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建築設計業界のポジショニング分析

はじめまして。安藤 研吾です。

やれ、建築業界は斜陽産業だ~。設計だけでは食べていけないから、他の業界との掛け算が重要だ~。などなどが業界内でも叫ばれ始めている昨今です。

僕はと言いますと、何となく業界内での経験もそこそこに、華やかなイメージもあり、とりあえず広告・マーケティング業界の勉強を始めているところです。(単純ですいません。。)

さて、そんなマーケティング業界では、競合と比べてどこが強み・弱みとなるのかを視覚化する「ポジショニング分析」なるものがあるということで、練習のため、まずは自分の所属する建築設計業界でこれをやってみました。(諸々至らない点もあろうことかと思いますので、こんな見方をしてしまう人もいるのかと、どうか温かい目でご覧頂ければ嬉しいです。)

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まずは、縦軸と横軸を設定します。

縦軸:芸術性 - 事業性

これは、設計事務所のスタッフが何を重視して取り組んでいるかの意識を軸にしています。根拠は、僕の肌感覚ですので、そんなものだとご覧ください。上に行くほど、建物の芸術作品としての価値・芸術性を求め、下に行くほど、建物自体の収益・事業性を求めるものと定めています。(施工や設計業務の収益性でなく、あくまで不動産事業としての建物の事業性です。)

横軸:洗練性 - 個別性

横軸は価値を高める方向性を軸にしています。他の競合との違いや独創性を価値とする方向を個別性、ある程度決まったルール・形式の中でより精度・練度を高めていく方向を洗練性と定義します。芸術としても事業としても、個別性と洗練性のどちらか片方のみということは現実にはあまりないため、どちらをより重視しているのかを基準に感覚的に分類しています。

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そのような2軸でポジショニング分析をやってみたのが下の図です。
クラスターから出ている矢印は、各クラスターが進もうとしている方向性を表現しています。どの方向性を目指すことが良しとされているかの価値基準のようなイメージです。

ポジショニング分析RRR

クラスター1:グローバル・アトリエ事務所

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SANAA、藤本壮介さん、隈研吾さんなどなど、国際的に活躍されるスター建築家を想定しています。

世界の競争を勝ち抜き、強烈な個性を空間に落とし込むスタイルで(個別性重視)、プロジェクトは事業性度外視のような芸術性の追求を価値とした、建築設計業界のオリンピックのようなクラスターです。ここで働くことは、基本薄給ながら超一級の努力やセンスが求められる過酷な環境です。

グローバルなスター事務所は、デザインの趣味嗜好はあれど汎用的な設計スキルが求められるため、世界中を転々と渡ることが可能となります(ただし、競争に勝てれば)。

クラスター2:ゼネコン・組織事務所

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ここを同一クラスターにすることの乱暴さを怒られそうですが、、業界を俯瞰すると類似した特性を持っているように感じてます。

基本的には、高い技術力を武器に、より洗練された建築をつくり、求められる事業条件の中で最大限の芸術性を出すスタンスだと感じています。(クラスターの図の左側が重心)

トップ組織事務所やトップゼネコン設計部においては、アトリエとそん色ないレベルの芸術性や個別性の高い建築も実現されています。しかし、もちろん入社や社内での競争は非常に激しく、堅実な顧客が多いため、クラスター1と同程度の芸術性の追求を行うことは現実的にはとても困難となります。

クラスター3:サロン的住宅作家

中村好文さん、堀部安嗣さん、横河健さんなどなど、主に東京芸大ご出身の建築家の方々を想定してます。古くは吉村順三さん、宮脇檀さん、益子義弘さんらの、玄人受けのする洗練された空間や素材の心地よさを追求されるクラスター。高知県の土佐派のような地元の伝統技術とのミックスを図る事務所も。

事業性を度外視した高級住宅の作品が多く、お客さんの多くもセンスの良い陶芸作品を購入されるように、住宅を購入されているのかと想像します。

顧客の生活の感度も(年収も)非常に高く、全体としての顧客数も多くないことが想像されるので、少ないパイを取り合うという面で競争が激しい環境です。

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ここまでが、新建築などの建築メディアで主に目にするいわゆる「建築設計業界」なのかなと思います。建築設計業界では技術の洗練性と芸術性の追求には高い関心がある一方で、事業性についての関心が非常に低くなっているように感じ、そこに分断があると感じています。

なお、ほとんどのアトリエ設計事務所は、各々の町でこのスコープ範囲内でお仕事をされていることが一般的かと考えています。

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クラスター4:ハウスメーカー

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ハウスメーカーは、先ほどの建築設計業界のスコープにおいては存在感はあまり無いのですが、一方で市場においては相当なシェアを占めています

ハウスメーカーの強みは、洗練された設備のスペックや構造、効率化された施工プロセスや、需要を把握するマーケティングスキルであり、総じて建築の意匠性よりも事業性向上を目指していると考えます。(乱暴な言い方ですが、理想は素早く安価に住宅を作り、素早く高く売ること。もちろん、それが実現できるのは、それだけ顧客に評価されていることが前提となるため、事業性の追求を批判する意図はありません。)

