BABYMETAL・さくら学院とサッカーの類似性

 この記事を読んでいただいている方のほとんどはTwitter経由のはずなので、3人組メタルダンスユニット「BABYMETAL」が今まさに世界中に衝撃を与えていることをよくご存知だろう。

 釈迦に説法かもしれないが、初めにざっと説明しようと思う。彼女たちの楽曲「ギミチョコ!!」プロモーションビデオのYoutubeにおける再生回数がなんと1500万回を数え、ヘヴィメタル界の重鎮たちが揃う英国メタルフェス「ソニスフィア2014」で圧巻のパフォーマンスを披露し大喝采を浴び、欧州・北米ツアーでは全公演がソールドアウト(しかも観客の殆どが外国人)。そして世界の歌姫・レディーガガから熱烈なラブコールを受け、当人の北米ツアーにおけるオープニングアクトを担当。レディーガガ本人が最前列でBABYMETALのパフォーマンスに熱狂する姿は大きな話題となった。こうした活躍もあり、米国ビルボードチャートでは音楽のジャンルを問わないワールドアルバム部門で遂に1位を獲得するという目に見える成果も残した。11月にはワールドツアーから会場を更にグレードアップしてロンドン・NYでのカムバックツアーを予定している。

 BABYMETALは現在既に世界中を熱狂させるパフォーマンスを披露しているが、アルバムはまだ1枚しかリリースしていない上に、彼女たちはまだ平均年齢15.4歳という信じられないほどの若さである。これまでもそうだったように、今後どんな成長曲線を描き、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか。そしてどんな世界へ連れて行ってくれるのか、まるで想像もつかない。我々”メイト”たちに底知れぬ期待感を抱かせてくれる。

 こうしてBABYMETALが世界中の大きな注目を集めている事実について、私は何かどこかで見た現象とダブっているような気がしていた。それはズバリ「欧州サッカーでの日本人選手の活躍」だ。

―BABYMETALはまるで中田英寿?

 BABYMETALが世界中のファンを熱狂させている光景は、まるで欧州のトップリーグで日本人が素晴らしいプレーを披露し、現地のサポーターから大声援を贈られているそれのようだ。香川真司がそのテクニックとドリブルでドルトムントの9万人のサポーターを虜にし、本田圭佑がACミランの10番を背負って超ビッグクラブをリードし現地メディアから絶賛されているように。もっとも、BABYMETALがこれまで日本人が誰も成し遂げられなかった勢いで海外へと拡大していく姿は、日本人選手が海外で活躍するなど夢のまた夢だった頃にセリアAで活躍し、先駆者として日本人の海外挑戦の道を切り拓いた中田英寿に似ているかもしれない。彼がセリエAデビュー戦でユベントス相手に2ゴールを叩きこみ、屈強な外国人選手をふっとばし、日本人初のスクデッドを獲得した姿に日本人サポーターは熱狂し、日本も世界で戦える!という驚きと自信を与えてくれたように。

 野球のメジャーリーグでも活躍する日本人は多いが、野球は海外挑戦のためのFA権取得まで一定年数を必要とするし何より限られた地域のスポーツなので、世界中でプレーでき、かつ才能があれば何歳でも海外へ飛び出していけるサッカーの方が音楽界とより親和性が高いだろう。平均年齢15.4歳という若さにして誰もが認める素晴らしい成果を残し、階段を駆け上がっていくBABYMETALの姿はまさに海外へ飛び出していく日本人選手とダブって見えるし、それ以上のインパクトを”メタルレジスタンス”として今まさに世界に与えている。

 BABYMETALも海外サッカー選手も、客観的に分かりやすい成績を収めている点で、多くの日本人が認知しやすい存在である(BABYMETALの場合は海外の知名度に比べて国内のそれが低すぎるという現象はあるが)。一方で、育成的視点から私が「まさにサッカーじゃないか!」と確信する存在が「さくら学院」だ。

―さくら学院は”超エリート育成クラブ”

