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トリオンとタキオンの話

 ワールドトリガーに出てくる「トリオン」って「タキオン」が由来になっているんじゃないか、と思った話をします。

 この文章は月刊誌「ジャンプSQ」で連載中のSF漫画、「ワールドトリガー」に登場する「トリオン」と呼ばれるエネルギーに関する考察です。

 物語のネタバレはしないように注意しますが、設定上の情報は掲載誌の最新話分まで触れる可能性があります。ご注意ください。
 ワールドトリガーを単行本最新刊まで読んでいる読者さんが読む想定で書いていますので、作中の用語説明は最低限です。

 加えて、書き手こと僕は理数系学問が苦手です。解釈に曖昧なところがたくさんあります。考察・仮説というより予想・空想です。ご了承ください。

 この考察を読んで、ワールドトリガーをいつもと違う切り口で楽しむきっかけになれば幸いです。どうぞよろしくお願いします。

◯「トリオン」「トリガー」って何。

 ワールドトリガーの作中では「生体エネルギー」とされていて、その特徴は下のとおり説明されています。

 だいたい頭に入ってる人は読み飛ばしてOK。入ってなくても全部覚えなくてOKです。

・人間が誰でも持っている目に見えない臓器
 「トリオン器官」で生み出される。
・トリオンは「トリガー」の動力になる。
・人間のトリオンはトリガー使用等で消耗していくが、栄養補給や睡眠によって回復する。
・トリオンエネルギーは「トリガー」を用いることで、通常の物理法則では説明できないような大きな力を発揮する。人の脳機能を拡張させることもある。
・「トリガー」の機能は瞬間移動や空間の操作も可能にする。
・PCなどの高度な電子機器と同じ技術を再現可能。
・トリオンエネルギーは電気等他のエネルギーに転換できるが、効率は良くない。

 まだまだ作中では明かされていない謎が多くありますが、とりあえずこんなところです。

ワールドトリガー1巻 第5話
「空閑 遊真③」より

 不思議で謎の多いエネルギーが登場するフィクションは無数に存在します。たとえば「気」。たとえば「念」。「覇気」「魔力」「霊力」「妖力」「呪力」「マナ」「コスモ」「チャクラ」。そのフレーズを目にしただけでタイトルをパッと連想することができます。
 バトル漫画のお約束。主人公の成長、強敵の演出、勝敗の説得力、物語の面白さ丸ごとを支える世界観の柱でもあります。

 率直に言って、僕が10年以上前に初めてワールドトリガーを読み「トリオン」を知ったとき、その設定にはほとんど魅力を感じていませんでした。単行本で言うと3巻くらいまで読んだ時点ですね。
 思い入れ美化フィルターを除いて考えれば「微妙だな」とすら思っていたような気がします。あんまりワクワクしない……。

 だって便利すぎる。

 少し読むだけでわかりますが、トリガー技術は、ほとんど万能と言っていい程なんでも叶えてくれるテクノロジーです。

 便利すぎる、それはつまり「物語を作るのに都合が良すぎる」ことではないのか?

 今でこそ手放しにこの作品を「最高に面白い」と言って人に勧められます。おこがましいことですが、ワールドトリガーの世界を信用していると言ってもいいです。
 逆に言えば当時はこの「トリオン」を信用していなかった。この設定って、本当に物語を面白くしてくれるのか? という感じです。

 この最初に感じた「トリオン」への疑念が、やがて設定への純粋な疑問へ変じて、さらに好奇心へと転じていきました。

◯すこしふしぎ素粒子、タキオン

 続いて「タキオン」のお話をします。

 先にお伝えしておくと、ワールドトリガーに「タキオン」という存在は登場していません。

 タキオンというものを一言で説明すると「仮想上の素粒子」だそうです。現実世界で実在は証明されていません。

 もう少しだけ詳しく触れますが、その前に私がトリオンの元ネタとしてこの「タキオン」に注目した理由を端的に述べます。

 それは「ドラえもんに出てきたから」です。

 ワールドトリガーの作者、葦原大介先生は「ドラえもん」を始めとした藤子・F・不二雄先生の作品を強くリスペクトしています。

「3の形のくち」なんかはわかりやすい特徴ですが、何よりも藤子・F・不二雄先生が掲げていた「SF(すこしふしぎ)」というコンセプトが作品に大きな影響を与えているようです。

 私も昔はよくドラえもんの漫画を読んでいたのですが、その中に「すこしふしぎ」そのものみたいな物質が登場します。

 それが「タキオン」です。

 僕の知る限りで「ドラえもん」作品にタキオンというフレーズが登場したのは下2つの場面です。

・ひみつ道具「タイムふろしき」の構造解説

・「大長編ドラえもん のび太と銀河超特急」の中に出てくる「タキオン波通信」

大長編ドラえもん16
「のび太と銀河超特急」より

 作中では「タキオンが何か」は特に説明されていません。時を遡らせたり、宇宙の遥か彼方までの通信を可能にする、なんだか凄い存在であることしか読み取ることができません。物語の鍵になるようなものではないのです。さり気なく登場して、特に説明もない。