人口減の日本では、新築着工件数が下がることは明らかなため、現在の会社の規模を維持するためには、海外市場か新規事業への活路を見出すことが必要となります。なお、クラスタートップの大和ハウスは、既に営業利益の戸建住宅の割合はわずか5%程度となってます(2018年時点)。

クラスター5:不動産デベロッパー

設計業界の分析なのに??と、思われるかもしれませんが、デベロッパーでも設計業務を一部内製化しているため、分析に含めました。

設計や施工だけでなく完成後の建築事業を事業主として関わるため、他のクラスターとは桁違いの事業性の追求が求められます。特に賃貸ビルの場合は、建物のライフサイクルを共にすることになります。

グローバルにみると、不動産ビジネスは金融業界に属することが多いのですが、金融業界の中でもヘッジファンドやVC等のように、「いかに他人と異なるリスクを負って高い利益を稼ぐか」という個別性の高い事業性追求(ハイリスク・ハイリターン)ではなく、「いかに手堅く安定して稼いでいくか」という洗練性が高い事業性追求(ローリスク・ローリターン)が不動産業界の特徴かと感じてます。

とはいえ、財閥系トップデベロッパーを中心に、従来の洗練された不動産ビジネスから、個別性が高くリスクあるビジネスを模索されているのもこのクラスターの特徴です。

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ここで、ポジショニング分析の図を再掲します。

ポジショニング分析RRR

ここまでが、既存の建築設計業界であり、ここからは新興のクラスターを見ていきます。

クラスター6:建設+事業コンサル

事業性をあまり重要視しない建築設計者と、建築事業の責任を負うことになる事業者の間には大きな溝がありました。そこに目を付けたのがこちらのクラスター。

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高い技術力(施工技術やIT技術等)をもとに、「建築がどのように事業に貢献するか」という視点でのコンサルタントを行っています。一部の企業では自社で事業を行うこともあります。

CM・PMの技術を用いて、建物資源をいかにして経営に役立てるかを提案する山下PMC、BIMを用いて経営判断のサポートを行う安井建築設計事務所、CIMなどのIT技術によりインフラ維持管理費の側面から自治体経営へのサポートを行うアラップ、建築と組合せた事業計画やブランディングも担うプランテック等が挙げられます。ゼネコンや組織事務所の一部の部署も類似した事業部を持ちますが、上記のように事業性を重視する組織文化を持つ組織と、本音のところは芸術性の追求を目指す組織とでは、現実的に取れるアクションが異なってきます。(本音では芸術性を追求している組織で事業性を追求するためには、芸術性を嗜好する方々を説得するというコストが常に必要となります。)

クラスター7:リノベ業界

ここではあえて広くリノベ業界と設定します。リノベーション・改修のプロジェクトは、そもそも建替えが事業として成立しない立地での事業であったり、事務所の稼ぎとしても工事費歩合となる設計費だけでは稼ぎが小さいため設計費以外のフィー獲得が必要になるなど、事業性の追求をせざるを得ないクラスターとなっています。
また、このクラスターの中には、従来のアトリエ事務所と近い業態(芸術性・個別性が高い)から、事業者として事業を行う業態(事業性・洗練性が高い)までが含まれています。

トレンドとして、前者(芸術性✕個別性)においては個別性の高い事業を事業者としてリスクを取ってチャレンジする傾向があり、後者(事業性✕洗練性)においては(多くは資本が入り)より堅実にリノベ事業を拡大していく傾向がみられます。三井物産の資本の入っているリノベるさん、京王電鉄から出資されているリビタさん等が後者の例です。

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分析からの所見

ここまで、勢いでポジショニングマップを作成し、文章もつらつらと書かせて頂きました。この作業を通して考えたことをまとめます。

① 個別性高い事業のできるデザイナーはブルーオーシャン

個別性・芸術性の高い領域は、オリンピックのような世界で国際的に激しい競争が繰り広げられています。洗練性・芸術性の高い領域は、そこのサロンに参加できるかどうかでも勝負が分かれてしまうのも現実です。

芸術性でなく事業性で勝負をしようにも、設計やデザインを生業にしていたデザイナーが今更洗練されたビジネスでデベロッパーの方々に勝てる見込みは相当小さいでしょう。しかし、従来のビジネスとしては負けが濃厚な敷地やコンテンツでも、アイディアで勝たせていくような「個別性の高い建築ビジネス」を実現することができれば、そこは競争相手の少ないフィールドになりえるのかと感じました。芸術的な素養(他の人と異なることを良しとする)は、個別性と相性が良さそうです。

② 自分のポジション選びのヒントとして

ある程度決まったルール・形式の中で洗練性を高めることが得意か、人と異なる独創的な個別性を表現することが得意か。また、芸術的価値の追求が好きか、事業性の追求が好きか、個人のキャリアを考えたときに、どこのポジションが好きかな?と考えるきっかけにはなりそうです。

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初めての note投稿、だらだらとした駄文にお付き合い頂き、有難うございました~!

【追伸】建築デザインの可能性を拡げるための考えと実践もまとめてみました。こちらもご笑覧頂ければ嬉しいです。


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