臨床に活かすための弁証論治トレーニング① 眩暈

弁証論治トレーニング① 主訴:眩暈 女性38歳

半年前より、眩暈がある。
眩暈はふわーとする感じで、立ち眩みのようになることもある。グルグル回るようなことはない。
1年くらい前から仕事が忙しくてなかなか休めていない。仕事はデスクワークが多い。眩暈は仕事終わりに感じることが多い。
睡眠時間も少ないことが多い。
仕事は忙しいが、雰囲気の良い職場で大きなストレスはない。
食欲は大丈夫だが、決まった時間に食べられない。
お通じは2日に1回ぐらい。どちらかといえば硬いことが多いが、あまり気になるほどではない。小便は5回程度。
生理周期は元々遅いことが多く、32日周期ぐらい。痛みはあるが軽度。経血量は少なめだと思う。
最近携帯を替えた影響か、目の疲れが気になる。目がかすむようなこともある。
また、半年ぐらいまえからふくらはぎが攣りやすい。
手足はどちらかといえば冷えやすい。
肩こり(+)、動悸(-)、盗汗(-)、息切れ(-)
脈細 舌やや淡白 苔薄白
※(+)は所見あり、(-)は所見なしを表す。



Question.1 弁証結果を答えなさい。

初回は順を追って説明していきます。

弁証とは、中医学的に「なにが」「どこで」「どうなった」を突き止めることであり、病のメカニズムを把握することです。
「なにが」とは、主に生理物質のことを指します。原因が身体の外にあれば外邪となります。
「どこで」とは、病位のことです。五臓六腑・経絡・組織器官などがこれに当たります。
「どうなった」とは、生理物質が少なくなったのか、もしくは滞ったのかということです。言い換えれば虚実です。

一般的には、「八綱弁証」・「気血津液弁証」・「臓腑弁証」・「経絡弁証」などの様々な弁証方法を用い、弁証結果を導き出します。

まずは「八綱弁証」から。
八綱とは表裏・虚実・寒熱・陰陽の8つのことです。
八綱弁証は大枠を捉えるための弁証です。まずは大雑把に分けるといったイメージです。

次に表裏弁証。この方は表証なのか裏証なのか?
表とは身体の表層という意味です。表証とは主に身体の外からの影響(外邪)を受けている状態のこと。よく言われるのは、風邪を引いたときの状態です。症状としては、悪寒・発熱・脈浮などが代表的です。
裏証とは体内で原因が発生したものであり、表証以外のすべてが当てはまります。そうなると、気候の変化などが原因で現れた症状や、風邪をひいているときは表証であり、そういった状態が見られない場合には裏証の可能性が高いと判断することになります。また、表証の場合には比較的急性であることが多いです。風邪のウイルスが数か月や年単位で影響し続けるというのは考えにくいです。

今回の場合は、発症時の明確な原因が不明であり少し情報が少ないですが、慢性的に経過をしていることや、過労や睡眠不足が発症と関係していそうですので裏証と判断します。

次に虚実弁証。
虚証とは、生理物質(精気血津液)が不足している状態です。
実証とは、生理物質が滞っている状態。また外邪が身体に影響している状態を指します。
簡単に言うと、何かが不足した状態なのか、逆に何か余分なものがある状態なのか、ということを弁別するのが虚実弁証です。
過労や睡眠不足は生理物質の不足に繋がるため虚証になりやすいです。逆にストレスや運動不足・食べ過ぎなどは生理物質の停滞をまねきやすいため、実証となる場合が多いです。
今回の場合は、過労や睡眠不足などが挙げられ、虚証の可能性が高いと判断できます。

次に寒熱弁証。
寒証は冷えに傾いている状態を指します。
熱証は熱に傾いている状態を指します。
身体を温めたときにその症状が悪化するのか、楽になるのか?
症状の出現時に熱感を伴っているか、冷えを感じるのか?
そういった、冷えと熱の偏りがあるのかを判断するのが寒熱弁証です。
体質的な暑がりや冷え症などは、関係ないこともあります。
暑がりの人が冷たいものを食べてお腹が痛くなった場合、その原因は冷えですから寒証となります。体質はあくまでその人の傾向を示すもので、治療の対象と一致するとは限りません。

今回の場合、冷えや熱の所見は、、、特にありませんね。このような寒熱の偏りがない状態を平証(平寒平熱証)といいます。

陰陽弁証は、先の表裏・虚実・寒熱をまとめたものです。
裏証・虚証・寒証は陰証に属し、
表証・実証・熱証は陽証に属します。
陰陽弁証はあまり意識して考える必要はありません。他の6つを陰陽に分けているだけです。