 さくら学院とは何を隠そう、BABYMETALを生んだ母体となる成長期限定アイドルグループのことだ。以前の私なら小中学生限定という事実だけを拾って絶対に近寄らなかったであろうこのグループについて、知れば知るほどその底知れぬ魅力にドップリとハマってしまったのである。

 BABYMETALもさくら学院も大手芸能事務所「アミューズ」に所属しており、メンバーもやはりアミューズ所属タレントによって構成されている。それぞれが小学生、もしくは未就学の頃からキッズモデルとしての実績を重ね、数多くの才能が揃うアミューズの中からさらにオーディションを経てさくら学院のメンバーとなっている。さくら学院とは、まさに芸能キッズ界のエリートグループなのである。グループに加入後は、Perfumeの振付師として有名なMIKIKO氏をはじめとする芸能界を代表する講師の手ほどきを受け、将来の“スーパーレディ”への階段を上がっていくことになる。つまり、さくら学院の存在意義はグループ自身で”稼ぐ”ことではなく、将来のスーパーレディを輩出するための育成機関となることである。サッカー界で表すならば、古くは帝京高校や国見高校などの名門高校、今でいえば本田圭祐や宇佐美貴史を輩出したガンバ大阪ジュニアユースのような優秀な選手を育てるユース年代のクラブにあたるだろう。

―成長、競争、そして卒業。

 晴れてさくら学院に入学したメンバーたちは、夏の東京アイドルフェスティバル(TIF)、秋のさくら学院祭、そして数多開催される公開授業などの多くの年間イベントを通じて成長していく。背も小さく可愛らしい声色だった少女たちがイベントを重ねる度に見た目も中身も立派な姿に成長していく過程は、ファンである我々「父兄」に対してさながら我が子の成長を見守るような、温かく優しい気持ちにさせてくれるのだ。

 ところで、サッカーで名門クラブの門を叩いたとすれば、僅か11個のポジションを狙って数十名がしのぎを削るという競争原理のふるいに掛けられることになる。そしてそれはさくら学院も例外ではない。

 さくら学院はグループとしての活動以外に「部活動」が存在する。冒頭のBABYMETALもさくら学院の「重音部」という位置づけであった。部活動に所属すれば部活動独自の曲を歌い踊ることができるだけでなく、その部活動単体で音楽フェスやメディアに登場したり、企業イベントに招かれることもある。部活動に所属することが個人の露出増となり、いわば活躍の幅を広げる機会へと直結するのである。しかしながら、さくら学院の全てのメンバーが部活動に所属できるわけではない。また、メンバーによっては複数の部活動を兼任している場合もあり、運営側の意図が説明される機会が無いためはっきりした狙いは分からないが、個々人で露出に大きな差が生まれているのは事実である。さくら学院で部活動に所属できるどうかは、さながらサッカーで言うところの名門クラブにおける熾烈なポジション争いなのである。

 こうした部活動をめぐって、グループ内ではメンバー間に軋轢が生まれることもあるようだ(「さくら学院 堀内まり菜 飯田來麗 杉﨑寧々 佐藤日向 2014年3月 卒業」インタビュー参照)。しかしそういった出来事を乗り越え、彼女たちは毎年ある目標に対して一丸となる時期が必ず来る。それは「卒業」だ。

 さくら学院では中学校卒業のタイミングと同時に、誰一人の例外もなくグループを卒業しなくてはならない。同じメンバーで活動できるのは1年限りというこのグループ特有の刹那性こそ、彼女たちを一つにし、父兄を惹きつける大きな特徴だろう。特に毎年3月末に開催される「卒業式」はその名の通りまさに中等部3年生メンバーの卒業の場であり、1年間の集大成となるクライマックスだ。様々な出来事を乗りこえて一つになったメンバーたちが、もう二度とこのメンバーと活動することは無いとい想いを抱えて披露するパフォーマンスは筆舌に尽くしがたく、卒業式での一挙手一投足がハンカチでは拭いきれないほどの涙を誘う。この卒業式は言わば、彼女たちの「高校サッカー選手権」なのである。

