見出し画像

【ニンジャスレイヤーTRPG第二版ファンメイドプラグイン準備記事】ニンジャソウルをつくろう!ヒュドラ・ニンジャクラン編・後編


はじめに



 前回に引き続き、ヒュドラ・ニンジャクランのジツデザインを行っていく。

 前回、我々は、1.ヒュドラ・ニンジャクランの憑依ニンジャの特徴と、2.モチーフになったヒュドラに関する知識から、十分な数のジツリストを作成した。従って、この記事では未だ具体的に性能を決定されていないジツについてそれを決定し、さらに公式データとの相互作用を考慮しつつバランス調整をしていくことが目的となる。

 しかし、前回記事において見逃された要素がフレーバー面でも性能面でも存在するため、まずはそれらについて考えていこう。

3.前回見逃された要素について考えよう

3.1フレーバー面、第三のモチーフ

 前回記事では、ヒュドラ・ニンジャクランのモチーフとして我々は二つを取り上げた。即ち、ギリシャ神話のヒュドラーと、生物としてのヒドラである。しかし、ヒュドラ・ニンジャクランの憑依者であるイヴォルヴァーが登場した「スリー・ダーティ・ニンジャボンド」を再読すると、どうやらそれ以外のヒュドラにもイメージの源泉が存在しそうである。

 それは、ラヴクラフトが「インスマウスを覆う影」(The Shadow Over Innsmouth)で言及した、「母なるハイドラ」(The Mother Hydra)だ。これは、作中一か所でしか言及されず、いわゆるクトゥルー神話と呼ばれる作品群においてもあまり重要視される存在ではない。それどころか、クトゥルー作品群では同名の全くの別存在を登場させた作家すら存在する。

 では、そのような比較的周縁的なモチーフについてなぜここで考慮しなければいけないかというと、一つには「スリー・ダーティ・ニンジャボンド」でクトゥルー作品群的な表現が露骨に使用されたからであるし、他方で、「母なるハイドラ」と対になる「父なるダゴン」がダゴン・ニンジャクラン及び始祖ダゴン・ニンジャという形でニンジャスレイヤー世界に取り込まれているからだ。

 まず、「スリー・ダーティ・ニンジャボンド」でのあからさまなクトゥルー風の表現をここで取り上げてみよう:

 今や、教会の屋根にとりつき吼えるのは、人の形すらとどめぬ名状しがたい異形ニンジャ!四本の脚と五つの目を持ち、関節の三つある長い腕を振り回す!全長12フィート!なんたる事か!存在そのものが正気に対する挑戦!それでも尚、あえて記述を進めねばならない筆者の苦悩をお察しいただきたい!11

 マチェーテが続けざまに食い込む!「イアッ!イアッ!」二度の再斬撃を受けてなお切断されぬ腕!なんたる名状しがたいニンジャ耐久力!だがフォレストは空中で素早く得物を手離し、ククリナイフを抜いて三度斬りつける!「サイゴン!」「イア、アバーッ!」ケジメ!ついに腕は第三関節で切断!

【スリー・ダーティー・ニンジャボンド】

引用箇所が示すように、重点セルフ・イヴォルーション(仮称)を使用したイヴォルヴァーは異形の巨獣となるのだが、それはカラテシャウトの代わりに「イア!」と発声し、しばしば「名状しがたい」と作中で表現される。これらは言うまでもなく、一般に膾炙したクトゥルー作品群のイメージと強く共起する特徴であり、イヴォルヴァー及びヒュドラ・ニンジャクランが背負う文脈に、ごく軽いクトゥルー的テイストがあることは認められてよかろうと考えられる。

 次に、ダゴン・ニンジャクランについて考えてみたい。ダゴン・ニンジャクランは「サヨナラ・レガシー・デバイス」で登場したニンジャクランであり、インタビュー・ウィズ・ニンジャ PLUS版(65) で設定が掘り下げられている。海底神殿に眠るカイジュウじみた巨体のダゴン・ニンジャとそれを支援する常人サイズの憑依者という組み合わせが物語に登場したほか、インタビューではそもそも「カイジュウめいて巨体化するジツを極める者たちと、通常の人間サイズのままその支援役となる者たちの二つに分かれ」ていたという。これは明らかに旧約サムエル書のダゴン(1Samuel5.1–5)やビブロスのフィロン(Philo Byblius.Frag.11.14)が伝えるところのダゴンではなく、クトゥルー作品群のダゴンがイメージ源となっていると言って十分な特徴だろう。

