテックス・クラブ。

 生徒を見張り厳しく詰問するブラックウェルの警備主任、デイビッド

 町を次々に襲う原因不明の異常気象。

 そしてマックスの前に立ち現れる、町を呑み込む巨大竜巻のビジョン……。


 すべては無関係でなく、どこかで繋がっている。
 そう直感したふたりは、幾度も時を巻き戻しながら、この町の陰にフラッシュを当てていくのだが……。


・それって

 と、ここまでの説明で、「それって『バタフライ・エフェクト』よりも面白いんか?」と思った方もいるかもしれない。

 実際のところ、この作品には映画『バタフライ・エフェクト』を意識したと思われる部分が多数登場する(マックスが時を戻す際のエフェクトなどは、モロに同映画のオマージュであろう)。

 しかしこの作品は、単に『バタフライ・エフェクト』のアイデアをパクってゲームにしたような劣化コピーではないということを、私は皆さんにまず伝えたい。


・攻めの時間操作

 このゲームの面白い部分はいくつも挙げられるだろう。

 たとえば、マックスの能力を利用した『時間操作パズル』である。


 人の車の中を調べたいが、鍵は当然持ち主のポケットの中。どうすれば調べられる?

 目の前に扉があるが、鍵がかかっていて開けない。かといって無理やり押し入れば警報が作動するだろう。安全に中へ入るには?

 重要な情報を握っていそうな人がいるが、詮索しようとすると警戒して話を聞いてくれない。こちらを信用させて情報を引き出すには?


 本作では、こういった難しい状況をマックスの時間操作で解決していく。

 一見すると「時とか関係なくない?」と思えるような状況の数々だが、周りをよく見、マックスの能力に関する理解を深めれば、必ず解決できるようになっている。

 難易度自体もべらぼうに高いものはそれほど無く、謎解きが得意な人ならサクサク進められ、苦手な人でもちょうど良い刺激になる程度だろう。


 無論、「先ほどの行動や選択肢をやり直したい」というような場合にも、この能力を使用することになる。

 謎解きに悩まなかった人も、こちらには悩まされるのではなかろうか。


 まず、マックスが任意に遡れる時間は「長くて数分」である。

 つまり「昨日の選択がマズかったっぽいな」と思ったところで、直接そこへ戻り決断を修正することは非常に難しいということである。


 更にコトを複雑にするのは、「短期的に見た正解が、長期的に見た時の正解とは限らない」という点である。

 ここでこう言ったらAさんは怒ってしまうが、たとえ怒らせてでもそう言っておかないと後々まずいことが起こるかもしれない。

 ここでこの選択肢を選ぶとBさんとの絆が深まるが、その結果むしろ後々相手を傷つけることになるかもしれない。

 そんなことを一度考え出すと、「本当にこの結末でいいのか?」と何度でも時を遡ってしまうこと請け合いである。


 それから、このゲームには『ゲームオーバー』の概念が存在しないということも付け加えねばならないだろう。

 極端な話、あなたの操るマックスが人を殺してしまい、しかも何らかの事情から時を戻すことができず、その人物の死が確定してしまったとしよう。

 ゲームによっては、ここで「私はとんでもないことをしてしまった。ゲームオーバー」というようにゲームが終了し、最後のセーブポイントからやり直しとなる。

 それは愉快なことでは決してないが、大きな過ちを「無かったことにしてやり直させてもらえる」という意味ではある意味温情であるとも言えよう。

 だがLife is Strangeには、そのようなバッドエンディングは存在しない。

 先ほどの例に従い説明すると、エピソード2辺りで人を殺してしまったとしても、一度運命が確定してしまったなら、その結果を背負ったままエピソード5のエンディングまでプレイせねばならないということである。

 なお付け加えて言うなら、このゲームはオートセーブであるため、全選択肢の前でセーブをしておく、というような真似はまずできない。


 プレイヤーの決断は、最後の最後までついて回る
 そう考えると、一個一個の選択肢が途端に重く感じられないだろうか。


・内気なマックスと不良少女クロエの『関係性』

 と、ここまで書いてきたものの、これら「時を操る」ことに関する要素だけ熱心に説明しても、本作の素晴らしさを表現したことにはなるまい。

 やはり本作について語るなら、ストーリーやキャラクターについて言及せねば嘘になろう。


 まずは何と言っても、5年ぶりに再会したマックスの親友、クロエについて語らない選択肢は無かろう。
 彼女を好きになれるなら、まずそれだけで本作をプレイする価値があるというものだ。


