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「セクシー田中さん」事件で注目 著作者人格権奪う世田谷区 見直し求める要望書にゼロ回答

 原作者で漫画家の芦原妃名子さんが自死(享年50)に追い込まれたドラマ「セクシー田中さん」事件は、出版元の小学館、映像化した日本テレビを巻き込むなど大きな社会問題に発展している。原作に忠実にという作者の意向が脚本に十分に反映されなかったことが自死の主因とみられる。ここで浮かび上がったのは「著者が待つ絶対的な権利『著作者人格権』について周知徹底し、著者の意向は必ず尊重され、意見を言うことは当然のことであるという認識を拡げることこそが再発防止において核となる部分」と第一コミック局編集者一同の声明(2月8日)が指摘した著作者人格権だ。
 
譲渡できない権利
 
 財産的な利益を保護し譲渡が可能な著作権と異なり、著作者人格権は作者の許諾を得ず、無断で作品を改変することを禁止した譲渡ができない権利と著作権法第59条で定める。
 この著作者人格権問題で思い出すのは東京・世田谷の区史刊行を巡る区と大学教員の対立だ(2023年5月25日号本紙で既報)。区史編さん委員を委嘱された中世史部分を担当する青山学院大学文学部史学科準教授・谷口雄太氏は、区から執筆条件として「著作権譲渡(無償)と著作者人格権の不行使」を規定した契約書締結を23年2月に求められ反対したところ3月末に委嘱を打ち切られた。
 谷口氏の支援とよりよい区史刊行を目指した区民らが今年1月に立ち上げた「世田谷区史のあり方ついて考える区民の会」は、著作権と著作者人格権を奪う契約書の見直しを求める要望書を2月27日に保坂展人区長に提出した。
 発起人のジャーナリスト・稲葉康生氏は「歴史学者に著作者人格権の不行使を求めるのは、研究と執筆にリスペクトを欠くだけでなく、研究内容の改変、改ざんを可能にする。研究成果への信頼が毀損されかねない」と区のやり方を批判した。
 
学者生命奪われる
 
 芦原さんの自死について谷口氏は「自分が思いを込めて作ったものが同意なく、改ざんされるのは耐え難い。作品にキズをつけられたような気持ちになり精神的にショック。同じ作り手の立場としてそう思いました」と語った。
 著作者人格権の不行使に反対する理由を谷口氏は2点あげた。「一つ目は区に中世吉良氏の専門家はいません。デタラメなものに書きかえられる恐れがある。学術的な正当性が担保されていない」「二つ目は私の名前でデタラメな内容の区史が出たら名前にキズがつく。学者生命が脅かされる、奪われかもしれません」
 著作権譲渡に対して「私個人は無償でもいいが、(区史執筆では)経済的に余裕がない若い研究者や大学の非常勤講師の方もいます。無償譲渡見直しを求めるのは妥当です」と谷口氏は述べた。
 
準備号が尾を引く
 
 今回の騒ぎは谷口氏が執筆した区史刊行の準備号が発端だ。著作権と著作者人格権の両方を侵害したとして区に抗議した。これが尾を引いたのか区は2つの権利を外す契約書を配布した。
 「セクシー田中さん」事件は、著作者人格権をないがしろにすれば著作者の命を奪うほど重い問題ということを明らかにした。
これを踏まえ要望書では保坂区長との対話も求めたが、世田谷区は、話し合いはできないと5日、区民の会に伝えた。
 「熟議」を大切にするという保坂区長、これでは看板倒れではないか。

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