違法な捜査とズサンな裁判

あまりに理不尽

 事件事故の原因究明はもちろん、裁判でも証拠がすべてであることは論を待たない。肝心の証拠が偽造、ねつ造されたら、犯人ではないのに犯人にでっち上げるのは容易なことだ。裁判で証拠偽造が見破られず、えん罪が後を絶たない。私の友人がえん罪につながるような事故の処理があった。

事実をねつ造

 控訴審で新証拠を出したが一顧だにされなかった。上告審の最高裁でも新証拠の採用を検討されることはなかった。捜査機関と検察、裁判官、弁護士を含めて司法の猛省を促すため、事故から最高裁までの一部始終を報告する。
 未明の歓楽街。深夜営業の飲食店が入るビルの前の狭い市道わきに友人Aは立っていた。終日一方通行路をバック運転で逆走してきたタクシーにはねられた。タクシー運転手から「当たり屋」扱いされた。

一方的な供述で実況見分

 交通事故処理の警察官はタクシー運転手の一方的な供述だけで実況見分調書の現場見取り図を作成。事故の目撃証人の供述も取らなかった。現場近くに設置された防犯カメラの映像記録さえ確認しなかった。裁判ではこれらニセ現場見取り図が証拠採用された。
 世の中、不可解なことは多々あるが、あまりの理不尽さに我慢できないこともある。「こんなこと、あっていいのかと」と、Aは不法な捜査と不当な裁判に怒りをぶつけた。文中、実名や当時の年齢、住所はプライバシー保護の関係から伏せた。かなり年数が経ったので時系列で整理した。

一方通行路をタクシーがバックで逆走

 事故があったのは2018(平成28)年3月13日午前3時55分ごろ。現場は、神奈川県厚木市中町3丁目の市道(幅3・45㍍)わき。タクシーが一方通行路はバックで逆走して事故は起きた。
 現場は小田急本厚木駅に近い厚木市内随一の繁華街にあり、通称「ハトポッポ公園」わきの一方通行路の市道。第二当事者で被害者となるAは市道に面したビル入り口の真ん前にいた。公園を背にビルを向いた状態で、歩車線を分離する白線よりやや道路中央寄りに1人で立っていた。
 事故当時、第一当事者で加害者のタクシー運転手は50代前半、第二当事者のAは50代後半の年齢だった。同市内に本社のあるタクシー会社のタクシーは東西に延びる終日、一方通行路をバックで約20㍍も逆走してきた。注意喚起のクラクションはなかった。Aはまさか一方通行路を道路事情に明るいタクシーが逆走してこようとは想像もできなかったし、やや耳と目が悪いこともあって車の気配にも全く気付かなかった。

横に倒れたと虚偽の見取り図作成

 Aはタクシー後部を右わき腹から腰にかけてぶつけられて仰向けの状態でよろけながら転倒。道路と並行となる状態で道路中央付近で頭部を本厚木駅方向の東に向けて仰向けに倒れた。タクシー車両は仰向けになったAに後部がかぶさる状態で止まった。Aは倒れ込んだ際、左足の甲部分を後輪でひかれた。
 公園の手すりによりかかって酔い覚ましをしていた中年男性1人が、事故の一部始終を目撃していた。
 Aが大きな声で「ウォー」と叫び声のような悲鳴と驚き声を上げたことや衝突の衝撃で、運転手は事故に気付いた。驚いた運転手はタクシーから降りた。タクシー車両がAに乗り上げているような状態を見て、慌ててタクシーに戻り車両をやや前進させた。運転手はタクシーの後部から上半身が出ていたAを引きずり出そうとした。
 目撃者の男性も引きずり出すのを手伝った。目撃者が119番通報して救急車の出動を要請した。間もなくして救急車が到着した。救急隊員は引きずりだされたAを担架に乗せ、「大丈夫ですか」と声を掛けた。Aは東名高速厚木インター近くの病院に搬送された。
 ちなみにAは現場近くでマッサージ店を経営。いつもこの時間帯、売上金を取りに店に行っていた。たまたま長男が事故現場前のビル4階に知り合いが新規の店を開いたお祝いにその店へ行くと言って出掛けたので、同ビル前の路上に立って上方の4階を見上げながら長男が出てくるのを待ち構えていて事故に遭った。

診察の当直医もウソを記述

 救急搬送された病院では当直の若い男性医師が診察にあたった。診察記録を見ると、Aは「どこも痛くはないと言った」▽「わけのわからない事を大声で叫んだ」▽Aから「アルコールのにおいがした」などと記されていた。
 Aは体質的にアルコールは全く飲めず、「ウイスキーボンボン1個を食べただけで顔が赤くなるほどアルコール類に弱かった」。
 後で「アルコールのにおいがした」との記述があるのを知り、「ウソを書いた」と激怒。厚木市消防本部に自ら問い合わせた。事故当時、搬送にあたった救急隊員から「アルコールのにおいは全くなかった」との一札を取った。
「大声で叫んだ」ことも記憶になかった。医師がデタラメを書いたと憤慨した。

