鬼盗賊

音楽
フクロウの声
焚き火の音
旅の商人が1人、休んでいる

商人「山での野宿には慣れてるが不気味なもんだ。早く朝にならんかな」

ガサガサと音がする

商人「ん…?なんだ?…熊か?」
高虎「おい」
商人「…あ…あわわわ……お、お、鬼だ…!あわわわわわ…」
高虎「着ている服と持ち物を置いていけ。さもなくばお前を食ってやるぞ」
商人「は、は、はひ!」

商人、急いで服を脱ぐ

商人「ど、どうか、これでお許しください…!」
高虎「がおぉぉ!!」
商人「ひ、ひぇぇぇーーーっ!!たっ、助けてくれーー!!」

商人、倒けつ転びつ逃げていく
焚き火の音
足音

高虎「…くくく。ふふふふ…はーっはっはっは!鬼の面をかぶって脅かすだけで皆腰を抜かし何でも差し出す…。ひひ。こんなに簡単に銭が手に入るんだ。こりゃやめらんねぇな!」

雷が轟く

高虎「うわっ!な、なんだ…!?」
鬼「おい」
高虎「誰だ!?」
鬼「お前かぁ〜!鬼を騙(かた)って悪さしてる悪党は!」
高虎「お、鬼!?そ、そんな…馬鹿な!さては俺を脅かそうってんだな!?」
鬼「…このワシが人間に見えるか?」
高虎「こ、これは夢か?…お、お、鬼なんてこの世にいるはずがねぇ…!」
鬼「そう…ワシは地獄から来たんだ、高虎よ」
高虎「どうして俺の名を!?」
鬼「そりゃもう閻魔帳に載ってんだよ。お前の今までの悪行が全てな。その鬼の面は、お前が殺した渭津三右衛門(いのつのさんえもん)という男がこの山の神社に奉納するために作ったものだ。罰当たりめ」
高虎「あいつか…大事そうに金抱えてると思ったら…チッ!でもまぁこの面は気に入ってるぜ。顔を隠すのや脅しにも使える。俺の代わりにあの世の奴に礼を言っといてくれよ」
鬼「お前もこれからあの世に行くんだよ。ただし地獄だがな」
高虎「なんだと?」
鬼「鬼を騙るのは重罪だ。閻魔様の手続きなしで地獄に直行と決められているのだ。今ワシが決めた」
高虎「お、俺はまだ生きてるぞ!!」
鬼「それならば心配に及ばん。ワシが今からこの金棒でお前をぐちゃぐちゃに叩き潰して魂を引きずり出してやるからな」
高虎「ひ…!か、勘弁してくれよぉ。俺だって生きるために必死だったんだ。しかも殺したのはたったの1人。1人だぜ?それも抵抗されて仕方なくだ!な?殺すつもりはなかったんだよ!…ふ、麓の村に目が不自由な女房がいる!俺が居なくなったら生きていけない!俺だって本当は盗みや殺しなんざしたくないんだよ…!頼む、助けてくれよ!」
鬼「嘘つきは舌を抜くぞ。そしてその舌はあの世の肉屋で亡者タンとして安売りされ、毎年お盆に行う三途の河原バーベキュー大会で振る舞われるのだ」
高虎「う、嘘じゃねぇ!本当だ!」
鬼「…まぁワシもそこまで鬼じゃない。鬼だけど。地獄行きは変わらんが、これから悔い改め人一倍善行を重ねると約束すれば、ここは目を瞑ってやらんこともない」
高虎「わ、わかった!もう追剝ぎからは足を洗う!約束する!」
鬼「ただし!!」
高虎「ぐっ…!」

鬼、高虎に面を押し付ける

鬼「この鬼の面は二度と外れない。死ぬまでな。渭津三右衛門がお前にくれてやるってさ」
高虎「な!?く、くそっ…!顔に貼り付いて取れねぇ!!」
鬼「無理に外そうとするなよ。顔の皮も一緒に剥がれるぞ」
高虎「畜生!!どうなってやがる!」
鬼「いいか…!これからは鬼のイメージアップに尽くすのだ。さもなくば即地獄行きだぞ。じゃあな」
高虎「おいっ!待て!!待ってくれ!!おーーい!!」

雷が轟き、姿を消す鬼
フクロウの声
ガラッと引き戸が開く

楓「どなた?」
高虎「…俺だ。帰ったぞ」
楓「おかえりなさい。わらじは売れた?」
高虎「お、おう。…全部売れた」
楓「良かった。帰りが遅いから心配してたのよ。最近山に鬼が出るなんて噂があるの」
高虎「お、鬼の話なんかするんじゃねぇ!!風呂だ!風呂!」
楓「は、はい」

風呂の音

高虎「ふぅ〜…。(楓の目が見えなくて助かったぜ…。しかし、これからどうすりゃいいんだ?体まで鬼みたいに赤くなってきやがるし…この顔じゃ外も歩けない…)」

引き戸が開く

楓「あなた」
高虎「わあっ!!」
楓「お背中、流しましょうか?」
高虎「勝手に入ってくるな!大丈夫だ、自分でやる!」
楓「す、すみません…」
高虎「ったく。…あ、そうだ。俺の着物の懐にかんざしが入ってるはずだ。お前にやる」
楓「ありがとう。嬉しいわ」
高虎「後で付けてやるよ」
楓「自分で見られないのが残念だけど…」
高虎「俺が見てやるからいいんだよ」