 では、ラヴクラフトが対句めいて並べたように、ニンジャスレイヤーの世界でもダゴン・ニンジャクランとヒュドラ・ニンジャクランには関係があったのだろうか?これまでGREPしてきた諸要素を考慮すると、その可能性は大きかろうと考えられる。イヴォルーション・ジツは対象を巨大化させることも可能であり、その巨大化の果てに体組織を増やしたり、酸を噴射する臓器を体内に増設することができることも作中で示されているからだ。

 むろん、ダゴン・ニンジャクランがカイジュウ・ニンジャクランの流れを汲むクランであり、巨大化のジツが純粋にカイジュウ由来であることも十分に考えられるが、そのうえでも目の生えた触手等のダゴン・ニンジャ本忍が備えていた体組織がイヴォルーション・ジツに由来する可能性は阻却されるものではなく、常人サイズのダゴンニンジャが備える触手がヒュドラの異形化のジツに由来する可能性も依然残るからだ。

 これらを踏まえたうえで、性能面での見逃しについての確認に移ろう。

3.2.性能面

 前回、我々は、ギリシャ神話でのヒュドラーの特徴から、★★異常再生を調整した★★ヒュドラ・リジェネレーション・ジツをリストに盛り込もうとした。しかし、単なる神話時のヒュドラーではなくクトゥルーのハイドラもモチーフに含まれていると結論付けた今、この能力はそのままで良いのだろうか。

 現に、「スリー・ダーティ・ニンジャボンド」では切断されたイヴォルヴァーの手首は重点セルフ・イヴォルーションによる変身後に至るまで治癒した様子がない。ここで、考えられる仮説は以下の通りだ。

・ヒュドラ・ニンジャクランに再生に関するジツはなく、ヒュドラーの再生能力は重点セルフ・イヴォルーションにより発生した新たな体組織がモータルによって再生能力と誤認された結果伝承に存在することとなった。

・ヒュドラ・ニンジャクランに再生に関するジツは存在したが、イヴォルヴァーに憑依したグレーターニンジャが使用できるジツではなかった。ヒュドラ・ニンジャ(仮称)は当然これを使用できた。

これらはどちらも反証を見出せない仮説であり、つまりはどちらでもよい。しかし、ここで重要なのは、前回記事時点ではヒュドラーの特徴として、多少バランスが歪になっても盛り込まれたほうが良い要素として捉えられていた再生能力が、ゲームバランス上悪さをするようならオミットしていい要素になったことだ。これでより柔軟なデザインが可能だろう。

4.いよいよ未決定のジツの内容を詰めよう!

いま、我々に残っているタスクは以下の通り

・鬼人モブの性能決定
・セルフイヴォルーション・ジツの性能決定
・ヒュドラ・チドク・ジツの性能決定
・重点セルフ・イヴォルーション・ジツの性能決定

ここに、前項で触れた★★ヒュドラ・リジェネレーション・ジツの採用可否と、前回最後に構想した★★イヴォルーション・ジツ(強化)の細部決定が加われば過不足ないだろう。

4.1鬼人モブの性能を決めよう

 モブを味方鬼人モブに作り替える★イヴォルーション・ジツは★バリキ・ジツのコンパチとして作る方針であったが、このジツで生み出される鬼人の性能はどんなものが良いだろうか。まず、★バリキ・ジツで生み出されるデストロヤクザは、チャカ・ガンによる射撃と、一回きりのカトン・ジツLV3を使用できる強力なモブだ。
 しかし、鬼人モブは自爆を行うバリキ人間爆弾(デストロヤクザ)とは立ち位置が違い、いわばイヴォルヴァーの兵士のような存在だった。また、素体によって能力が異なる個体が多種存在することが確認されていた。ここで、二つの案を考えることができる。前提として、どちらの場合も生成されるモブは種別:超常存在を得るとして、

1.素体とするモブのステータスに依存した鬼人モブを生成するジツにする
あまり強化されている様子もないので、素体のカラテを+1し精神力を-にするくらいが妥当だろう。(鬼人モブは作中フロッグマンたちを嘲笑するなどある程度の自我を有するようだが、村長の例をみればあくまでかりそめの、歪んだ疑似自我であるようにも思えるからだ)

2.精神力とチャカガンを持たない代わりにカラテが4で●突撃あたりを持つクローンヤクザを生成するジツにする

1.案は比較的本編の再現に近いジツとなるが、体力6以下にした強力なモブを発動判定だけでやや強化して味方につけることができるようになってしまう。NMに負担をかけてしまいそうなため、このままでは通せそうにない。少なくとも【ニューロン】で対抗判定を行わせるようにはしなければいけない。

