書評①(どうする財源-貨幣論で読み解く税と財政の仕組み)


はじめに

経済学及び政治学の分野に限っていえば、二五ないし三〇歳を超えた人で、新しい理論の影響を受ける人はほとんどいない。だから役人や政治家、あるいは煽動家でさえも、彼らが眼前の出来事に適用する思想はおそらく最新ではないだろう。だが、早晩良くも悪くも危険になるのは、既得権益ではなく、思想である

「雇用、利子および貨幣の一般理論」J.Sケインズ

本稿は、「どうする財源-貨幣論で読み解く税と財政の仕組み」のP83までの内容を要約したものである。
読んで頂ければわかるが、本書の内容は世間で語られている言説とは真逆というより、常識に真っ向から対立するものである。しかし、私は本書の立場が正しいと考えている。抽象的な語句を使わず、とにかく発生している事象やメカニズムから考えようとする本書の内容に納得感があるためである。しかし、多くの方には抵抗がある内容だと思う。なぜならば、人は自ら慣れ親しんだ考えと真逆の違う意見と出会うと激しい嫌悪感を抱くからである。。それでも、たった一人でもいいので内容に共感し、本書を手に取ってくれることを願っている。

貨幣とは~信用貨幣論と信用創造~

2つの貨幣論

貨幣とは物々交換の手段として生まれたとする商品貨幣論があるが、実はそのような証拠は有史以来見つかっておらず、全く別の貨幣論が存在する。それが、信用貨幣論である。
信用貨幣論において貨幣とは、「負債の一形式であり、経済において交換手段として受け入れられた特殊な負債」(イングランド銀行季刊誌2014春)と捉える。つまり、負債を発生させると貨幣が創造されるのである。どちらの説が正しいかといえば、古代エジプトやメソポタミア文明から債権債務の計算をしていたことからすると、信用貨幣論が正しいのではないだろうか。

信用創造

「現金通貨(日本銀行券、通貨)」「銀行預金」が貨幣という名前で負債として流通している。日本銀行券などを発行できる中央銀行だけなく、民間銀行も貨幣を創造しているのである。
民間銀行がどのように貨幣を創造しているのかというと、民間企業など借り手に貸出しを行うことで貨幣が創造される。これを信用創造という。反対に債務の返済を受けると負債がなくなり貨幣が破壊される。つまり、銀行は「無」から貨幣を創造することができるのである。ただし、無制限に貨幣が発行できるのではなく、貸出先の返済能力と資金需要の制約をうける。
また、中央銀行も準備預金を創造し、民間銀行への貸し出しをしている。日本においては、日銀当座預金という。そのため、中央銀行は現金通貨と準備預金を「無」から創造していたのである。

資本主義とは

資本主義の3つの特徴

シュンペーターの言葉を借りれば、資本主義とは3つの特徴を有する産業社会と捉えれる。その3つの特徴とは、①物理的生産手段の私有化②私的利益と私的損失の自主責任化③民間銀行による決済手段(銀行手形あるいは預金)の創造である。特にシュンペーターが重視していたのが③で、③が欠けている社会は「商業社会」ではなく、「資本主義」ではないと捉えている。そして③こそ信用創造そのものである。③により企業は、銀行から巨額の資金を借り入れることができ、大規模な事業を行うことができる。18世紀のイギリスの産業革命が典型である。

資本主義における貨幣循環

資本主義の貨幣循環は、企業の資金需要があり、銀行が企業へ貸出しを行いうことで銀行預金(貨幣)を創造し、企業が収入を得たあと、銀行へ返済を行い、貨幣を消滅させる。ここで、重要なことは常に支出が先であり、収入および返済はその後ということである。
さて、この資金循環で重要な要素は企業の需要であり、企業の需要があるからこそ、貨幣が生まれ、その結果経済が循環し豊かになるのである。しかし、それを止める社会現象がある。それが、デフレーションである。デフレーションの原因は需要の不足であり、信用創造ができなくなるのである。そのため、デフレーションの状況において、資本主義は機能しなくなり、経済は停滞するのである。この30年その状況を放置した愚かな国がある。それが日本である。

政府部門における貨幣循環

政府の貨幣循環からわかること

政府の貨幣循環は、民間の貨幣循環と同様で企業を「政府」、銀行を「中央銀行」へと読み替える。つまり、中央銀行が信用創造によって「無から」貨幣を生み出す。貸し出し(貨幣の創造)に必要なものは政府の資金需要のみである。そして、政府が貨幣を民間部門へ支出を行うことで、貨幣を民間部門へ供給することが可能となる。
そして、この貨幣循環から次のことが言える
①政府支出が先、税収は後。政府が支出するにあたって、税収を必要としないということ
②④政府の財源=中央銀行の信用創造=政府の需要。政府に公共需要があれば、中央銀行は貸出を行うことができる。つまり「政府の財源」と「政府の需要」ということである。
③税は財源確保の手段ではない。先に説明したように、税収はあとなのであるから、税は政府支出ではない。
⑤政府の徴税と返済によって貨幣が消滅する=財政健全化とは貨幣破壊である。徴税により貨幣が民間から政府へ回収され中央銀行への政府債務の返済に使用されると、貨幣は消滅する。
⑥すべての企業と政府が債務を返済すると、この世から貨幣が消える。

デフレ下で財政赤字を増やすことは良いこと

デフレ下では、企業の需要がないため、銀行は貸出ができず、企業は債務を返済するため、貨幣が消えていく。更に、政府まで債務の削減いわゆる健全財政を行った場合、更に需要がなくなり、デフレが悪化する。そのため、デフレ状況下での財政赤字はむしろ歓迎すべきことなのである。そして、徴税権を持つ政府は確実な返済能力を持つのである。

ここまでで、信用創造を前提として、銀行の預金の役割とは何なのかということ、貨幣破壊をすることに何のメリットがあるのかという2点の疑問が残った。


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