ズサン捜査

 Aが救急搬送された後、まもなく神奈川県警厚木警察署交通課事故処理係が来て現場検証が行われた。Aが病院に担ぎ込まれたので事故当事者による現場検証の立ち会いはタクシー運転手だけ。実況見分は15日に行われた。
 実況見分は任意捜査だが、事故態様を把握するため事故現場で事実確認や証拠保全などの大事な作業をする。警察は国家公務員法で定められた犯罪捜査規範に則り、正確で分かりやすい実況見分調書と同時に現場見取り図の図面を作成する。分かりにくい場合は、図面に写真を張り付けるなどして必要な説明をすることになっている。神奈川県警の巡査部長は地方公務員。地方公務員も国家公務員に準じる。
 この15日の見分で作成された実況見分調書の現場見取り図で、Aはタクシー左横の助手席側でビルの方に頭を向け、道路とTの字になる格好で足をタクシーに向けて倒れていたように書き込まれていた。Aが「タクシーの真下に倒れた」というのに全く事実と異なる見取り図だった。
 現場見取り図ではAが「タクシーの下に入った」と供述しているのに全く違った倒れ方になっている。これはタクシー運転手の供述だけをもとに作成された。Aは「運転手は自分を引きずり出したんだから、倒れていた状況は十分に知っていた。なのに、ウソをついてタクシー車両の横に倒れていたようにした。ビル側に倒れていたら、自分は間違いなく頭を強打していた」と話した。

公文書偽造、同行使

 ウソの現場見取り図作成の実況見分は二度実施された。タクシー運転手から「記憶違いがあった」との申し出を受け、厚木署は事故当日から4日後の同月17日、再びタクシー運転手1人だけの立ち会いで実況見分を実施。実況見分調書の現場見取り図を再度作成した。
 2度目の実況見分でも現場見取り図ではAはやはり、タクシー車両の助手席側の横に頭部をビルに向けて倒れていた。事故当日と同じ現場見取り図を補強する見取り図で、ウソが上塗りされた。
 違ったのは事故当日、捜査に当たった巡部長自らが見取り図を作成したが、17日はこの巡査部長から指示を受けた事故処理係の「何の事情も知らない」別の巡査部長が作成していた。
 現場見取り図を作成したのは運転手から事情を聴いた警察官2人、第二当事者の供述者はAの1人だけ。2人対1人で信用性の軍配が警察官に上がるように仕組まれてしまった。現場見取り図を別の巡査部長が作成したことで、ウソだらけの見取り図の信用性が高まってしまった。最初に見取り図を作成した巡査部長はウソだらけの見取り図を別の巡査部長に作成させたことで、自らの責任を半分は免れたような格好となった。

被害者立ち会い無しの実況見分が2回も

 実況見分のやり直しは、ここに大きな問題があった。実況見分に被害者のAが立ち会っていないのに実況見分書と現場見取り図が作成されたことだ。事故当日はAが救急搬送されたのでAがいないのは仕方ないことだった。
 だが、15日の見分と17日のやり直し見分ではタクシー運転手だけでなく、被害者のAの立ち会いは最低限の不可欠な必要十分条件だった。できれば目撃した男性の立ち会いも必要だった。しかしAも、目撃証人もいない状態だったので、一方的にタクシー運転手の供述だけで実況見分調書と現場見取り図が作成されてしまった。
 こんな公平と公正を欠く状態で実況見分が実施されたということは聞いたことがないし、あってはならないことだ。いくら任意捜査の実況見分とはいえ、犯罪捜査規範に違反する全く不公平・不公正なデタラメ見分、違法な見分と言っても過言でない。
 こういう捜査がよく成り立ったと思う。というのも巡査部長の上司、事故処理係長や交通課長が見て、第二当事者Aの立ち会いがなかったことについておかしいと気が付かなかったとしたら全く職務怠慢でしかない。警察行政全体の信用性にかかわる問題だ。こういうデタラメ捜査が大手を振ってまかり通るのが警察なんだと思われても致し方ないやり方だと思う。

防犯カメラの映像も点検無し

 事故直後の現場検証でAは巡査部長から「事故を目撃していた男性がいるので必ず話を聴いてください」と言われ、男性の携帯電話番号を教えてくれた。
 なのに、巡査部長はこの目撃者の供述を取らなかった。Aは事故から1週間後、厚木署を訪ね、巡査部長に対して「現場付近に防犯カメラが何台かあるので、カメラの記録映像を確認してください」と申し入れた。
 Aは近くに自分の店があるので現場一帯の状況は熟知していた。Aの知る限り現場一帯は同市内でも有数の歓楽街とあって、周辺には同市役所が設置した防犯カメラ2台があり、事故現場前の民間ビル玄関口にも防犯カメラ1台が設置されていた。
 ところが、Aの厳重な申し入れにもかかわらず、巡査部長は防犯カメラの記録映像を回収しなかった。それどころか記録映像も全く見ていなかった。後にAが追及すると、「事故から1週間後、市役所に行って映像を見ようとしたが、すでに映像が消えていた」と話したという。
 巡査部長は交通事故や事件で防犯カメラの映像記録が重要な手がかりになることを熟知していたし、実際に事故処理で使ったこともあった。公的な映像記録が事故発生から2週間で自動的に消去されることも知っていた。巡査部長が市役所に行って、映像記録の提出を求めたのは、既に記録が消去された3週間後だった。わざとそうしたと考えざるをえない。