 クロエはマックスよりひとつ年上の19歳。見るからに不良のパンク娘。

 髪は染め、タトゥーを入れ、タバコも酒もクサもセックスもやり、家族とはしょっちゅう口喧嘩、遂にはマックスが来るかなり前にブラックウェルを放校処分となっている。

 5年前の面影もないクロエの姿に、マックスは戸惑いを隠せずにいた。


 クロエとてある日突然グレたわけではない。すべては5年前、父親を交通事故で亡くしたことがキッカケなのである。

 突如親を亡くして一番苦しい時期に、マックスは自分の元を去ってしまい、連絡も寄越さなくなった。

 母が再婚した男は、自分のルールでクロエを監視し、縛ろうとする。

 クソオヤジもクソ、あんなのと再婚した母親もクソ、自分を捨てたマックスもクソ、自分を置いて死んだ本当の父親もクソ、そして息の詰まるような狭苦しいこの町自体がクソ。


 こうして出来上がったクロエの性格は、非常に厄介である。

 威勢が良く喧嘩っ早い性格で、感情を抑えようとまるでしない。
 周りのすべてが気に入らず、欲望に忠実で、したいようにできないと途端にへそを曲げてしまう。

 しかし非常に友達思いで、やると決めたことはとことんやり切る女で……そして、非常に脆い繊細な心の持ち主でもある。


 クロエがマックスに向ける思いは複雑だ。

 ある時は命の恩人。
 ある時は便利な能力者。
 ある時は大親友。
 ある時は自分を置いて去った裏切り者。
 ある時は……それら複数を同時にぶつけてくる。


 このかんしゃく玉との付き合い方に、マックスは(そしてプレイヤーは)当然悩まされることとなるであろう。

 しかしそれでも、マックスにとってクロエは親友なのだ。

 5年間のブランクがあろうとも。
 いや、5年間のブランクがあったからこそ。
 今クロエを救い、あの日々の罪滅ぼしをしたい。
 そして、彼女と過ごす未来を築いていきたい。
 何故か手に入れてしまった、この能力を使って。


 これまでの時間を埋め合わせ、またそれ以上のものを作り上げていくように、ふたりは急速に接近し、絆を深めてゆく。

 そんなふたりの間へ静かに横たわるのが、先ほども少し触れた行方不明の高校生、レイチェルである。


 実はこのレイチェル、マックスがアルカディア・ベイにいない間、クロエに寄り添っていた『親友』なのである。


 共に悪さをし、共に町へと中指を立て、共に町を出る夢を抱き、共に寂しさを埋め合った。

 そんな彼女が、半年前に連絡のひとつも寄越さず消えた。自分に何も言わずに消えるなど絶対ありえない、何かあったに違いない。

 そう思ったからこそ、クロエは精力的に彼女を探すため動き、また彼女を探す鍵としてマックスを頼ることとなる。


 マックスの抱く感情は、クロエの役に立ちたい、そばにいたいという思いと……ほんの少しの、嫉妬かもしれない。


 この何とも言えぬ関係性は、私の胸をときめかせるのに充分であった。

 若い娘たちが互いに巨大感情を抱きながら、町の闇に中指突き立てつつフラッシュをたいていくとは。

 ここまで読んで「おっ百合か!?」となった皆さんは、こんな文章を読んでいないで今すぐLife is Strangeを遊んでほしいくらいである。


・寄り道をしよう

 このように、一番の見どころは何といってもマックスとクロエの関係性だと言えよう。

 ふたりが一緒に行動する以上、どのような進め方をしても必ずふたりの関係性、そして成長にぶち当たることになる。


 だが、それを楽しみたいからといって、その他すべてをなおざりにしていてはあまりにもったいない。

 というのも、このLife is Strangeは「寄り道をすればするほど味わいが深くなる」ゲームだからである。

 これこそが、Life is Strangeが映画やドラマではなく『ゲーム』という媒体で表現された理由であると、私はそう信じている(いや、実写化するのは知っているが)。


 このゲームには、ただクリアしたいだけならガン無視しても何の支障もないイベントが大量に転がっている。


 学校の壁に貼られたビラやポスター達などは分かりやすいだろう。

 掲示板を見れば学校が分かる、と登場人物が言うように、学校の雰囲気が分かるような張り紙が学内の至る所に貼られている。

 これらのほとんどはクリアに必要なフラグを立てる機能を有していないが、見れば見るほどこの学校の空気がリアルさを伴って伝わってくるだろう。


 それらに対するマックスの反応も見逃せない。

 たとえば、レイチェルを探すビラ。
 これは学内の至る所に貼られているのだが、全く同じビラに対して、マックスはなんと一枚一枚固有の反応を示すのだ。

 またレイチェルの張り紙だ……で済ませてもいいところを、かなり細かく作りこまれているのが分かる。
 操作キャラであるマックスの人となりが分かるし、彼女が心のうちでつぶやくアメリカっぽいジョークも見逃せない。


 たびたび登場する「写真を撮る」サブイベントについても語ろう。

 と言っても、犯罪の証拠を激写! というような大仰なものではない。

 最初の方で述べた通り、マックスは写真家の卵である。
 ゆえに、「おっ、これはシャッターチャンス」と思える場面があったら、パシャッと写真を撮ろうとするわけだ。

 撮ることで良いことがあるかと問われれば、アルバム機能により後から見返せることと、実績が解除されることくらいだろうか。

 撮影ポイント全てを巡り撮影できるすべての写真を集めても、本編中で特に有利な展開になるといったことは無い。

 だが、見返して楽しむことはできるし、マックスがどのような場面にインスピレーションを覚えるのか理解の助けとなる。
 何より、撮れば撮るほどマックスが写真を愛していることに説得力が出てくるのは間違いないだろう。


