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私が『スネークフライト』を見た理由、あるいはクラリスブックスの愉快な仲間たち

 『スネークフライト』(2006)という映画をご存じだろうか。ご存じじゃなくて全然いいと思う。私だって見なきゃよかったと思ってる。

 その名のとおりヘビ×飛行機のパニック映画で、事の発端はハワイでのギャングによる殺人事件。目撃者の青年とその護衛のFBI捜査官が乗る旅客機を墜落させようと、ギャングたちが大量の毒ヘビをこっそり貨物室に仕込んだせいで、機内は阿鼻叫喚の地獄と化す。

■ まずはネガティブな感想を

 ネットでざっと検索してみたら、好意的な評価が多くて驚いた。正直いって私は楽しめなかった。もともとバカげたC級要素は好きだけど、そういうのはA級の手管で使いこなしてこそ、映画を疾走させる燃料として生かされるのではないか。この映画に関してはすべてが中途半端だった。まず、ツカミにヘビが出てこない。大抵ひとりはいるはずの〝すごくいい顔した脇役〟もいない。気の利いたセリフもない。そして最悪なことに、機内に現れるヘビの量が微妙に少なくて、あんまりヌルヌルウネウネ感が伝わってこない。機上のFBI捜査官から連絡を受けた親友が地上で動きはじめたときには「おっここからなのか?」と思ったのだが、その奔走っぷりはやっぱりいまいちで、『コン・エアー』のポーとラーキン、『ダイ・ハード』のマクレーンとアルのやり取りのようなワクワク感がない。「そうした中途半端さも含めてC級映画の持ち味なのでは?」とかいわれたらそれまでなのだが、それにしても中盤で登場するヘビ専門家がびっくりするほど普通の真面目な人なのはいかがなものか。奇怪なクセやこだわりもなければ、場違いなヘビ愛主張とかヘビのせいで死にかけたエピソードの披露とかも一切せず、ひたすら「血清を探す」という物語上必要な目的のみに奉仕し続ける体たらく。何級映画だろうが、ああいう立場の人はもっとがんばらないといけない、さぼらないでほしい。私がこの映画で唯一声を出して笑えたのは、2人のパイロットがヘビの毒で死んだ後、客室乗務員が焦って「こ、この中に誰か飛行機を操縦できる方はいませんか」と間抜けなことを口走った瞬間だけだった。飛んでる飛行機の中で、それだけは絶対言っちゃいけないだろうに……

■ ここからが本題

 つまり端的にいって、この映画はものすごくつまらなかった。ちっとも気分がのらなかった。見なきゃよかった、雑誌の校了直後でつかれてたし。深夜だったし。しかし、ならなぜ私は『スネークフライト』を見たのか。なぜ最後まで見続けてしまったのか。そう、それが今回のブログの本題なのだ。

 答えはもう出ている。ずばり、「サミュエルが今度は飛行機の中でヘビと戦ってました!」と先輩がたに報告したかったから、ただそれだけの理由で私はこの映画を見通したのだった。「サミュエル」とは『スネークフライト』主人公のFBI捜査官を演じたベテラン俳優サミュエル・L・ジャクソンのことであり、「先輩方」とは古本屋クラリスブックスを一緒に立ち上げた高松と石村2人を指す。何のことかわからないかもしれないが、私がクラリスブックスに出勤して上記の通り報告した後に続く3人の会話(想像)を以下記すので、とにかくご一読いただきたい。

高松(アラフォー)「ヘビ?えーそんな映画あったっけ」
石村(アラフィフ)「いつの映画よ」
私(アラサー)「2006年、サミュエルのタイムラインでいえば、彼がメイス・ウィンドゥとして死んだ翌年です」
高松「ジェダイ・マスターに昇りつめた後もなお、そんなところでヘビなんかと戦うなんて、さすがだなサミュエル」
石村「2014年には『ビッグゲーム 大統領と少年ハンター』とかいうやつでついに大統領にまでなってるから彼は。四半世紀前には『グッドフェローズ』(1990)であっけなく撃ち殺される弱っちいチンピラだったのに、出世したもんだよ」
私「僕が初めてサミュエルを見たのは中学生の時、『パルプ・フィクション』(1994)です。バーガーにかぶりつく顔つきがかなり印象的でした」

高松「待った、バーガーといえば『グッドフェローズ』より前に、エディ・マーフィの『星の王子 ニューヨークへ行く』(1988)でバーガーショップに強盗に入ったサミュエルのことも忘れてはならない!」
石村「うむ、昔からいろいろとがんばってきたんだ!サミュエルは」
私「『ジュラシックパーク』(1993)でもかなりがんばりました!ヴェロキラプトルに食べられて、手だけになって!」
高松「うんうん本当によくがんばった!あと元気に演説してる途中でいきなりサメに喰われたこともあったな!」
私「あれ超笑いました!」
石村「で、そのヘビのやつっておもしろかったの?」
私「いや、クソでした」
高松・石村「だろうな」
(以下略)

 実際の会話には、それぞれの身振り手振りや吹き替え版のモノマネ、SEなど様々な要素によって、文章だけでは表せない臨場感が加わることになる。要は、私が『スネークフライト』という映画を見たのは、ただ上記のような会話を楽しみたかったからなのだ。それでいいのだ。

 クラリスブックスの3人はそれぞれ世代がきれいに分かれるが、こんなふうに映画の話をすると3人とも同い年の少年に戻ったようになる。それが楽しい。だから私はどんなくだらないクソ映画でも、「こんな映画見たんですよ」とクラリスブックスで話したいなと思えれば、それをなるべくがんばって見るよう心掛けている。いや、実際には録画するだけでなかなか見られないので、我が家のHDにはどんどん謎の映画のタイトルが溜まり、妻に渋い顔をされることになる。「見ないなら消して」、確かに正論だ。世の中便利になりすぎた。しかしそれでも、私は今日もテレ東の「午後のロードショー」のラインアップをチェックする。また少年に戻るために。

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