目撃者からも証言を聴かず

 さらに巡査部長はAに目撃証人の携帯電話番号まで教えたのに、事故を目撃した中年男性からの参考人聴取もしていなかった。後に中年男性が「死んでいなかった」とAは聞かされた。なんで目撃男性が亡くなったのか、Aは「おかしなことがあるもんだ」と思った。男性の死は知るよしもなかったが後で事実と確認した。
 証拠をねつ造して、犯罪者を仕立て上げるえん罪事件と似ている。事実無根なのに、証拠調べで必要不可欠な捜査をしないで事実関係を偽造して証拠をでっちあげた。
 捜査資料の公文書偽造とズサン捜査がまかり通って、「こんなことって、ありか?」と思った。全く、タクシー運転手とタクシー会社をとりわけ有利に扱う甚だしい便宜供与ではないのか。今時、こんなあからさまな便宜供与があるのかと思った。

著しい便宜供与

 厚木署は運転手について人身事故を起こした道路交通法違反、過失運転致傷容疑で書類送検した。横浜地方検察庁小田原支部厚木検察庁はタクシー運転手を過失運転致傷容疑について不起訴処分とした。運転手は道交法違反の罰金を納めただけで済んだ。
 法と事件事故捜査に熟知した検察官が、素人でも分かる警察官の一方的な捜査のやり方、手法に気が付かなかったというのも相当な職務怠慢だ。事務的、機械的に処理を早くすることだけに方向性が向いてしまった。普段、警察官作成の供述調書など信用しないで、見向きもせずに一蹴する検察官がだ。
 Aは後日、厚木署の対応について神奈川県警本部に巡査部長の厳正な対処を申し入れた。後ほど詳しく経過を報告する。
 当たり屋扱いされたAは2017(平成29)年、横浜地裁小田原支部民事部にタクシー運転手とタクシー会社を相手取って損害賠償請求訴訟を提訴した。運転手とタクシー会社は逆にAを相手取り、2017年5月、債務不存在の確認訴訟を起こした。これに対してA側は第三回口頭弁論の2017年8月10日、反訴状を提出した。A側が再び反論の提訴を行い、法廷に臨んだ。民事部裁判官はタクシー運転手側が2019年10月26日の第一回弁論準備手続き期日に訴えを取り下げたことから、事件を損害賠償請求反訴事件として審理に付した。第二当事者のAは反訴原告、第一当事者のタクシー運転手は反訴被告の立場となった。

ウソの実況見分書を証拠採用

 Aは自ら提訴の損害賠償請求訴訟と債務不存在確認訴訟、これの反訴とも訴状に最初からすべて目を通していなかった。事故当初から判決文が出るまで何もかも「母親の知り合いだから」と信用した弁護士任せだった。
 民事裁判は2019(令和元)年5月30日に口頭弁論が終結。Aは同年7月11日に判決が出されてから、裁判のいきさつ、経過、結果のすべてを知った。「これはおかしい」と叔父や友人に相談して、判決文を検討した。
 判決後、Aが驚いたことはタクシー運転手側が起こした債務不存在の確認訴訟の中で、Aの「故意的な飛び出し」によって事故が起きたとタクシー運転手側が主張していることだった。「故意的な飛び出し」、いわば「当たり屋」扱いだ。
 この裁判で運転手側の弁護人は、Aを「当たり屋」と断定する訴えを同じ民事法廷に出した。が、裁判官に「確証はあるのか」と事実確認を強く求められ、訴えを取り下げたいきさつがある。

当たり屋扱い

 Aは当たり屋扱いされて憤った。この裁判でタクシー運転手側は、Aの主張、供述には信用性がなく、事故が偶発的に発生したものではないことは明らか」と論断した。Aの主張する事故の態様などについてことごとく反論。「事故の根幹部分に関する主張が一致していないのはAの認識があいまいであるためで、故意的に事故(ないし受傷)を作出したからにほかならない」と指摘。事故は「Aの故意的な飛び出しで起きた」と主張した。
 その証拠として厚木警察署作成の実況見分調書と現場見取り図などの書類やタクシーのドライブレコーダーの記録映像を提出した。映像には幅3・45㍍と狭い市道の歩車道分離の白線より道路中央よりに立っていたというAの姿が映ってなかった。
 さらに「事故当時、道路に乗用車3台が路上駐車していた」とAが話しているのに、映像には路駐の乗用車が映っていなかった。Aは「絶対映っているはず」というが、映像に姿も車もなく、これもタクシー運転手側が「Aの故意的な飛び出しによる事故」と主張する根拠とされた。
 映像を見る限り、Aの主張が映像で裏付けられてなく、Aにとって不利な状況だった。Aは映像が事故後に修正された疑いがあるとして、専門機関に映像を送り解像を依頼した。
 専門機関は「可能性はあるが、明確には分からない。映像に手が入れられたかどうかは警察で調べることができる」という回答だった。警察に訴えても、警察が受けてくれるはずもないと思ってあきらめた。
 裁判では偽りの実況見分書と現場見取り図が証拠採用された。裁判官は実況見分にAの立ち会いがなかったことをどうして不思議に思わなかったのか、これが不当、不公正どころか違法な捜査手法であることをどうして見抜けなかったのか。防犯カメラの映像がどうして証拠として提出されなかったのか。事故直後に搬送された医療機関の当直医の記述について検証も、証人尋問もしなかった。裁判官は当然、この不可思議な事態に気が付かなければならない。まず、これが問題の落ち度だ。

