胡蝶の夢

ふわふわと、夢を見ていたのだと思う。
早く目覚めなければいけないのに、あまりにも心地良く、耽美で、甘い。


冬の冷たい空気が夜の深度を下げる都会の真ん中。
突然頭から大量の氷水を浴びせられ、それまで横たえていた体を何の過程も踏まずに直立不動にさせられたような、そんな感覚。



驚いて

頭が真っ白になって

怖くなって


うまく呼吸が出来なくなった。



堰を切ったようにあふれ出る涙は、いつもよりも塩辛い。

情けなく震える声は、激しく、虚しく、霧散する。


今この瞬間「声をあげて泣く」という表現を世界で一番体現していたのはきっと私だと思う、と、どこか冷静に客観的評価を下す自分が生まれるくらいには、人目もはばからず感情を流出させていた。



その時から私の心臓は、その色も触感も温もりも、どこか無機質で浅はかになったままのような気がする。

これで終わりなんだと脳が理解するのと同じ速度で可塑性を帯び、輪郭がぐにゃりとへしゃげた、いびつな形のまま私の中心を陣取っている。


いつか、この歪みが治る日は訪れるのだろうか。




______胡蝶の夢



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