河井元法相夫妻の選挙違反で検察は被買収側を不起訴、なぜだ!

○実刑判決を受けた元法相の河井克行被告夫妻から現金を受けた広島県の地元議員ら百人について、東京地検は2021年7月6日、全員を不起訴としました(99人起訴猶予、1人死亡による不起訴)。この判断はおかしい、公平ではない, と新聞各紙をはじめ各方面から厳しい批判の声が上がっています。

○克行被告の妻の案里被告の広島選挙区での参議院議員当選を目指し、100人に約2000万円を配ったとされるた大掛かりな買収事件。案里氏は懲役1年4か月、執行猶予5年の判決を受け、控訴せず、当選した議員を辞職。また,河井元法相は判決を前に衆議院議員を辞職していましたが、懲役3年の実刑判決を受け量刑が不満として控訴。夫妻とも政治生命は全く断たれました。

○選挙の買収事件は買収した方もされた方も処罰の対象となり、法定刑は全く同じ「懲役3年以下」です。ところが検察の処分は買収された100人は全員が起訴されず、お構いなし。200万円や300万円を受け取った人もですよ!
これを発表した東京地検の次席検事は「判決でも現金を受け取った側はいずれも受動的な立場だったと判断された。金額や回数など一定の基準で選別して起訴するのは適切でないと判断した」と説明しましたが、こんな説明が通用するなら、裁判所はいりません!
 「これでは検察の意に沿う協力をしたものは罪を免れると世間は受け取るだろう。それ自体が司法の姿をゆがめる。正しい証言をしたか疑わしくなるからだ」(東京新聞社説、7月8日)。月7日)。要するにこの処分は正義に背くやり方です。

○検察はこんなお粗末な処分をなぜしたか。それが問題です。私なりの推測をしてみましょう。検察はここ数年、目立った仕事は何もしていません。安倍晋三首相(当時)夫妻と親交のあった森友学園や加計学園の経営者が国から大きな利益を受けたと疑われたいわゆる森加計問題でも、巨悪を追及するような動きは全くしませんでした。
安倍政権下で、何もしない検察を主導したとされるのがのが、法務省官房長―事務次官―東京高検検事長と法務検察の中枢に居続けた黒川弘務氏で、政権の守護神とまで言われました。
○安倍政権は黒川氏が定年(検事は63歳、検事総長になると65歳まで伸びる)になる前に当時の稻田伸夫検事総長に退任して黒川氏を検事総長にする道を開くよう求めましたが、稻田氏は断固拒否。それではと安倍政権は検察庁法に基づかず黒川氏の定年を延長しました。
これに対し稻田総長は、東京、大阪、名古屋の特捜検事を広島県に大量動員し、買収事件を徹底追及しました。、政権が検察の人事を勝手に動かせるようになったら、こんな摘発すべき事件も摘発できなくなりますよ、ということを示そうとしたのです。政権と検察の最近にない、激しい争いとなりましたが黒川氏がコロナ禍なのに麻雀におぼれているのを週刊誌にすっぱ抜かれて辞任、という敵失もあって、意中の林真琴氏が後継の検事総長となり、検察は政権との争いで勝利しました。

○皆さんもご存知の去年の政権対検察の争いを振り返ったのは、この件が、検察がこの数年でやった唯一の「事件」だからです。そしてこの事件に取り組んだ理由は、それが検察の組織を防衛するためにどうしても必要だったからです。ただ、取り組んだ事件そのものは取り組むべき事件、摘発すべき事件として国民の支持を得られたわけです。

○ここで、今度の異常な処分(無処分)問題につながります。検察としては組織防衛のため全力を挙げて取り組んだ元法相の摘発だけに、万一にも失敗は許されない。見事な有罪判決を勝ち取らなければならない。そのための決め手は、買収された側の罪を認める証言であり、それを得るため、すなわち組織防衛のためなら、なら大量の不起訴など問題ではない、ということになるわけです。

○ここで思い出すのは、ロッキード事件の捜査を動かした有名なエピソードです。1976年冬、アメリカから事件の秘密資料が到着、金の流れが矢印付きで田中角栄前総理大臣(当時)に向かう図がありました。捜査の方向を決める検察首脳会議で、これを見た神谷尚男東京高検検事長(当時)は、「この事件に取り組まなければ、検察は国民の信を失い、20年は立ち直れない」と発言、検察首脳の心が一つになって捜査に突き進んだ、ということです。

○ロッキード事件の捜査でさえ、組織防衛の心情が捜査を進める側面があったわけで、そのこと自体は悪いことではありません。しかし、組織を守るため、正義にもとることをしていたのでは、元も子もありません。そのことに検察は思いをいたし、猛省すべきです。

○最後にもう一つ、これは希望的観測を。今度の不起訴処分について、検察審査会から、被買収者を起訴すべし、という要求が出てくるとが予測されます。その場合、検察は素直に起訴するのではないか。被買収者には暗黙の約束通り?起訴猶予にした。しかし、起訴すべしの民意が出たので、従わざるを得ない、として。##

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