右腎臓を移植した体

 Aは重い糖尿病を患っていた。人工透析を続け、2007(平成19)年に一級身障者に認定された。特に右の腎臓が悪化。2011(平成23)年、当時の妻から提供を受けて東京女子医大で右の腎臓移植手術を受けた。糖尿病がひどく、今でも毎日、数回インシュリン注射をしている。
 Aは怒りをぶつけた。「右の腎臓を損傷してダメになったら死を待つのみ。わざわざ右の腎臓をダメにする覚悟をしてまで右の脇腹と腰のあたりをぶつけるように車に当たりに行きますか」と、涙声で訴えた。
 Aは十数年前、階段から転落して右膝のじん帯を切断、ひざの皿を割る大けがをした。「正座はもちろん、しゃがむことさえできない。ひどい糖尿病で足全体が壊死するかもしれない身体的状況にあって、命をかけてまで自ら車にぶつかることなんて絶対にしない。そんなムチャはしない」と訴えた。
 一審の民事訴訟で運転手側は厚木署作成の現場検証、実況見分調書と現場見取り図、ドライブレコーダーの映像記録を証拠申請、裁判官はこれらをそっくり証拠採用したことが大きな問題だった。
 小田原支部支部民事部の裁判官は優秀だった。じっくり論点を整理した。しかし、採用した証拠の実況見分調書、現場見取り図がAの立ち会いがなく、運転手の一方的な証言で作成されたウソの調書、見取り図だったこと、偽造公文書作成、同行使を見抜けなかった。
 優秀な裁判官でも扱った証拠そのものが偽証であれば、判決は言わずと知れたことだった。Aの「故意的な飛び出し」こそ認めなかったものの、判決文の全体的なニュアンスとして「故意的な飛び出し」を暗ににおわすような文脈もあった。

一審判決は五分五分

 これは証拠採用された実況見分調書と現場見取り図が大きく作用したとみられる。判決についてザックリ言うと、Aと運転手とも引き分け、金銭面も含めて五分五分だった。Aは「五分五分の判決」に不満だった。「自分は全く悪くはない。なのに、なぜ五分五分になるのか」と怒った。
 自分が当たり屋扱いされて、悔しくて寝られなかった。すっかり憔悴(しょうすい)し、眠れない日々が続き、目の周りに青黒い隈(くま)ができた。一時は自殺も考え、厚木市に近い大規模ダムの橋から飛び降りを図ったこともあった。橋の手すりに乗ろうとしたところ、たまたまパトカーが不審に思ってかスピードを落として通りかかったので飛び降りをあきらめたという。Aは隣接市に住む叔父や知り合いに訴状や判決文などの資料を見せて相談した。

県警に告発

 まず、事故当初、捜査に当たった厚木署交通課事故処理係の巡査部長について、県警本部に告発した。実況見分にあたって第二当事者(被害者)Aの立ち会いを求めず、運転手だけの立ち会いで見分したことの非、不公正、不公平を訴えた。
 運転手の供述だけで、ウソの現場見取り図を作成した現職警察官の「虚偽公文書作成、同行使」を指摘した。さらにAから目撃証人の携帯電話番号を聴きながら、目撃証人への連絡を怠り、目撃証人の供述を取らなかったこと。Aからきつく念押しされた現場周辺の防犯カメラの記録映像を回収しなかったばかりか映像も見ていなかったことの不法行為にも等しい職責放棄も指摘した。
 2019年秋ごろ、Aは怒りが収まらず、同年4月の人事で厚木署から別の警察署に異動した巡査部長に直接会いに行った。巡査部長はAの顔を見るなり、「すいませんでした」と謝った。Aは「なぜ、自分の話したのと違う実況見分の見取り図を描いたのか」と問いただした。巡査部長は問いかけに答えず、「もうしわけありません」とただ謝るだけだった。
検察審に申し立て
 Aはさらにタクシー運転手が一方通行路をバックで逆走して人身事故を起こしながら過失運転致傷について不起訴処分とした横浜地検小田原支部厚木区検察庁の処分の不当性を訴え、2019(令和元)年4月、小田原検察審査会に審査を申し立てた。
 小田原検査審査会は同年7月11日、Aの申し立てを全面的に認め、「捜査は十分尽くされているとはいえない」と判断し、「不起訴処分は不当」の議決を出した。
 この検察審の議決がなかったら、一審裁判は誤ったままになっていた。Aは検察審の議決に深く感謝した。

2019年8月26日夜に実施された、やり直しの実況見分

 この議決を受けて地検小田原支部厚木区検察庁はじきじきに捜査指揮を行い、2019年8月26日午後7時過ぎ、「ハトポッポ公園」そばの現場で、検察官と厚木署交通課員、それにAの立ち会いで現場検証と実況見分をやり直した。Aの主張通りの実況見分調書と現場見取り図が作成された。
 運転手は検察官の取り調べで「私の不注意の結果、事故を起こしたということは私自身納得しています」と供述して自らの不注意による事故を認めた。
 厚木署が行った実況見分の事実関係を覆すもので、運転手の不注意がないことを前提にして作成された現場見取り図の根拠が崩れた。
 この結果、厚木区検は同年11月13日、運転手を刑法第18条(過失運転致傷)と刑事訴訟法第348条を適用し、罰金10万円の略式命令を請求。厚木簡易裁判所は同月22日、この略式命令を認め、運転手に罰金10万円の略式命令を出した。このやり直しの実況見分で事態は急変した。
 検察審の議決がなかったら、事態の急変はなかった。Aは改めて検察審の良識な判断に感謝した。検察審メンバーは公表されていないので、直接頭を下げることはできなかった。
 運転手はこの命令を受けて10万円を納め、Aの主張は全面的に認められた。Aが小田原検察審査会に申し立てたいきさつなどは2019年12月29日付毎日新聞の地方版「横浜面」に掲載された記事に淡々と書かれている。
 ちなみにAが神奈川県警に出した事故当時、厚木署交通課事故処理係として事故処理・捜査、現場検証を担当した巡査部長に対する関係資料を添えた告発状を簡単にまとめて参考までに掲載する。
  