―感動を呼ぶ「ひたむきな姿と美しい絆」

 毎年冬に開催される通称“選手権”は3年間共に辛い練習を乗りこえてきた高校サッカー選手たちの晴れ舞台であり最後の舞台だ。負ければ終わりのトーナメント形式のこの大会で、「1試合でも長くこのメンバーと試合がしたい」と願う選手たちのひたむきなプレーは、海外トップリーグの選手たちが見せるプレーにはテクニックやパワーでは遠く及ばないが、観る者の心を掴んで離さないのだ。また、「涙のロッカールーム」という、試合後のロッカールームの模様をテレビで放送しているのを見たことがある方も多いだろう。寂しさと悔しさに涙を流す選手たちと、彼らの努力を讃えて普段厳しかった監督が涙を流し、それを見てまた涙する選手たちの姿…。残酷ながら、彼らの絆を実感する実に美しいシーンである。さくら学院も高校サッカーも、若者たちのひたむきな姿と美しい絆が大きな感動を呼ぶのである。(余談だが、昨年度の高校サッカー選手権応援マネージャーはさくら学院卒業生の松井愛莉が務めた。さくら学院を通じて仲間と共に努力し、絆を育んできた経験のある彼女が選ばれたのは、運営側の素晴らしい人選だと思う。)

―「その後」を見守るおもしろさ

 サッカー日本代表では今、柴崎岳・武藤嘉紀という若者が輝きを放とうとしている。筆者は前述したような、個々人の成長と刹那性を併せ持つ高校年代のサッカーが大好物で、かつては年間50試合ほどを現地で観戦していた。そのうちの今も忘れられない試合が、高校時代の柴崎と武藤の対戦(全日本ユース選手権・FC東京U18vs.青森山田高校)である。この試合を目に焼き付けたことが現在の彼らの活躍を更に喜ばしいものにさせてくれるし、あの日あの場所にいたことをより誇らしいものにしてくれる。

 さくら学院でも、BABYMETALをはじめとする卒業生たちの活躍は、同じような気持ちさせてくれる。武藤彩未はソロアイドルというこのグループアイドル乱立の時代に稀有な存在として着実に歩みを進めており、女優・モデルの松井愛莉・三吉彩花は活躍の場をお茶の間へと広げ知名度は既に全国級。今年卒業した4名のうち芸能界からの引退を表明した杉﨑寧々を除く3名もそれぞれの目指す道で着実に仕事をこなしている。彼女たちが作り出す卒業後のアフターストリーを誇らしく感じ、卒業後の成長を感じることができるのも、彼女たちがさくら学院で残してきた足跡を見届けているからこそだ。

―「欧州好き」はBABYMETAL、「高校サッカー好き」はさくら学院?

 音楽的嗜好を抜きにして「パフォーマンスに期待する」という意味では、ワールドクラスのプレーを期待する欧州サッカー好きにはBABYMETALの圧倒的なパフォーマンスと組み合わせの意外性という魅力は受け入れやすい存在だろう。逆に、育成機関であるさくら学院は完成されたパフォーマンスを期待する人にとってはハマらないかもしれないが、高校サッカーのみならず甲子園などの学生スポーツが好きな人にはピッタリハマるかもしれない。もちろんどちらも好きだ、という人には両方をオススメしたい。どちらも一度足を踏み入れると二度と抜けだせない素晴らしい世界が待っていることだろう(お財布や家族・身内には厳しいかもしれないが)。

 BABYMETALの活躍からも目が離せないが、個人的にはさくら学院が面白くて仕方がない。芸能界もサッカーも次から次へと新たな才能が生まれようとしている中で、さくら学院を見届けることは次代の新しいスターを見つけることと大差ないからだ。その事実は、これまでのさくら学院卒業生たちが証明している。私の心を掴んで離さず、楽しくてたまらないこの「青田刈り」は、今後もやめられそうにない。

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