ぼくと赤いロボ

蝉の声
夏の山道
田舎のバスに乗る少年がひとり

婆「ぼうや、ひとりかい?」
少年「うん」
婆「ひとりでバスに乗って、えらいねぇ。いくつなの?」
少年「7さい」
婆「へぇ7歳!どこから来たの?」
少年「東京」
婆「えぇ?東京?遠いとこから来たんだねぇ」
少年「これから親戚の叔母さんちに行くんだよ」
婆「道わかるのかぃ?」
少年「去年も来たことあるからだいじょうぶ」
婆「へぇ〜えらいねぇ」
少年「パパが夏休みが終わったら迎えに来てくれるんだ」
婆「へぇ〜そうかぃ」

バスを降りる少年
バスが発車する音

少年「あれ?叔母さんがバス停に迎えに来てくれるって言ってたけど…誰もいないや。…ん?(駆け寄る)…あ!こんなところにロボットのオモチャが落ちてる」

少年、ロボットのオモチャを拾う
音楽

少年「君、こんなところで何してるの?忘れ物?それとも捨てられたの?」
ロボ「…ちがう」
少年「わっ!」
ロボ「充電しているのだ」
少年「しゃべった!?」
ロボ「ハロー…」
少年「すごいや!君は誰?名前は?」
ロボ「私はアカイロボ。名前なんてないよ」
少年「赤いロボ?」
ロボ「そう。首は360度回転し、一斉掃射が可能だ」
少年「かっこいい!じゃあ、トムって呼んでいい?」
ロボ「トム?」
少年「ぼくの名前がツトムだから、君はトム!」
ロボ「ツトム…トム…好きに呼ぶといいよ」
少年「ねぇトム、ぼくと友達になってよ」
ロボ「友達?何それ」
少年「知らないの?一緒に遊んだりする子のことだよ」
ロボ「ふーん。充電できるまでならいいよ」
少年「やったぁ。今からぼくと君は親友だね」
ロボ「わかった。で、親友って何だ?」

夕方
虫の声、風鈴の音
テレビの音(相撲とか野球)
食卓の音

叔母「ツトムくんは本当しっかりしてて良い子ねぇ。東京からひとりで来れるなんてすごいわ。疲れたでしょう?」
少年「全然平気だよ」
叔父「ははは。さすが男の子だな!いっぱい食え」
少年「うん!」
叔母「デザートにスイカもあるわよ」
少年「ありがとう」
叔父「そうだ。明日、川にでも行ってみるか。友達ができるかもしれんぞ」
少年「おじさん、友達ならぼくもうできたよ!ほら」
叔父「んん?見たことないロボットだな。最近のやつか?」
少年「赤いロボだよ!」
ロボ「ハロー」
叔母「あら、かわいいわね」
少年「へへ。名前はトムって言うんだ」
叔父「しかしずいぶん汚れてるな」
少年「バス停で拾ったんだ」
叔母「オモチャなら買ってあげるのに」
少年「いいよ、トムはかっこいいし、ぼくの言うことなら何でも聞いてくれるんだ」
叔父「へぇ、ツトムが命の恩人ってわけだな」

テレビの音(背景にうっすら)
キャスター「番組の途中ですが、ニュースをお伝えします。老朽化した東京第二原発の廃炉作業に伴う放射性廃棄物の埋め立て予定地では、多くの反対デモが起こっており、政府は最後通告が受け入れられない場合は強制排除に乗り出す可能性があると伝えています」

少年、積み木でロボと遊んでいる

少年「う〜う〜!大変です、町に赤いロボが現れました!」
ロボ「ドドーン!」
少年「ああっ!家や車が!」
ロボ「ビビー!!」
少年「うわぁ!ビームで町が爆発したぁ!!どかーん!!」

積み木を崩す
電話の音
テレビの音小さく
足音

叔母「はい、もしもし?あぁ、兄さんどうしたの?…えっ?迎えに行けないって…どういうこと?…えぇ?…(小声で)じゃあツトムくんはどうするのよ?…え…任せるって…無責任過ぎるんじゃないの?ちょっと!もしもし?」
叔父「おい、どうした?」
叔母「…」
ツトム「おばさん、パパから?」
叔母「え、えぇ…」
ツトム「パパ、迎えに来てくれないの?」
叔母「…」
ツトム「夏休みの間だけっていうのは嘘だったの?」
叔母「そ、そんなことないわ…きっと迎えに来てくれるわよ」
ツトム「…」
叔父「心配するな、ツトム!もし、パパが迎えに来なかったら叔父さんが面倒見てやる!」

ツトム、泣くのを堪え部屋を飛び出す

ツトム「…!」
叔父「ツトム!」
叔母「ツトムくん!」

音楽
バス停
走る少年、立ち止まる

少年「はぁはぁはぁ…はぁ」
ロボ「ツトム、どこ行くの?」
少年「はぁはぁ…トム…、ぼく…捨てられたみたい」
ロボ「そうなの?」
少年「君と同じになっちゃった」
ロボ「…ちがう。私は自分の意思でここに来たんだ」
少年「じゃあ…また、どこかへ行っちゃうの?」
ロボ「そうだよ。それが破壊ロボの宿命さ」
少年「ハカイロボ?君は赤いロボだろ?」
ロボ「どっちでもいいよ。充電もできたし、そろそろ行くね」
少年「そんな…行かないでトム!お願いだ!ぼくをひとりにしないでよ!ぼくたち親友でしょ?」
ロボ「あぁ、そうだね。私たちは親友だから、特別にパパとママを連れて来てあげるよ」
少年「…いらない」
ロボ「え?いらないの?」
少年「いらないよ…ぼくを置いて行ったママも、ぼくを捨てたパパも大嫌いだ!」
ロボ「…わかった。じゃあね、ツトム」
少年「トム!!」

トム、夜空に向かって飛んで行く
足音

叔父「ツトム!こんなところに居たのか!」
叔母「心配したのよ」
少年「う…(声をあげて泣く)」
叔母「あらあら…ひとりで怖かったね」
叔父「よし!帰って一緒に風呂でも入るか。な?」

翌日
蝉の声
洗い物をしている叔母さん

叔母「ツトムくん、スイカ食べたら皆で泳ぎに行こうね」
少年「うん」
叔父「あれ、俺水泳パンツなんて持ってたかな。ちょっと探してくる」
叔母「普通のパンツでいいんじゃない?」
叔父「さすがにそれはまずいだろ」
叔母「10年くらい前のだったらあるはずよ」

叔母・叔父部屋を出る
蝉の声・風鈴の音
TVが流れている
キャスター「緊急ニュースを中央報道機関からお伝えします。昨夜東京上空に現れた謎の飛行物体は…」

(少年ナレ)
ぼくは夏休みが終わってもここで暮らすことになった。
うるさい蝉の声にも、まっくらな夜にも、叔父さんや叔母さんにも、ぼくは慣れることができるかな。
それより、トムはどこへ行ってしまったんだろう?
テレビでは特撮映画が流れていて、トムによく似た赤いロボットが町を破壊していた。

セミの声止む
サイレンの音
音楽

おわり

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クレジット
脚本・演出…司馬ヲリエ
演出補佐…丸山貴成
出演…
ツトム/山内愛華
ロボ/くつべら眼鏡
叔父さん/山下昭広
叔母さん/との
お婆さん・キャスター/阿部光歌

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