【 告発状 】

神奈川県警本部長様 

 厚木警察署交通課事故捜査係の巡査部長が事故処理、交通捜査を担当しました。事故処理、交通捜査が極めてずさんで不適切だったので、告発状を提出させていただきます。
< 被害者立ち会いの実況見分を行わなかった >
 事故の実況見分は巡査部長によって2回行われました。1回目は事故直後(現場の見分状況書、平成28年2月15日作成)に、2回目は1回目の見分の補充として実施されました(現場の見分状況書、平成28年3月10日作成)。補充の理由は「運転手の記憶違いから再見分の要望があったため」としています。 
 事故現場は公園の向かいにあるビルの前の市道です。私はビル側を向いて公園を背にして立っていました。右側の腎臓を移植した一級障害者が自らの死をかけて故意にぶつかることなど到底ありえないことです。
 事故の態様について、運転手と被害者とではまったく主張が異なります。なぜ、1回目の見分(事故発生から2日後)に被害者の立ち会いを求めなかったのか。さらに補充と称した2回目の見分でも立ち会いを求められていません。運転手に記憶違いがあるとするなら、当然、被害者(A)の立ち会いを求めてしかるべきです。
< 目撃者の供述を取らなかった >
 事故当時、現場のすぐわきにいて事故の一部始終を目撃した第一発見者がいました。厚木市消防本部に119番通報した男性です。巡査部長は救急搬送されるため担架に乗せられた私に、「事故をしっかり見ていた人がいます。後で会って事故の状況について話を聞いてください」と言われました。救急車に乗せられる直前、この男性の携帯電話番号を聞きました。 巡査部長自らが私の電話番号を教えてくれたのです。
 ですから巡査部長がこの目撃者から事故状況を聞いて供述調書を取ったものだとばかり思っていました。ところが、巡査部長は目撃者から話を聴いていませんでした。運転手の記憶違いから補充の実況見分を行い、事故態様について加害者と被害者の供述がまったく異なるのに、なぜ、重要な証拠となる目撃者の供述を取らなかったのか。職務怠慢どころが、職務放棄だと断言できます。
< 防犯ビデオの映像を押さえなかった >
 事故現場の道路には公設の防犯カメラ2台があり、ビル1階にも私設の防犯カメラ1台があります。交通事故はもちろん、防犯カメラの映像を押さえるのは捜査のイロハともいえる常道であります。ましてや事故態様について加害者と被害者の供述が対立しているのだから、決めての証拠となる防犯カメラの映像を押さえるのはごく当たり前の職務です。
 巡査部長は当然やるべきことをやりませんでした。職務放棄でしかなく、仮に運転手に荷担するような悪意があって映像を押さえなかったとすれば、自ら証拠隠滅を図った行為と言わざるをえません。以上、交通捜査担当の警察官として、悪質な職務放棄が明らかであり、公正公平な立場から国民の守ることをしなかった巡査部長に対して、厳正な処分が行われることは当然だと思って告発状を出させていただきました。
 (巡査部長は)タクシー運転手に対する2回に及ぶ実況見分で、被害者の立ち会いを求めず、運転手だけの証言をそのまま信用して全く事実を異なる虚偽の実況見分書を作成。捜査の公平性を著しく欠き、全く善意の被害者を悪意ある「当たり屋」扱いした虚偽公文書作成、同行使に該当する。
令和元年8月吉日

