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『シン・ゴジラ』

 前情報がすくなすぎて、胸の内には期待もワクワク感も大して育ってなかった。「まあ見とこう」というほどの気持ちで仕事の合間に映画館へ飛び込み、結果ボコボコに打ちのめされた。
 たぶん生まれて初めて、映画のエンドロールを見て泣いた。映画の余韻に浸ってではなく、エンドロールそのものに泣かされた。巨大なスクリーンを上から下へ流れていった人・団体・機関・施設・作品その他いろいろの名前の羅列は、まさにこの映画が成し遂げた偉業を簡潔に、そして堂々と要約した超名文だった。
「これはもう一回映画館で見なきゃ」と思い、数日後実際にそうしたのも初めてだった。とにかくこの映画にもっとお金を払いたかった。自分で自分が信じられなかったが、『Q』のことはもう許そうと思った。

 ケチつけたい箇所だってたくさんあったのに、ひたすら称賛の言葉しか出てこない。しがらみのヘドロをかき分け雑音を吹き飛ばした誰か、死ぬ気でお金を集めまくった誰か、細部という細部に神を宿らせた誰か、けっして首を斜めに振らなかった骨太な誰か、それに協力したり手足になったり積極的に巻き込まれたりした誰か――。みんなものすごくがんばってがんばったから、しかもそれは「こういう映画をつくる、こうでなければ意味がない」と断言し続けた誰かのその「こう」を実現させるためだけの真っ直ぐながんばりだったから、こんなとんでもないものができあがったのだろう。重箱の隅なぞつついてる場合じゃない。映画以外のことが何も含まれていない、実に幸せで清々しい映画が誕生したのだ。すばらしい。

内閣官房副長官秘書官「マジ感動ですよ」
内閣官房副長官「ああ、この国はまだまだやれる。そう感じるよ」

 もちろんエンドロールを待たずとも、みんながものすごくがんばってる映画かそうじゃないクソかはわかる。そんなのすぐわかる。みんながものすごくがんばってる映画は、間違いなく出てくる人たちがことごとくいい顔をしているのだ。この映画のなかで役者たちはみないきいきと叫んでいた、「これが私の仕事だ!」と。誰も彼もが、やるべきことを把握しそれに徹していた。演じるとはこういうことだ、全身全霊をもって映画を動かすことだ、映画になりきることだ、突き抜けやり通すことだ、気恥ずかしさをかなぐり捨てて「ZARAはどこ?」と言い切ることだ。

 こんなふうにひとしきり褒めちぎった後は、友人らと細部を列挙しまくるのが楽しい。竹野内豊の喋るスピードが絶妙だったこととか、石原さとみの是非(もちろん是。発音の正確さとかどうでもいい)とか、鉄道の使い方の素晴らしさとか、BGMが入るタイミングのエヴァ感とか、巨災対のメンバーが家族を思いやるくだりが全編通して2秒くらいしかなかったことの爽快感とか、しっぽの長さとか、あの人とかあのセリフとかあの作戦とかその他いろいろ。ビールを飲みながらああだのこうだの言い合うのがこんなに愉快だった映画はそうない。『スターシップ・トゥルーパーズ』に匹敵するといっていい。いやほんとにいい映画だった。

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