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来週の相場見通し(7/31~8/4)

1.はじめに

今週はお休みのつもりであったが、日銀に大きな動きがあったことから、超簡易版で作成することにした。チャートも何も添付しない文字だけとなるが、ご容赦願いたい。

2.日銀のYCC政策と今後の注目

日銀が金曜日の日銀金融政策決定会合において、金融政策自体は現状維持としながらも、政策目標の変動幅を柔軟に容認する方針に転換した。これは、非常に大きな転換点となる。
植田総裁は、これは金融引き締め等ではなく、現行のYCC政策を維持するための措置という説明をしており、昨年の12月の黒田日銀総裁の下でのYCCの変動幅修正の時と同じく、金融引き締めではなく、金融緩和の強化であるという解釈も市場ではされている。確かに展望レポートのインフレ見通しでは、23年こそ2.5%に引き上げたものの、24年は1.9%と目標の2%を割り込む予想を示しており、日銀に金融引き締めの意図がないことは明白である。しかし、私は今回の決定は、昨年の12月の時の状況とは全く異なると考えている。今回の植田総裁の下での日銀の決定は、「長期金利は市場の動向に委ねたい」ということだ。これが日銀の意図であり、極めて真っ当なことだ。黒田前日銀総裁のときとの大きな相違点だ。
そこに財務省からの将来的な「過度な円安の芽を防止したい」という意図が加わったものだと考えている。
今回の決定を受けて、円の長期金利は久しぶりに、フェアバリューを市場が自ら探すステージに突入する。海外投資家からすれば、世界的な比較で言っても、歴史的な水準で見ても、10年金利が1%を割り込んでいる状態というのは自然ではないと考える。そんな国はないからだ。現在の円金利は無制限オペという禁じ手で無理やり抑制されたものであり、市場に金利水準を委ねるなら、円金利は1%に張り付くと考えるだろう。だからこそ、今でも累計で15兆円もの円金利先物のショートポジションが構築されている。
しかし、日銀は国内投資家のヒアリング等により、じゃぶじゃぶに資金が溢れている国内投資家の円債需要により、円金利は日銀の介入がなくても、当面は極端には上がらないと判断したのだろう。実際にJPMなども、仮に日銀がYCCの変動幅を1%に拡大しても、円の10年金利は0.65%を中心に上下15bp程度のレンジで推移すると予測しているほどだ。
国内の銀行や生保は、日銀のYCC修正により多少なりとも円金利が上昇することを見込んで、前年度までに円債ポジションを大きく削減し、日銀の政策変更で金利が上がるのを口をぽっかり空けて待っている状況だった。今回の日銀の決定を受けて、彼らはとても喜んでいる。
では、なぜYCC政策の撤廃まで踏み切らなかったのか?それは、やはり市場では何が起こるか分からないからだ。昨年は英国債ショックのような事態も発生した。円金利が上昇したら購入意欲のある国内投資家は多いものの、実際に円金利が急騰して、どこまで上昇するか分からないような局面になれば、いきなり投資行動を控える。落ちているナイフは拾いたくないからだ。従って、事前のヒアリングとは異なり、買い手不在の中で金利が急騰することもあり得る。ゆえに、日銀としては1%を超える金利上昇は、当面は許容しないという枠組みを残したのだ。YCCの変動幅を0.75%とすることや、1%にする選択肢もあった中で、YCCの変動幅を0.5%としつつ、特段の根拠もなく1%以上の金利上昇を容認しないというのは、ある意味で矛盾している。しかし、ここに日銀が長期金利の動向は、できるだけ市場機能に任せたいという意図が表れていると思われる。今回の決定に至る日本経済新聞の妙な観測記事や、金融政策の分かりにくさという点には、思うところはあるが、長期金利を市場機能に委ねるという一歩は評価したい。

さて、この決定が出たときに、為替市場では急激に円安が進行し、株が買われた。初動では「現状維持」に反応したのかもしれない。しかし、上記のような状況を踏まえれば、これは初動としては円安材料ではない。株については、株高でも、株安材料でもない。日銀の政策修正が分かりにくかったこともあり、その後に市場は乱高下した。結局、海外市場では株高、円安で反応しているが、これは海外要因によるもので、日銀とはあまり関係ない。
ここからのポイントは、円金利がどういう動きになるかということがまずは一番の注目だ。円金利がじりじり上昇するなら、それは円高材料と見られるかもしれない。一方で実際に国内投資家の買い需要に阻まれて、円金利がほとんど上昇しないなら、市場では「市場機能に委ねても円金利が上がらない=円安」となるかもしれない。来週以降の円金利に注目したいが、海外投資家は既に夏休みモードであり、本腰を入れて円金利のショートポジションで1%に向けて円金利を押し上げるパワーや意図があるか不明だ。
但し、いずれにしても、為替相場において円金利は1つの材料に過ぎない。円金利が1%まで上昇したとして、他に材料がないなら大きな円高材料と判断されるかもしれないが、為替相場は様々な要因がある。究極的に言えば、円金利が1%に上昇したところで、それで?という程度の話なのだ。要は、市場の注目の中心になり、円金利上昇と為替相場が関連付けられ、一つのテーマやブームになれば、大きく変動するし、そうでないなら小動きになるということだ。いずれにしても、日銀は長期金利は市場にできるだけ委ねるという正常化に一歩動き出した。これは、良いことである。
株式市場についても、この決定を無理に材料視することもないだろう。日銀が長期金利を市場に委ねるところまで、日本経済の状況が正常化したと捉えれば株高材料にもなるし、円金利上昇に反応して為替相場で円高が進めば、株安材料になるかもしれない。要するに株式市場にとって、決定的にインパクトを持つ材料ではないということだ。

