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カンガルー

最近、一番心が落ち着く時は、息子のサッカースパイクを磨いている時だ。


「本当は自分で磨けよな」なんて言いながら、いつの間にか俺の毎日の日課になっちまってる。


息子のサッカーシューズ は、アシックスのDS LIGHT。こいつは凄い事に、シューズ のアッパー部分にカンガルーの革が使われているんだ。


磨いている時は、いつも、遠く日本の地でサッカーシューズ のアッパー部分になっちまったカンガルーの寂しげな目を思い浮かべる。


そして、俺の頭の中では、ビッグ・スターのカンガルーが鳴り響くんだ。
かつてメンフィスを訪れた時、あらゆる所で「地元のスター」としてアレックス・チルトンが推されていて、なんだか嬉しくなった事を思い出すよ。


そして、ジェフ・バックリィがカバーしたカンガルーが鳴り響いてきた。確か俺の場合、こっちを先に聴いてからのチルトンの方だった気がする。ああ、ジェフ・バックリィが溺死したあのメンフィスのミシシッピー川を思い出す。少しだけセンチメンタルになる。


サッカーシューズ のカンガルー革部分を磨くのに使っているのは、ミンク・オイルだ。
遠く日本の地で、靴磨きに使われているミンクの寂しげな目を思い浮かべる。


そして、俺の頭の中では、ヴェルヴェット・アンダーグランドの毛皮のヴィーナスが鳴り響く。
俺も、「シャイニー、シャイニー、シャイニーブーツオブレザー」とルー・リード声で口ずさみながら、手を動かす。


曲は、ヴェルヴェッツの宿命の女に変わる。
白い衣装を来たニコのバックで、「シーザファムファータール」と低音でコーラスを入れるルー・リードの寂しげな目を思い浮かべる。と、横目でそれをチラリと見やるジョン・ケイルの寂しげな唇を思い浮かべる。
その光景を後ろから眺めるモーリン・タッカーの優しい目を思い浮かべる。


曲は、ビッグ・スターがカバーした宿命の女に変わる。

そして、俺の靴磨きが終わる。

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