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2024年に考えるべきこと①

2024年はどんな1年になるのだろうか?私は、大局観としては、「政治的な混乱、経済とマーケットの正常化、そしてテクノロジーのカンブリア紀到来」をテーマに掲げている。

色々と考えていることを整理しておきたい。個別項目にあまり深入りはせずに、ポイントをピックアップしてみたい。何かのヒントになったら幸いだ。

1.ダボス会議のテーマ「信頼の再構築」

24年のダボス会議の主要議題は、「信頼の再構築」とのことだ。信頼の再構築ということは、今の世界は「信頼を失いかけている」という危機感があるのだろう。何の信頼を失っているのか?様々な信頼が失われていることは間違いない。我が国でも自民党にたいする信頼感が大きく低下している。しかし、やはり世界が危惧している信頼の失墜とは、「戦後の国際秩序、欧米を中心としたWTOやらIMF、国連などの体制の機能不全」であろう。とりわけ米国が世界唯一の超大国として君臨して、言うことを聞かない国々に睨みを利かせたり、武力行使を行ったり、金融制裁をしながら、秩序を守るという方法は機能しなくなってきた。ウクライナ戦争はそれを象徴づけた。SWIFTからの除外」という米国の伝家の宝刀的な金融制裁は、「経済の核オプション」とも呼ばれてきた。SWIFTから除外されてしまうと、国際金融市場にアクセスできず、国家は孤立し、死活的なダメージを受けると恐れられてきたしかし、米国がロシアをSWIFTから除外する金融制裁を課したにも拘わらず、ロシアは壊滅的なダメージを受けていない。もちろん、ロシアがエネルギーという特殊な資源を保有していることが要因で、他国は同じ真似はできないとしても、「経済の核オプション」が効かなかったことは、1つの分岐点になったと感じた。第三国が米国を必要以上に怖がらなくなっていくのだろう。
この戦後秩序の崩壊の流れは、もう戻らない。ゆえに、世界は新たな秩序を形成して、それをベースに信頼を再構築することが求められている。中国はそういう意味で1つの答えを提示している。グローバル文明イニシアティブ、グローバル発展イニシアティブ、グローバル安全保障イニシアティブだ。問題はこれまで戦後秩序を維持してきた欧米諸国や日本である。今も既存の国際秩序を維持するために、仲間となる国を増やし、時には利益や脅しをちらつかせるという20世紀型のパワーゲームを展開しているように見える。グローバル・サウスを仲間に引き込もうという努力は、本質的には時間稼ぎに過ぎず、無駄なものだ。信頼の再構築というテーマは、2024年に答えが出るようなテーマではない。世界は2030年に向けて、一歩進んだり、2歩下がったりしながら、進んでいくのだろう。1つ間違えば、血が流れる危険なものだが、仮に新たな国際秩序が形成され、その秩序に一定の信頼感が生まれるなら、世界は次の30年間に向けて安定して穏やかに成長していくことになる。大きなテーマとして、注目しなければならない。

2.2つの戦争の行方

24年はウクライナ戦争と、中東ガザでの戦争の二つがともに終わる可能性がある。後者については確実に終わることだろう。戦争が終わった後は、復興と新たな統治の問題と、それを実現するためのお金がテーマになる。
ウクライナのポイントは、ウクライナ大統領選が実施されるのか?ということと、ゼレンスキー大統領とザルジニー総司令官の権力闘争、そして西側の戦闘機を含む兵器の実戦への投入及び、追加の支援金の状況だ。どのような形でこの戦争が終結するのか、その終戦を導くプレイヤーは誰なのか?今後の国際秩序の再構築にも深く関係するだろう。中東においても、今回のイスラエルのハマスへの苛烈な報復を受けて、中東力学と周辺国との関係が変化してきている。引き続き、24年前半の地政学リスク要因として注意だ。

3.軍事的に存在感を増す朝鮮半島

朝鮮半島の軍事的な存在感が増している。北朝鮮はロシアのウクライナ軍事侵攻を支持しており、ロシアに弾薬を供与し、労働力の提供の用意さえあるようだ。一方の韓国も武器輸出国として、このウクライナ戦争を機に、世界的に認知された。韓国製の155ミリ砲弾が米国に110万発も供与され、米国を通じて、ウクライナに送られていることは話題になった。1950年に始まった朝鮮戦争は、米ソ代理戦争と言われるが、現代では朝鮮半島で製造された弾薬や兵器が、ロシアと西側が支援するウクライナの武器に使われていることに、何か頭がくらくらする。ところで、北朝鮮の次の展開も気になるところだ。年末に金正恩総書記が、韓国について「同族関係」ゆえに民族統一するという路線を諦め、「敵対的な関係」と位置付けたことは不気味だ。金正恩氏も今年で40歳となるはず・・そろそろ新たな動きを始めるのかもしれない。