音楽

高虎(案外…このまま暮らしていけるかもしれないな。女房と地道にわらじ作って…なぁに、売りに出掛ける時は頭巾で顔を隠しゃいい)

囲炉裏の音
楓、高虎に酒をつぐ

楓「はい、あなた」
高虎「おう」
楓「こうやってご馳走が食べられるのもあなたのおかげよ」
高虎「(酒をぐいっと飲む)楓。俺はおめぇと一緒になれて良かったよ」
楓「…あなた、本当に高虎さん?」
高虎「ぶっ!!な、何言ってんだ!俺は俺だよ」
楓「そうよね。可笑しなこと言ってごめんなさい。でも、今夜のあなた、いつもと違う気がして…」
高虎「い、いつもとどう違うってんだよ…(懐の短刀に手をかける)」
楓「いつもはもっと荒々しいというか…。でも私は…今日みたいな優しいあなたが好きです」
高虎「楓…」

ドンドン!
引き戸を叩く音

桃四郎「開けろ!取り調べだ!」
楓「…何かしら?」

引き戸を開ける

楓「どちら様…?」
桃四郎「拙者、清水桃四郎と申す。町の商人に鬼退治を依頼されて参った」
楓「お、鬼退治?…あの、なぜうちに?」
桃四郎「いや、その商人は山で鬼に襲われ金品を強奪されたそうだが…鬼などこの世にいるはずがない。大方鬼に扮した賊の仕業だろうということで、麓の家々を調べているのだ」
楓「はぁ」
桃四郎「む。なんだ…?そこにいるのは誰だ?」
高虎「へ、へぇ。亭主の高虎と申します。しがないわらじ売りでさ」
桃四郎「なぜ頭巾なぞかぶっている?」
楓「…頭巾?」
桃四郎「女は目が見えんのか。…ん?そのかんざし、上物のようだが…どこで手に入れた?」
楓「え…?これは、主人が私に…」
桃四郎「見せてみろ」
楓「あっ」
桃四郎「ふむ…これは鼈甲細工だな。米俵5つは軽く買える高級品だ」
楓「そんな、まさか…!」
桃四郎「お前らのような貧乏人が買えるような代物ではないぞ。おい、亭主。これをどこで手に入れたんだ?」
高虎「…」
桃四郎「答えろ!!(家に上がり込む)」
高虎「…」
桃四郎「女は目が見えず、亭主は耳が聞こえんとでも言うのか?」
高虎「…」
桃四郎「その沈黙で確信した!!えぇい!頭巾を取れっ!!」
高虎「…!」

バサリと頭巾が宙を舞う
音楽

桃四郎「げ!?…なんだ!お前は!!お…鬼…!?」
高虎「…」
楓「…鬼?」
高虎「…くくく…ひひひ…ひゃーはっはっはっは!!バレちゃあしょうがねぇなぁ!!」
桃四郎「く…!女、お前も鬼の仲間か?(刀を抜く)」
高虎「仲間ぁ?そんなわけないだろう。俺はこれからこいつを食うところだぁ!クソ野郎が!邪魔しやがって!」
桃四郎「男に化けていたか!!まさか本当に鬼が存在していたとは…!」
楓「う、嘘でしょ?高虎さん…!」
高虎「高虎〜?誰だそれは?昨日山でわらじ売りの男を食ってやったが、そいつのことかぁ?」
楓「そ、そんな…高虎さんが…」
高虎「うまかったぞ〜!!だが食うならやはり女の肉がいいなぁ〜ひーひひひ!」
楓「い、いや…!」
桃四郎「女、俺の後ろに隠れていろ!!おのれ、醜い鬼め!!叩っ斬ってやる!!」
高虎「ぐぅおぉぉぉーー!!」

斬撃音
河原の音
足音

鬼「おい」
高虎「あぁ、鬼か。てことはここは三途の川か…」
鬼「お前、最後に女房を助けるために嘘をついたな」
高虎「ここに来ないってことは、楓は無事みたいだな…。舌でも何でも持っていきやがれ」
鬼「お前が人助けをするたぁ感心したぞ。涙が出た。鬼の目にも涙ってやつだ」
高虎「そ、それじゃあ…地獄行きは無しか?」
鬼「はっはっは」
高虎「…は、ははは、はははは!」
鬼「はーはっはっは!!…馬鹿者。お前の地獄行きは変わらん。全然鬼のイメージアップになってなかったしな」
高虎「そうだよなぁ。でも…案外、鬼も悪くなかったな」

おわり

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クレジット
脚本・演出…司馬ヲリエ
出演…
高虎/内藤いってん
鬼/丸山タカシゲ
楓/との
桃四郎/山下昭広
商人/むーむー

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