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【つくり話】時空を超えて〜たんぽぽの季節

大丈夫だよ。絶対に大丈夫だから。

とにかく息をとめて、深くお湯の中に頭まで全部つかった。もう世の中の音が、全部聞こえなくなるように、お風呂の奥に奥にとどまろうとした。
心の中なのか、思考の中なのか、想像なのか、希望なのか、絶望なのか、

絶対に大丈夫だよ。心配することはなにもないよ。

また声は聞こえた。本当に苦しいこの気持ちも、どうにかなるということか?そんなことがおこりうるのか? 今は全てが苦しく、切なく、どうしようもなく、怒りでも、悲しみでもどうすることもできず、どう動くことも、誰に相談することもできない。ただ、ただ、内なる声と深いところにあるであろう愛を感じるだけしかできない。

この聞こえてくる声は、おそらく未来の自分からだ。お湯のなかで、ごうごうという水独特の音をきいていたら、ふと、そう思った。そうか、きっとそうだ。
私は時々、今に答えが見つからないときに、未来の自分に問い合わせをする習慣があった。3年後のわたしは、どうなっているのか?どうなっていてほしいか?どうなっているのかはわからないが、その時の自分なら、今の自分になんと答えるのか?そうすると、自ずと今すべきことがみえたり、気持ちが和らいだりすることがあった。しばらくそれをわすれていたが、今ふと思い出した。そうなのか?いますぐにでも、死んでしまいそうなくらい苦しく極限とも思えるが、だけど、どうでも、結局は、何かがどうにかなって、大丈夫になるんだ!未来のわたしは、とても落ち着いて、満たされて、温かい女神のような笑みをたたえている感じがする。そんなところからの、大丈夫だよ。である。そっか。なら、大丈夫か。ジャバーンと、お湯の中から、頭をあげ、生ぬるい空気を、深く肺の奥に届けて、はーっと大きく息をはいたら、すべてのことが洗い流されたようなそんなさっぱりした気分になった。

さて!着替えて、散歩にでも行こう!今日はちょうどよい小春日和だ。裸足に草履をはいて、近くの池に歩いて行こう。大丈夫だね。大丈夫だよ。君の思った通りになるからね。草の生い茂ったなかに、黄色のたんぽぽがあちこちに咲いていた。

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