4.3極体制に向かう世界の核兵器

中国が核兵器の開発を加速させている。中国はこれまで米国とロシアしか保有していない陸海空を統合した強力な核兵器運搬システム(大陸間弾道、潜水艦発射型ミサイル、戦略爆撃機による三元戦略核戦力)の実現を目指しているとのことだ。2030年までに現在の4倍の1000の核弾頭を保有し、ロシアと米国を除けば世界で突出した核保有国となる。こうなると、現在の米国とロシアの2大核保有国体制から三極体制となる。間違いなく、核兵器のバランスが崩れる。原爆の父と呼ばれるオッペンハイマー博士は、米ソ冷戦時代の米国とソ連の二極体制を「瓶の中の二匹のサソリ」と表現した。相手を殺せるが、自分も危ないという状態だ。それが「相互確証破壊」の基本的な考え方であろう。しかし、ノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリングは、「瓶の中の二匹のサソリ」の状態から、「西部無法地帯の2人のガンマン」の状態になることも十分あり得ると警告した。早く引き金を引いた方が有利となる状況だ。そして、ここに中国が加わり、世界で圧倒的な核保有国が3極になると何が起こるのか?これまでの相互確証破壊の状態を維持しようとするなら、相手国に分からないように、核軍備を強化する世界になるのかもしれない。しかもロシアと中国は軍事同盟はないものの、様々な戦略的パートナーシップが締結されている準軍事同盟国である。米国にとっては、これまでと異なる戦略が必要となる。過去数十年の核兵器のバランスの崩壊が何を引き起こすのか。私は注目しているテーマである。

5.長期独裁政権とトランプ的なリーダーの存在感

世界のリーダーのスタイルが収斂されてきているように思える。1つのスタイルは権威主義的な国家における長期独裁政権である。中国の習近平政権は、3期目に突入した。4期目もやるなら2032年まで20年間も中国のトップに君臨することになる。ロシアのプーチン大統領は、今年の選挙にほぼ間違いなく勝利して2030年まで君臨するだろう。2000年以降、30年間もロシアのトップに君臨し、スターリンを抜いて最長在任の指導者となる。更に2030年にも出馬するなら、2036年までプーチン政権は継続することになる。北朝鮮の金正恩総書記はまだ40歳である。トルコは民主主義国ではあるが、2014年に大統領に就任したトルコのエルドアン大統領は、権威主義的なリーダだ。昨年の選挙で勝利し、2028年まで権力トップに居ることが確定した。イランの最高指導者のハメネイ師は1989年以降、35年間もイランを統治している。西側では考えられないような長期政権は、選挙でころころと顔が変わる西側の政治リーダーとは、戦略の時間軸が異なる。
もう1つのスタイルは、民主主義社会におけるトランプ的なリーダーの存在感だ。世界には「○○のトランプ」と呼ばれるようなリーダーがたくさんいる。例えば「ハンガリーのトランプ」と呼ばれるのがオルバーン首相だ。その独裁的な傾向で批判を浴びるものの、ハンガリーはEUの加盟国である。そのオルバーン首相も2010年からトップの座に君臨している。すなわち選挙で勝っているのだ。先般、アルゼンチン大統領選に勝利したミレイ氏も、「アルゼンチンのトランプ」と呼ばれたりした。オランダ下院選挙で昨年勝利した自由党のヴィルダース党首も「オランダのトランプ」と言われてきた人物だ。トランプ的な政治家の定義は決まっておらず、何をもってトランプ的かは難しいが、仮に強烈な個性や前例に捉われない政策、ナショナリズム等がトランプ的なものであるとするなら、インドのモディ首相も、イタリアのメローニ首相、フランスのルペン氏なども近いのかもしれない。
このように権威主義的な国では何十年も君臨する長期政権、民主主義の国々では、ナショナリズムやポピュリズムに支えられたトランプ的なリーダーが国民に受け入れられている。今年は世界各国で選挙YEARとなる。今年が終わったときに、世界のリーダーはどういう特徴を示しているのか。そして、こうした傾向が強まる先は、どこに向かっているのか・・・非常に重要なテーマであろう。

6.中央銀行による金利上昇のタイムラグ効果

政府の財政政策、例えば減税や増税には即効的な効果がある一方で、中央銀行の金融政策(政策金利の上げ下げ)の効果は、じわじわと経済に浸透していくため、政策の発動から実体経済への波及まで「タイムラグ」があると言われている。もちろん、その通りであろう。
FRBが利上げを開始したのが22年の3月だ。22年中に425bpの利上げを実施し、23年は100bpの利上げが行われた。最後の利上げが行われたのが昨年の7月だ。今年の米国経済については、この強烈な利上げのタイムラグによる悪影響がこれから出てくるとの見方が強い。米国経済のリセッションを予想するエコノミストの根拠の中心は、①コロナ禍の強制貯蓄の枯渇による個人消費減速と、②利上げのタイムラグ効果である。①については間違いないだろう。問題はタイムラグ効果だ。もちろん利上げはタイムラグ効果だけでなく、その期間が長くなることによるストック的な効果もあることから、これほど高いFF金利が維持されている以上、米国経済に影響は出るだろう。しかし、それをどれほど恐れるべきなのだろうか?タイムラグ効果で一気に米国経済が悪くなるというより、これまでも利上げの影響は十分に出ていたのではないだろうか。利上げのマイナス効果は出ていたが、それを和らげるような何らかのプラス効果で利上げの効果が打ち消されていたのではないだろうか。そう考えるほうが私には自然に思える。何故なら、利上げのスピードや幅が、ここ最近の利上げとは全くの別次元であったからだ。これだけ激しい利上げで、毎日新聞等で利上げが騒がれているので、人々の心理的には通常の利上げよりも、かなり早く浸透したはずだ。22年の段階で利上げの影響を気にしない人がいるなら、むしろ驚きだ。本当に24年にタイムラグ効果なるものが、出てくるのか。それは恐れるべきものなのか。
タイムラグ効果を心配していたら、FRBの利下げ期待ですっかりとカバーされ、意外と底堅く推移したね。そんなことを年末には話しているかもしれない。注目していきたい。


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