3.その他のまとめ

米国経済の好調さの要因の1つは労働市場の堅調さであるが、6月の雇用統計の州毎のデータによると、ペンシルベニア州やアラバマ州など合計で17の州で過去最低の失業率を記録したと報じられている。ニューハンプシャー州、サウスダゴダ州が1.8%と全米で最低水準、失業率が高い州はプエルトリコの6.1%、ネバダ州の5.4%や、カリフォルニア州の4.6%などだが、それでも過去の平均よりもかなり低い。スラックは出てきているものの、労働市場は引き続き全体でも堅調だ。
 米国では中古住宅販売件数や住宅ローン申請件数が低迷している一方で、新築住宅販売等は比較的堅調だ。住宅ローン金利が大きく上昇していることから、低金利の固定金利で借り入れたオーナーは、現在の住宅を売却して、新たな中古住宅に買い替える意図に乏しく、中古住宅物件の出物がない。そのため、ミレニアル世代の住宅需要は新築住宅に向かわざるを得ない状況のようだ。但し、米国では中古住宅市場の市場規模が圧倒的に大きいため、住宅市場全体の先行きは注意が必要だ。また、住宅ローン金利が下がり始めると、中古住宅物件の売り物が急に出てくることで、需給が崩れる可能性もある。いずれにしても、急激な利上げの影響は住宅市場に歪を引き起こしている。
米金利は、7月の初旬に米国経済のソフトランディング期待の高まりで、10年金利、30年金利ともの4%を超えた。しかし、その後のCPIの鈍化でいったん大きく低下した。FOMCでは市場の予想通り25bpの利上げが全会一致で決定された。声明文等も前回から大きな変更なし。パウエル議長は、9月以降の利上げ見通しは「データ次第」として、一切のアナウンスを示さなかった。それでも、好調な米国経済指標が相次いだことで、再び10年金利と30年金利は4%台を回復した。週末には10年金利は4%割れとなったが、30年金利は4%台を維持している。 8月のジャクソンホール会合は、「世界経済の構造転換」がテーマとされており、FRBが構造変化による恒久的なインフレ圧力について、どのような見解を示すかが注目される。インフレ目標の2%の妥当性にも関するものであり、注目したい。30年金利がじりじり上昇している状況は、米国経済の強さに加えて、まさにこのような構造転換を示唆している可能性があり、注目している。
また、現在の市場は「リスクオン」である。米国経済のセンチメントも相当に明るい。あのド派手な実写版バービーが大ヒットしているが、あのような映画がヒットしているのは、米国経済がノリノリになってきているからだろう。実際にダウは13連騰を記録した。こういう状況だと、やはりFRBの利上げ停止が近くとも、米国の長期金利はなかなか低下しにくい。更にこれから来年度にかけて米国ではかなり米国債が増発されていく。米国債の需給については、あらためて取り上げるが、大きなテーマとなるだろう。

欧州の政治が不安定化している。オランダでは4党からなる連立政権が、移民を巡る摩擦を背景に、発足から1年半で崩壊した。ルッテ首相は政界からの引退を決意。スペインでは総選挙において与野党ともに過半数に届かず、政局の不透明が高まっている。ドイツでは世論調査によれば極右政党の「ドイツのための選択肢」の支持率が過去最高となり、CDUに次ぐ第二位に浮上している。来年は欧州議会選挙だが、この情勢が継続すると、かなり波乱めいたものになりそうだ。
ECBの銀行貸出調査では、企業向けローンの信用基準が大きく悪化したほか、企業向けローンの需要はリーマンショック時を下回る記録的な悪化を示している。欧州の景況感の悪化は、PMIでも着実に表れており、ECBのタカ派メンバーも景気に配慮して、やや慎重な姿勢に変化している。先般のECB理事会ででも、ラガルド総裁は9月の利上げを示唆しなかった。これは過去2回のECB理事会とは大きな違いだ。
米国の企業決算は、概ね好調を維持している。心配された中小銀行についても、予想されたほどの業況の悪化が確認されていない。バンクオブ・カリフォルニアによるパックウエスト買収の報道についても、株式市場は好感しており、金融不安再燃とならなかった。S&P500の利益見通しも、▲5%程度に上方修正されてきている。欧州の株価も上昇しているが、こちらは警戒が必要と思われる。米国については業績の底はこの4-6月期と想定されているが、STOXX600の業績見通しにおける底は、今のところ来年の第1四半期であり、底は遠い。景況感の違いを鑑みれば、米国株や中国株につれ高している欧州株はやや警戒が必要だろう。
日本株については、米国ダウの1987年以来の13営業日連騰や、中国政府の不動産市場の梃入れなどの好材料の中でも、上値が重く推移してきた。日本企業の決算発表も本格化する中で、業績面の安心感から、上昇基調を再開できるかどうかに注目したいが、やや視界不良の点が多い。この点は、また取り上げたいと思う。
ちょっと足早になったが、今週はこれで終わりにしたい。

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