全治3週間が1週間に

 ちなみにAのけがの程度は、救急搬送された病院でAの診察にあたった当直の若手の男性医師に「たいしたことはない」と話したこともあって、全治1週間の打撲傷と診断された。Aは若い医師から「明日も痛いようなら近くの医療機関で診てもらってください」といわれた。
 Aは事故から2日後の2月15日、首回りが赤くはれ上がり、腰や臀部にも痛みがあるため、いきつけの整形外科病院で診察を受け、院長の医師から「全治3週間」と診断され、3週間にわたってこの整形外科病院に通院した。
 ここで不可解なことが起きた。この整形外科医院にAの弁護人が行き、「自賠責保険の請求をするので(Aの加療について)全治1週間の診断書を書いてほしい」と院長に頼んだという。Aが通院治療していることから、院長は「1週間では治らない」と話して診断書の提出を最初は断ったが、弁護人から「自賠責保険を請求するため」と懇願されて診断書を書いて渡してしまった。
 同年2月27日付診断書によると、「右肩打撲、右股関節捻挫、左足圧挫傷」とされ、2月15日から2月20日まで診察を受け、20日で診察を中止したことになっていた。「左足圧挫傷」とは転倒した際、左足の甲部分を助手席側の左後輪にひかれたことによる挫傷。Aは事故から数日後、頸部に痛みがあり、この治療にため3カ月間も通院した。
 タクシー運転手側は「受傷事故などなかった」と一蹴(いっしゅう)した。自賠責保険はタクシー運転手側でしか請求できないものであり、Aの弁護人はおそらく運転手側の弁護人から頼まれたと推測される。
 整形外科病院の院長が「1週間ではありません」と言っているのに、「1週間として書いてほしい」というのはAの弁護人としては、首をかしげざるをえない対応だ。
 Aは診断書を出した整形外科の院長に、「なぜ1週間のけがなのか」、面会して問いただした。院長は「Aの弁護人から強く求められたから」と説明した。
 Aはその後、自賠責保険センターに「全治3週間」で請求しても、このこともあって、「すでに全治1週間で支払い済み。決着がついています」と門前払いされてしまった。Aの訴えでは通院期間は7カ月と4日で、実治療日数は92日に及んだとしているのにもかかわらず、Aの主張が取り上げられることはなかった。
 一審で事故の発生原因、Aの接触部位、Aのけがの程度等、事故の態様の詳細に大きな争いがあった。運転手側はAがタクシー後方から飛び出したうえ、タクシーを待ち構えていたことで事故が起きたので、過失はないと強硬に主張した。
 判決では実況見分調書の現場見取り図とドライブレコーダーの記録映像が全面的に証拠採用され、Aの主張は「事実と整合しない」と退けられた。
またAが右腰あたりに車両後部が衝突したという説明は退けられてしまった。同時にAの「故意的な飛び出し」と言う事実も「認めるに足りる証拠はない」と一蹴された。過失割合は双方とも50㌫とみるのが相当と判断された。

証拠のでっち上げ

 事実誤認問題はこの民事裁判だった。裁判で最も重要な事実認定の証拠調べで、ウソで作成された実況見分調書と現場見取り図が証拠採用されたことは先に触れた。事実誤認を前提にした証拠調べでは、真実の事実認定が成り立たないことになる。これは刑事裁判、民事裁判でも同じことだ。
 でっち上げの証拠、偽造の証拠、ウソで作成された証拠が採用された裁判の判断は事実認定そのものが誤りであり、新しい真実の証拠の出現によって裁判の判断が根底から覆るのは当然だ。Aは控訴することにした。 
 民事訴訟法では「再審の事由」(第338条)確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったとき、この限りでない)と規定。以下の項目に該当する場合は再審の事由に相当するとした。
一  法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二  法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこ
 と。
三  法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を
 欠いたこと。
四  判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。五  刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影
 響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこ
 と。
六  判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであっ
 たこと。
七  証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の
 陳述が判決の証拠となったこと。
八 判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分
 が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
九  判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。
 Aの場合、再審でなく控訴だが、上記六から九に該当し、これを持って控訴、上告の理由とした。

事実誤認で控訴

 Aは地検小田原支部厚木区検察庁の再捜査で運転手が罰金刑になったことを受けて2019(令和元)年7月30日、地裁小田原支部民事部の一審判決(原審)の取消と弁論再開を求めて東京高裁民事部に控訴した。控訴審では一審の弁護士を替えた。
 新たな証拠として小田原検察審査会の審査議決や再捜査での現場検証及び実況見分が行われたことにより、再捜査での実況見分調書・現場見取り図などの資料を提出、改めて東京高裁の判断を求めた。Aは控訴にあたって控訴趣意書とは別に自らの「上申書」を高裁民事部に提出した。その上申書の要旨と重要なポイントをまとめた。 
 