2.案は一転大人しい。大人しすぎて今度は有用性が疑われるが、強力な鬼人は★★イヴォルーション・ジツ(強化)をさらに使用されて生成されたと解釈すれば原作再現は可能だ。鬼人化した動物やバイオスモトリを再現するために種別のみ超常存在に加えて素体のものを保持するようにすれば良いだろう。

両案を見た結果、★であることもあり2.の比較的穏健な案を今回は採用しよう。

4.2★★セルフ・イヴォルーション・ジツの性能を決めよう

 この★★セルフ・イヴォルーション・ジツは、イヴォルーション・ジツを自身に使用して戦闘力を強化したイヴォルヴァーのような状況を再現するためのものだ。変身を伴う自己強化であるから、変身種別と効果継続種別があればよいだろう。
 次に、ステータス面の補正だが、作中を見れば敏捷性と破壊力が主に増強されていることが見て取れる。ここから、ベースを★アクマ・ヘンゲ・ジツとすれば自然だろう。
 しかし、このクランには既に★アシッド(ドク)・エンハンスメントがあるため、「素手基本ダメージ2」をこのジツで得てしまうのはゲームバランス上うまくない。そこで、「素手による近接攻撃時痛打+1」としてバランスを取り、この形態中理性を保っていたイヴォルヴァーの振る舞いから、タツジンスキルに関する制約を設けないことで★★らしい性能としよう。
 最後に、サイズに関してなのだが、9フィートは大型ともそうでないとも取れる微妙なラインだ。しかし、作中の変身イヴォルヴァーが轢殺移動をしている様子をあまり想像できないので、大型化は無しでいいだろう。

4.3★★ヒュドラ・チドク・ジツの性能を決めよう

 これは前回、我々のイマジナリから考案されたオリジナルのジツだ。当然★チドク・ジツがベースとなるのだが、ヒュドラのジツらしい、そして★★らしいチドク・ジツとはなんだろうか。
 まず、単純なダメージや回避難度の増加は選択肢から外したい。面白くないからだ。では、どういうオプションがつけば面白いのか、まずは以下の案を検討したい。

1.毒であることを示すため、回避できなかった敵に状態異常(崩し)を与える
2.ヒュドラの毒は下着や鏃に塗り付けられて使用されうる=長期間効力を持つため、攻撃してきた敵の存在するマスを「毒沼:このトラップが仕掛けられたマスに入るか、そこで移動を終了するか、あるいは通過した場合、その敵は毒によって1ダメージを受ける(『回避難易度:U-HARD』)解除には隣接マスから【ワザマエ判定】(HARD)を行うか、そのマスに対して火炎属性を含む攻撃をすること」に変える

書いていて思ったが、これは文句なしに2.だろう。★イヴォルーション・ジツでモブを生成することもあり、ボードゲーム的な位置取りの楽しみを味わえるクランにできそうだ。

4.4★★★重点セルフ・イヴォルーション・ジツの性能を決めよう

 これは、ビッグ・ニンジャクランの★★★巨人化をベースに、「すでに大型である場合」の難易度緩和を「すでに★★セルフ・イヴォルーション・ジツの効果中である場合」に変えればいいだろう。当然、★★★の発動に際して★★セルフ・イヴォルーション・ジツの効果は即終了することとする。加えて、理性を失ったイヴォルヴァーの様子を再現するために、タツジンスキル及びヒサツ・ワザの使用不可、「素手基本ダメージ2」の代わりに「バイオ武器LV1」で装備を固定すれば十分だろう。
 しかし、これだけでは片手落ちだ。名状しがたい異形の体を再現できていないからだ。突然変異的な異形をあらわすため、ランダムな能力値を+d6補正しよう。さらに、埋め込み前提を無視して以下の候補の中からバイオ器官をランダムに3個取得させよう。(敵ボスの場合は組み合わせ固定可としよう)
候補:
△ニンジャ肉消化器官
△△無数の眼
△カマイタチ・ブレード
△拘束器官
△バイオ触手
△隠された毒牙
△△テンタクルアーム
△バイオ飛行翼
△毒ガス噴霧
△△生体毒分泌器官

これで大体よくわからないカイジュウになって暴れまわりたい需要も満たせそうだ。

4.5★★イヴォルーション・ジツ(強化)の性能を決めよう

 前回で大体性能は決めた気がするが、コストや種別を詰めていこう。まず、発動難易度はHARDとし、コストは【精神力】2もあれば十分だろう。種別は変身と効果継続としよう。
 効果自体は対象の精神力を3減らし、ランダムな能力値を+d6するジツなのだが、これは★イヴォルーション・ジツで生成したモブに使用することで精神力減の部分を無視できるという意図も含まれている。フレーバー的に一時とはいえルックスが変わり、デメリットもある以上味方に使う際はしっかりと同意を取ることを明記したほうが良さそうだ。
 最後に、ターゲットを術者以外の隣接する味方1体とすることで、回避不可の精神攻撃として使われないようにして完成としよう。

4.6★★ヒュドラ・リジェネレーション・ジツはどうしよう?