というわけで、今回の症例で八綱弁証では、
裏証・虚証・平証と判断することができました。
まとめて、裏虚平と呼びます。

次に「気血津液弁証」に入っていきます。
気血津液弁証とは、
気虚・血虚・津液不足・精虚・陰虚・陽虚、気滞・血瘀・痰湿・実熱・実寒などの基礎的病態を主とした「病態」を導き出す弁証です。
言い換えれば、気血津液精陰陽の虚実を判断するということです。
虚実については、上の虚実弁証にて既に出ていますので、「なにが」を判断する段階となります。
今回の場合は、眼性疲労や転筋・経量が少ないなどの症状があり、また脈も細く、舌の色も淡いなど血虚の所見が揃っています。便が硬いのも血虚や陰虚の陰液不足で起こることが多いです。一過性なら実熱、便の出かたによっては気虚もありますが...
総合的に判断して気血津液弁証は血虚と判断して間違いなさそうです。

ここまで、八綱弁証(裏虚平)と気血津液弁証(血虚)について説明してきました。学校では、このような順で弁証を導き出していくことがほとんどです。
しかし、実際には、八綱弁証から考えるというのはあまり効率的ではありません。八綱弁証と気血津液弁証はリンクしており、気血津液弁証をすることによって八綱弁証は付いてきます。(※気血津液弁証の際に虚実弁証も一緒に考えると良い。と言い換えることもできます。)

例えば、今回のように血虚であれば、八綱弁証は裏虚平です。気血津液弁証が陰虚であれば八綱弁証は裏虚熱です。
従って、いきなり気血津液弁証をしてしまって良いということです。
「なにが」と「どうなった」を一緒に考えていくことによって、効率の良く弁証を導き出すことができます。
臨床的には、気血津液弁証が容易でない場合に、八綱弁証に戻って考えるというのが多いかもしれませんね。

最後に病位を求めます。「臓腑弁証」・「経絡弁証」となります。
五臓六腑に異常がある場合には臓腑弁証、経絡に異常がある場合には経絡弁証を用います。肝心脾肺腎(胆小腸胃大腸膀胱)の機能失調による症状が出ている場合には、五臓六腑の異常と考え臓腑弁証を行います。それらの症状がない場合や「痛み」の疾患の場合は、経絡弁証を用いることが多いです。もしくは、経絡病証といったその経絡の代表的な症状が出ている場合にも、経絡弁証を用いることがあります。
鍼灸学校で習う弁証はほとんどが臓腑弁証です。こちらの記事でも、基本的には臓腑弁証を用いていきます。
では、病位情報を探していきます。主訴の「眩暈」は「諸風掉眩 皆属於肝」と言われ、肝が原因で起こりやすいとされます。また、眼精疲労や転筋は五官や五主(五体)で肝との関りが深い症状です。
他の病位の所見も見当たりませんので、今回の病位は肝と判断できそうです。

補足ですが、動悸(ー)・盗汗(ー)は他の病位や病態を否定する所見です。病位が心ではない。病態が陰虚ではないということを表しています。

A. ということで、今回の弁証結果は、
「肝血虚」
ということになります。


初回は、まだ学校で弁証の授業を習っていない方々でもできるように、、、ということを意識して書いてみましたが、いかがでしょうか??



Question.2 病因病機を答えなさい。

A. 1年前から仕事が忙しくてなかなか休めないことや、睡眠時間が少ないことから、正気の不足や陰液が充足できない状態が続いたと推測できる。また、半年前からふくらはぎが攣りやすかったり(転筋)、最近目の疲れや目のかすみ(目花)気になることから、特に肝血を消耗してきていると考えらえる。
肝血虚により、髄海が養われず眩暈が出現していると判断する。


病因病機とは、「病の原因と病の機序(メカニズム)を明らかにすること」です。要は、なぜその弁証結果を導き出したのか、その理由を述べよということです。
基本的には、病態の根拠となる症状であったり、病位の根拠となる所見を挙げることによってその弁証を求めた理由を記載します。更には、なぜその症状所見がその病態・病位の根拠となるのかということも考えられると、より深く理解することに繋がると思います。

上記は解答例です。自分なりの文章で構いません。
最初に書いておきますが、弁証結果よりも病因病機の方が大事です。
弁証結果を求める際には、どうしても単語探しになりがちです。授業で習った症状を探す。しかし、実際にはその症状をもとに、身体の中で起こっている状態(メカニズム)を思考することが重要です。
実際の患者さんは、授業で習ったような症状が出てこないことが多くあります。そういった場合に、いかに身体の状態を思考・想像できるかは、この病因病機を考えるクセが付いているかにかかっています。
症状を探すだけの弁証しかできない方は、臨床の現場に出て患者さんを治すことはできません。国試はだいたいイケますが(笑)
まずはここを理解しておいていただきたい。症状を覚えているだけではダメです。

病因病機を求める際には、できるだけ文章化するようにしましょう。
これは、実際に患者さんに身体の状態を説明する際にも非常に役に立ちます。

あとは、基礎力の分だけ整合性の取れた病因病機を書くことができると思います。病因病機を考える過程で、必要な基礎が身に付きます。身に付いた基礎は更なる弁証能力(身体の状態を詳しく診れる力)の向上につながります。

国家試験では軽視されがちな病因病機ですが、臨床ではここが重要です。
弁証トレーニングをする意味が病因病機を考えることにある!といっても過言ではありません。


今回の症例を参考に弁証トレーニングを重ねることによって、臨床に即した弁証論治を身に付けていきましょう!!

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