みんな飽きてきた新コロ、東京大学大学院数理科学研究科教授による答え合わせ

 東京大学大学院数理科学研究科、稲葉寿教授によるCOVID-19に関するまとめみたいな記事があったので紹介します。以下引用部分は全て該当記事からのものです。

 あらかじめ簡単に言っておきますと、8割おじさんのSIRモデルは何も手を打たないとこうなるよという意味において意義があるが、もともと社会経済変数については考慮されないもの。PCR検査については、偽陽性はほとんど出ないので流行の動向をモニターする意味がある、、、ってことで、床屋のおじさんの言ってきたことと大差ない

感染症数理モデルとCOVID-19

"科学的言明と政治判断の混同による混乱も少なくなかったが、それが数理モデルを活用するためのリテラシイの不足によって助長されたことも明らかである。"
"理論的分析がただちに政策として適用できるわけではなく、政治的判断はまた世論の支持をうけなければ実効的たりえない。理論・数理分析の結果をいかに有効な政策に結びつけるかに関しては多くの問題を残したといえよう。"
"SIR 型のモデルを固定パラメータで使用する限り、日本人口全体をホストとして一様な混合状態にあるものと仮定した上で、基本再生産数としてR0 = 2.5 程度を設定すれば、巨大な感染ウェーブが発生して、感染の自然収束までに9 割方の人口が感染してしまうという結論は、ほぼ動かないのである。"
"固定パラメータを用いることは、人々の回避行動や政策的介入効果などを反映することは出来ない。要するに、自律的力学系モデルによる計算は、人口学でいう「投影」(projection) であって、R0 = 2.5、世代時間が2 週間たらず、というパラメータをもつ感染個体群が潜在的に有する成長力を可視化させてみせる試算である。"
"これは投影結果を速度計としてイメージすればわかりやすい。ある瞬間における時速100 キロという速度は、1 時間後に100 キロ先へ移動しているという予測としては、ほとんど常にはずれるが、システムの状態の指標としては非常に有効である。"
"最近公開されたGoogle の予測は、SEIR モデルを基本モデル採用して、パラメータ変動を過去データから機械学習によって生成することによって、近未来の流行動向予測をおこなっている"
"介入行為の手を緩めればただちに流行が再興されるということであり、次第に大きくなる流行波に対して、集団免疫から十分に遠い状況では、「早期の自然収束」を期待することがまったくできない、ということであろう。"
"検体汚染などのヒューマン・エラー等がない限り、PCR 検査の特異度は、おおむね100 %(偽陽性はおおむねゼロ)であるという指摘が、経済学者を中心になされてきている"
"流行規模にかかわらず、普遍的大量検査をおこなうことは、非常に有効な制御手段であると考えられる。また十分な検査率を維持することによって、陽性率から流行動向をモニターすることができるという意義があることはいうまでもない。"
"今回の緊急事態宣言やロックダウンのような非薬剤的制御手段は莫大な経済的コストが必要であり、疫学的観点から適切な政策が、かならずしも実行可能ではないし、他の基準に照らして最適とも限らない。感染症数理モデルの社会経済変数との接合はまったく用意されていなかったことは指摘しておかねばならない。"
"感染症数理モデルは、流行を理解し、合理的な対策を立案するために不可欠な思考の枠組みを提供していることは間違いない。したがって、現状におけるその限界をわきまえつつ利用していく科学的体制とリテラシイを涵養していくことが重要であろう。"

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