シン【ソウサクの中毒⇔中毒のソウサク⑬】

「バウバ」
 犬の鳴き声が真後ろで聞こえた。

 信じられないことが起こっている。巨大なマスティフ犬が、屋根の上を追いかけてきている。
(おいおい、おい)
 マスティフ犬は、どうやって屋根の上に登ったのだろう。

「こっち来るな。殺すぞ」
 俺は立ち止まって、犬を威嚇した。
 何か凶器になるものを探す。
 すぐ後ろにテレビのパラボラアンテナがあった。俺は中央にペニスのように生えているコンバータのアームを「バキッ」と追って、犬に向かって差し出した。

「刺すぞ。殺生は嫌だが、キサマのような下等動物に食われるつもりはない」
 俺は、怒鳴った。
 だが、どうにも即興で手に入れた凶器は、役に立ちそうになかった。
「バウバ」
 マスティフ犬は、動きを止めることは無かった。
 
 そのうち、犬がむっくと起き上がると二足歩行で歩き始めた。

「キサマ。犬のふりしていただけか」
 俺は叫んだ。

「プぺぽ」
 中から、案の定、白塗りしたスキンヘッドのイキモノが出てきた。
 部屋の中にいた、元お袋たちとは別の白塗り人間である。 

 このゾンビキョンシーは、犬の着ぐるみを着て、俺が部屋から出てくるのを待ち伏せしていたらしい。
 庭に、血塗れの本物のマスティフ犬の死体が転がっている。

「コロス、コロス」
 白塗り人間がこっちへ近づいてくる。

「来るな。しつこいんだよ。いい加減にしろ」
 俺は無力な凶器をかざした。
 ああ、死にたくない。
 
 
 

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