 しかしなぜか記憶に残る。謎の説得力とカッコよさがある。そんな魅力のある存在です。

 トリオンと名前がそっくりだし、ここから着想を得た可能性はある、と自分は考えました。理屈や推論で「トリオンの由来=タキオン」の発想にたどり着いたわけではありません。はっきり言ってしまうと、これからお伝えする理屈は全部後付けです。

 それはさておいて、タキオンの性質の話に戻ります。
 その特徴は以下のとおり示されています。

・仮想の素粒子で、実際に観測されたことはない
・常に光よりも速く動くとされている
・静止質量が虚数とされている
(=静止することがない)

 なんだか難しい表現も出てきていますが、一言で表すと「未確認超光速素粒子」みたいな表現になるでしょうか。

 自分には「素粒子」の理解も怪しいところですが、「超光速」が何より疑問です。
 超有名な学者が、「光より速いものは存在しない」って相対性理論とかで明らかにしていたはずでは?

 ちょっとだけ調べてみたところ、アインシュタインの特殊相対性理論では、

・真空の中で光の速度は常に一定であること
・物質を光を超える速さへ加速できないこと

 これらが証明されているそうです。
 裏を返せば、加速するまでもなく元から常に超光速の物質が仮に存在したとすれば、特殊相対性理論とは矛盾しないのです。
 僕は裏道やルールの抜け穴から可能性が広がるのが大好きなので、そんな風に説明されると1も2もなく惹かれてしまいます。すごいぞタキオン。

 さらに注目すべき点はタキオンの「逆因果性」という特徴です。
 タキオンは因果関係を逆転させる可能性があると考えられており、つまり、過去から未来への情報伝達や時間の逆行などが可能になるという仮説が存在するのです。
 当然、科学的な裏付けは得られていないSFフレンドリーな仮説に過ぎないのですが、これはまさにワールドトリガーの物語を動かしている「未来視」を可能にし得る性質です。

◯トリオンとタキオンの関係について

 ところで、タキオンはギリシャ語の「ταχύς(ターキス)=速い」から来ているそうです。

「タキ」の部分が「速い」という性質に由来しているなら、じゃあトリオンの「トリ」にも何か意味があるんでしょうか。たまたま「トリガー」から引っ張ってきただけで、あまり意味はないんでしょうか。

 気になって調べてみると、ギリシャ語の「トリ」とは数字の「3」を意味しているようです。

 この時点でワールドトリガーファン、通称「ワ民」の方々であればピンと来るものがあるのではないでしょうか。ワートリには「3」に因んだ固有名詞や設定が幾つか登場します。

 物語の舞台「三門市」。主人公の名前「三雲」。トリガーの名前だと「孤月」(=三日月)、「スコーピオン」(両の鋏に尾棘で三つの刃)などなど。僕が気づいていないだけで、探せばまだあるかもしれません。

三門市(人口28万人)

 さらに、作中では近界民が扱うトリガーの名がギリシャ語に由来するものが複数あります。トリオンが名称の由来を同じくしている可能性は十分にあると考えられます。

 以上のことから、「トリオン」とは「3つの性質をもっている」ことを意味している名称なのではないかと考えました。

◯3つの仮説について

まとめると、
・ドラえもんにタキオンが登場しており、語感がトリオンに似ている。
・トリオンの「トリ」はギリシャ語で数字の3を意味しており、作中の様々な設定に数字の3がキーワードのように散りばめられているし、ギリシャ語由来のトリガーも登場している。

 発想のきっかけはたったこれだけです。確証はなかったですし、この後のお話にもありません。ですが面白かったので、このまま自説がどこまで行けるか突き進んでみることにしました。

 そこで「トリオン」が「3つの性質をもっているエネルギー」であるという仮定のもと、その性質について次のように仮説を立てました。

【仮説1】
トリオンは「タキオン」と同じ性質をもつエネルギーである(=光を超える速度で伝わり、静止することがない)

理由……トリオンとタキオンの語感が似ており、作者が影響を受けた作品にも登場しているから。

【仮説2】
トリオンには「機能」「記憶」「生命」などあらゆる情報を直接載せることができる

理由……人の思考・意志だけでトリガーを起動したり、操作したり、武器や装備を作り出したり、ブラックトリガーを生み出せるという描写を説明できるから。

【仮説3】
トリオンは載せる情報に応じて速さと状態が変化する


理由……1、2を踏まえてトリオン「物質・非物質」や「可視・不可視」などの状態変化に説明がつくと考えられるから。

 仮説というよりただの予想ですが、以降の文章に馴染まなかったのであくまで「仮説」とさせてもらいます。なお、これ以降は【仮説1〜3】と略記します。

 なぜこの3つなのか、その理由は上に示したとおりですが、それぞれに発想のきっかけがあります。次の記事から個別に説明していきます。

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