 ブラックウェルの生徒達を中心とした、アルカディア・ベイ市民達との会話イベントも見逃せない。


 クロエその他話しかけないとイベントが進まない登場人物以外にも、マックスの身の回りには様々な人間がいる。

 彼らの多くは無視しようが話が進む人々であるが、それぞれに悩みや苦しみを抱えていたり、あるいはいなかったりする。

 マックスは力を用い、彼らに関わることも関わらないことも、そして傷を癒すことも傷を広げることもできるわけだ。


 先に申し上げるならば、このゲームに『このイベントを見た』『このエンディングを見た』というような実績は存在しない(基本的には写真を撮ったかどうか、各エピソードをクリアしたかどうかだけが問われる)。

 つまり、誰もあなたにイベント回収を強制しない
 イベントを拾うも拾わないも完全にプレイヤーの裁量に任されているのだ。

 本筋以外はどうでもいいよ、結論だけ知りたいよ、というなら当然そうできるし、「ダルいけどトロコンしないと気が済まないからやるか」と無理矢理見たくもない選択肢を選ぶ必要も無い。


 だとしても私は、断然イベントを拾いながら進めることをお勧めする。

 イベントに対するマックスの反応は、彼女の人となりを教えてくれ、操作キャラへの愛着を深められる。

 壁のポスターやあちこちにあるオブジェクトは、このブラックウェル、そしてアルカディア・ベイの空気をよりリアルに感じさせる。

 他者との会話は、その人物の一見分かりづらい人となりや、意外な情報にも繋がっていくだろう。

 その積み上げた小さな寄り道が、攻略の上で思わぬ助けとなることもあるはずだ。

 繰り返していくうちに、あなたはきっとアルカディア・ベイという地に、そこに暮らす人々に、まるで隣人のような感覚を抱くことだろう。


・是非自分で触れてほしい

 このゲームには、映画やドラマのような演出がしばしば挟まれる。
 シナリオも意外な展開がいくつもあり、プレイヤーを飽きさせない。
 このゲームを評して「プレイする映画」と言う人もあるようだ。

 しかし私は、「本作は『映画』としてではなく、自分の手で『ゲーム』として楽しむことでこそ最高のパフォーマンスを発揮する」と主張しておきたい。


 確かに、人のプレイ動画を見ているだけでも「多少意味分からんシーンもあったけど、全体的には結構面白かったんちゃう?」程度の楽しみ方はできる。
 つまり「ストーリーや演出をなぞった」という体験ができるわけだ。

 ところがそこに「マックスとして、自分の手で選択をする」というもうひとつの体験が加わればどうだろう。

 あなたはマックスとしてアルカディア・ベイを歩き回り、しょうもない落書きやチラシを発見し、どこか陰のある(あるいはそうでもない)人々と交流を深め、その風景を写真に収め、そして運命を少しずつ変えてゆく。

 その中で、あなたはきっと気付くはずだ。
 ひとつひとつの決断が、段々と重みを増していくことに。


 外側から見れば「いやまぁ、常識的に考えたらコッチが正しいのと違う?」という場面でも、素直にそちらを選べなくなるかもしれない。

 放置したところで何の問題もないクラスメイトを見て、「何かできることはないか」と思わず話しかけてしまうかもしれない。

 マックスが親しく過ごしてきた人々が、まるで自身の友人のように感じられるかもしれない。

 だからこそ、究極の決断を迫られた時、あなたは画面の前で本気で悩むことになるかもしれない。


 そういった体験のひとつひとつこそが、この作品が「決断」を中心に置いたゲームである意味なのではないかと私は思う。


・おわりに~エピソード1だけでもやってみよう~

 そんなLife is Strangeは、現在PS3、PS4、PC、iOS(ただしiOSは2018/1/24現在エピソード3まで)でプレイできる。

 Android版も近日配信予定であるということなので、スマートフォンで空き時間に遊びたい方はそれを待つのもいいだろう。


 だが「今すぐ体験したい」「自分に合うかどうか試してみたい」という方には、SteamからダウンロードできるPC版をオススメしたい。

 何故なら、今ならエピソード1を丸ごと無料で遊べるからである。

 これで一旦エピソード1の最後まで遊んでみて「どうも肌に合わない」と思えばやめればいいし、「続きが気になる、エピソード5まで遊びたい」と思えばエピソード2以降を購入すればいいというわけだ。

 日本語化パッチも無料配信されているので、英語が苦手でも安心である。


 Life is Strangeは、時を操る特別な少女の物語である以上に、かつての親友同士が絆を深めなおし成長していく物語であり、良い意味でも悪い意味でも町の表と裏を見る物語であり、アルカディア・ベイに生きる人々の物語であり、そして『あなたが決断する』物語である。

 しっとりとした音楽と活き活きとした登場人物に彩られたこの町を、ネタバレ記事も読まず実況動画も見ず『自分の手で探索する』ことで、特別な体験が得られることを私は願っている。

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