東京高裁民事部様

上申書

 横浜地裁小田原支部の民事裁判で、当たり屋同然とされました。厚木警察署の事故処理、交通捜査がかなりずさんだったため証拠調べが不十分で、事実認定に重大な誤りがありました。被告側の主張はでっち上げ、事実をねつ造したウソだらけで、この悪意に満ちた被告側の主張を斟酌した審理が進められました。こんな理不尽なことがあってはならないと控訴しました。
 事故現場は一方通行路(幅員3・4㍍)です。公園を背に、ビルの正面を向いて横向きに立っていました。緑色に塗った歩道と車道を分ける白線よりも車道中央寄りに50㌢から70㌢ぐらいの所です。私は黒いジャンパーを着て、ジーパン姿でした。現場近くの道路には乗用車が3台止まっていました。
 タクシー左側後部が私の腰辺りに衝突しました。私は弾みで仰向けに転倒しました。タクシーはブレーキをかけたけれども、すぐには止まらず、車の後部が私の胸付近まで来ていました。その際、タクシーの左後輪で、左足甲の部分をひかれました。左足甲部はスニーカーを履いていたこともあって事故直後はさほど痛くはありませんでした。
 いきなりぶつけられて、私は気が動顚し、移植した腎臓の障害の有無だけを心配していました。右腰や肩、首回りなどに異常を感じましたが、頭の中は怒りと移植腎臓の心配だけでした。
 タクシーに備え付けのドライブレコーダーが写した録画を見てください。被告側が証拠として出した映像ですから、被告側に不利な映像があるはずもありません。
 映像におかしな部分がありました。1つは、逆送したタクシーの左後部が私にぶつかった瞬間の映像が不鮮明で良く分かりません。前方を見てタクシーを運転していた松本氏が「アッ」と言う寸前に「ドスン」という衝突音がしますが、ぶつけられた私、倒れ込む私の写った映像がありません。しかも、その前後の映像が汚くてはっきりと見えません。
 運転手が「アッ」と言う寸前に誰かがタクシー左後部側にしゃがんで座り込むような映像もあります。ぶつけられた事故当時、この道路には私しかいません。なのに、まだ別の人がいるように見えます。私しかいない現場で、誰かがしゃがんで座り込むような人がいたとすれば、私以外にいません。あたかも私が座り込んで左足を後輪に投げ出したようにも見えかねない映像です。
 これを見たら、まるで私が当たり屋のように思われてしまいます。しかし、私は右膝の大けがでしゃがむことができません。とっさにバック運転のタクシーが来たからと、とっさの判断でしゃがんで座り込むようなことはとてもできません。私はこの映像について、後で加工されたか、この映像が故意にぶつかったように見せるために手が加えられた映像だと推測しました。証拠改ざんです。
 現場付近には市役所が設置した防犯カメラが2台あります。タクシーが事故を起こした場合、タクシー会社は防犯カメラの映像を証拠として提出するのが常套手段です。今回、なぜ防犯カメラの映像を証拠として提出しなかったのか、あまりに不自然です。厚木署で事故処理を担当した巡査部長もこの防犯カメラの映像を押さえませんでした。
 事故後1週間ほどして、巡査部長に「防犯カメラの映像を証拠として押さえてください」とお願いしたにもかかわらず、巡査部長が事故発生から約3週間後、市役所担当課に行って映像を見ようとしたら、既に映像は消されていました。
 一審ではドライブレコーダーの映像が証拠採用されました。タクシーが一方通行路を逆走してバック運転で20数㍍も走っています。私にぶつかった時、ドライブレコーダーでは運転手は前を向いて、後方を確認していませんでした。私が腰の辺りをぶつけられて、よろけてお尻をついて仰向けに倒れました。肝心のこの部分が写っていない映像が法廷で検証されないまま証拠採用されたことはあまりに不可解だと思っています。
 ぶつかった瞬間、タクシー運転手は「オッ」と言って驚いていますが、ブレーキを踏んでもすぐには止まらず、そのまま数十㌢ほどバックしました。運転手はタクシーから降りて、泣きそうな声で「すいません」と言葉をかけ、転倒して車の下に仰向けになって左足の甲部がタイヤにひかれている状況を見ました。すぐにタクシーに戻って車を前に動かし、引きずり出しました。
 現場一帯は厚木市の中心市街地でも有数の繁華街です。運転手は、この繁華街の道路事情を知り尽くしているベテランです。一方通行路であることを認識しながら、違反を承知でバック運転で逆走し、挙げ句に後方を十分に確認する義務を怠り、人をはねるなんてことは決してあってはならないことです。
 明白に悪質な道路交通法違反をして、さらに人をはねてけがを負わせる自動車過失運転傷害罪を起こしています。被告側は平成29年5月19日付で、私を相手取り「債務不存在確認訴訟」を起こしました。この事故について、「故意的な飛び出し、及び、待ち構えにより生じているから、(タクシー運転手には)何らの過失も存せず、不法行為が成立せず、損害賠償責任は負わない」と、過失の不存在を主張しました。
 (Aの)傷病は「自身の故意的な転倒により発生したもので、実際には発生していない傷病であり」と、私を責めています。「事故は故意行為により発生した」と、私を「当たり屋」と糾弾しました。(救急搬送された)初診の病院での全治7日間の診断に対して「『7日間の診断見込みは甘い』と医師に食い下がり、医科から帰ってくれとしっせきされていた」と記述しています。
 これはまったくの作り話、でっち上げです。病院事務局に伺って「診察記録」を複写しました。この病院で5年間も人工透析を受けていたので、院長や事務局の人とも顔見知りです。
 救急搬送されて、当直医の診察を受けた際に「医師に食い下がった」とか、「医科から帰ってくれとしっせきされた」ことはあったのかどうか聞きました。事務局の方は、「まったくそういうことはありません。診療録にもこうした記載はありませんでした。なのに、こんなでっち上げの作文をされました。
 事故当時、現場のすぐそばの公園ぎわに座って酔いざましをしていたとみられる1人の男性が事故の一部始終を目撃していました。これは事故捜査を担当した厚木署の巡査部長から「事故が起きた様子をしっかり見ていた人がいます。後で会って事故の状況について話を聴いてください。証人になりますから」と言われました。事故当時、この男性は担架に乗せられた私に「足をひかれていましたよ。車がバックして、その後に車を前進させたので、2度ひかれたようにも見えました」と話していたことを覚えています。
 巡査部長は自分で「目撃者がいる」と言っていながら、捜査の中で第一発見者である目撃者の供述を取っていませんでした。私が故意にぶつかったとされそうな事故で、双方の主張が異なるわけですから、目撃者の証言は必要不可欠な証拠の1つだと思います。目撃者の証言を取らなかった巡査部長の対応はあまりにずさんであり、大きな落ち度があると思います。
 この目撃証言があれば、(Aが)自ら故意にぶつかったという運転手側の主張は、全くでたらめなことが分かります。巡査部長がその男性から事故の状況をきちんと聴いて目撃者の調書を作成し、捜査した結果の証拠として出していただいたものと思っていました。
 目撃者に代わるものとして、現場付近に設置された2台の防犯カメラがあります。防犯カメラは夜間でも鮮明に写った映像を記録します。巡査部長は交通捜査という職務上、防犯カメラの映像を証拠として扱うことに習熟していると思います。職権で映像を押さえることができたはずです。捜査のイロハのイであり、なぜ防犯カメラの映像を証拠として押さえなかったのか、捜査があまりにいい加減だったと思います。
 2つ目の驚きは、実況見分書が2つあることでした。見分の日付は最初は平成28年2月15日、2回目は平成28年3月10日です。被害者の私は2回とも実況見分に立ち会っていません。
 一方通行路をバック運転で逆走し、後方の確認を怠って人身事故を起こした事案であり、しかも故意にぶつかったのではないかと疑われる事案なのに、タクシー運転手の立ち会いだけで、一方的な言い分だけの実況見分で調書を作ったことは、あまりに不自然です。
 人身事故なので、車に当てられた被害者が立ち会うのは当然だし、被害者の立ち会いで見分して調書を作るのが当たり前のことだと思います。交通事故捜査の基本を怠っています。1回目と2回目の実況見分はどこが違うのか、2回目が補充の見分だとしたら、どこが足りなかったのかのきちんとした説明をしてもらいたいと思っています。
 補充の見分なら第二当事者を立ち会わせて、言い分を聞くのが当たり前の捜査です。捜査の常道を踏まず、とてもおかしな捜査だと思っています。(第二当事者の)被害者がいるのに、加害者(第一当事者の運転手)だけの立ち会いで実況見分をするなんて、見込み捜査をしているとしか思えません。
 初診で当直医の診断書は全治7日間でした。2、3日してから首回りが腫れて、肩や腰にひどい痛みが出て、頭が重くなりました。当直医から「専門の整形外科で診てもらってください」との勧めもあって、2月15日に自宅近くの整形外科病院に行きました。運転手側は整形外科病院に行った日を「事故発生から14日後」としました。
 どこにこうした診療記録があるのか証拠を明示しないのは、いいがかりもいいところです。運転手側は慰謝料をいっぱい取ろうとして、3週間の診断書を出したとしています。とんでも、ありません。当たり屋なら、救急搬送され当直医に診てもらった最初の時点で、あっちが痛い、こっちが痛いと大騒ぎしているはずです。「たいしたことはない」などと言ったのは、私が当たり屋でないことの証左です。通常よく言われる通り、事故直後はあまり痛みを感じず、後から痛みが出てきたというのが実情です。
 運転手は事故の後、すぐ救急搬送病院の診断書を自宅まで取りにきました。「子どもたち家族がいる身で、人身事故で行政処分をくらったら食っていけない。何とか穏便にお願いします。1週間程度のけがなら行政処分は受けないので」と何度も頭を下げられました。車にぶつかって死ぬかもしれないのに故意にぶつかることは絶対にしません。「当たり屋」なんて不名誉なことは絶対にしません。公正で十分な証拠調べをお願いするだけです。社会的な正義があるということをお示し願いたいと思っています。