 原則的には神話のヒュドラーらしさがあるので残したいのだが、この記事で触れたようにヒュドラ・ニンジャクランとしての必然性は少なそうだ。★★で常時1点、セルフ以上の変身中2点のリジェネ自体は10ターン前後の長期戦にでもならない限りそうバランスを崩すものとも思えないが、脆弱性(火炎1)のほかに、火炎ダメージを受けた時の効果終了と、再起動に発動判定HARDと精神力2点を要求するくらいでちょうど良いだろうか。テストプレイでダメそうなら決断的に削除だ。

5.他データとの相互作用について考えよう

5.1サイバネ・バイオサイバネとの兼ね合いについて考えよう

 埋め込みペナルティの関係上、★★まではサイバネ・バイオサイバネ8個分とのシナジーを考えられねばならず、単体でバランスが取れていると見えても、重サイバネとの併用でどうしようもない壊れが誕生してしまうことがままある。
 とはいえ、壊れそうなジツは変身系であり、★★セルフ・イヴォルーション・ジツは効果中素手で装備を固定するため、よくわからないダメージ効率が出てしまうこと自体は抑えられているはずだ。全ての組み合わせを想定することは実際困難なうえ、重サイバネによる他ジツ系統の効率的な運用と比較してバランスをとっていかねばならない。
 現状グレーな部分は★★ヒュドラ・リジェネレーション・ジツで常時回復を得ながら重サイバネの回避ダイスを振り回したりすることくらいなので、テストプレイ時はそこを重点したい。

5.2効率的なビルドとの兼ね合いを考えよう

 まず、このゲームにおいては、能力値四つに合計40までを割り振っていくという関係上、そのどれか一つ以上を切り捨ててよいタイプのビルドは強いと感じている。例えばジツを切り捨てた戦闘系ソウルがそうだし、【カラテ】を1で留める半神的存在ビルド(あるいはビッグ系ビルド)もそうだ。
 特に、ノーカラテ・ノーニンジャ、のモットーが印象的であるためいっそう、後者のタイプのビルドには比較的複雑な感慨が抱かれても不思議ではない。
 個人的には、ノーカラテ・ノーニンジャはノー【カラテ】・ノーニンジャではないと思っているので(精密なイアイドーで戦う半神的存在が登場したとして、作中でそいつがノーカラテのニンジャだと言われることは無いはずだし、カラテが【カラテ】ならスワッシュバックラーはさほどの強者でもないか、カラテはそこそこだがワザマエに優れる、とわざわざ表現されることになってしまう)ファンメイド行為をするときにそこを意図的に塞いでいかなければならないとは考えない。むしろ、カラテ1やジツ無しを咎めるよりは平たいステ振りにもメリットが生じるような要素が追加されればいいと思っている。
 それらを踏まえた上で、このヒュドラ・ニンジャクランのソウルは、変身系のジツを軸にする場合は素手の【カラテ】で近接戦闘を行うことが最効率になるように、変身系を使わずにリジェネ、他者バフ、チドクを使って戦闘する場合にはアサシンダガーや精密イアイで戦う選択肢やミニオンの後ろからスリケンやナガユミで戦う選択肢が生まれるような調整になったと思う。少なくとも、テストの際は、素直に変身して戦うニンジャ以外も作ってみた方が良さそうだ。

6.できた!

 ここまでで、一応はファンメイドプラグインとして公開できるだけのデータ量を用意できた!ソウルのモチーフや、原作世界でのニンジャ神話に思いを馳せながらデータを作っていく作業は楽しく、それ自体が一つの遊びとして大変充実したもののように感じられた。
 近日中に書式を整えてプラグインを公開するので、そちらもぜひお目を通していただきたい。
 なお、テストプレイに関しては、現在ティターンのものが進行の真っ最中なので、ある程度組んだデータをそちらに敵として出すか、テストプレイキャンペイグンのストーリーを豊かにするための追加視点人物としてヒュドラニンジャを出すかの形になりそうだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?