不誠実な高裁対応

 民事判決と密接に絡んで、民事訴訟でも新たな証拠があった場合、この新証拠に基づいて審理をやり直すことが判例としてある。しかし、東京高裁民事第10部はAが提出した新しい証拠を採用しないで審理を進めた。
 2019(令和元)年11月12日、 このわずか1回だけの口頭弁論で終結された。弁論とはいえ、人定尋問程度の簡潔なものだった。裁判長は薄ら笑いして、「お医者さんはウソつかない」とAに言い切った。Aは「酒を一滴も飲めないのに、医者がウソを書いた、とんでもないことだ。医者とか裁判官はまったく信用できない」と憤った。
 2020(令和2)年1月16日 高裁は控訴棄却の判決を言い渡した。東京高裁での審理は新証拠を全く顧みず、Aの主張を一蹴し、タクシー運転手側の主張を大きく受け入れた。
 この対応は控訴審裁判に大きな汚点を残し、今後のこうした訴訟に与える影響は大きいと判断し、Aは上告を決めた。 
 2020(令和2)年2月3日 Aは東京高裁での「控訴棄却」判決を不服として、新たに知り合いの弁護士に頼んで上告。上告手続きは期限が迫っていたため、Aは自ら足を運んで高裁に届け出た。
 上告審は却下とか不受理の結論を出す場合、通常、提訴から半年ぐらいかかるが、コロナ感染症の流行の影響もあってか半年経っても結論は出なかった。同年11月2日になってから、やっと最高裁から上告不受理の決定を行った旨の書類が担当弁護士に送付されてきた。
 担当弁護士は2020年10月、 最高裁に不受理の理由を尋ねたところ、「最高裁で扱う問題ではない」と言われたという。ニセの証拠を採用した一審判決なのに、どうして「最高裁で扱う問題ではない」のか理解に苦しむ。明白に法律違反なのに判断をしないことにしたという思考停止に陥ったのか。
 最高裁は国の防衛など政治的な対立がある裁判などについて、ときたま思考停止に陥る時がある。証拠にならない証拠を採用した一審の裁判官をかばうあまりの思考停止ではないのか。
 東京高裁及び最高裁の対応はこういうことだと推察した。「一審判決は五分五分の引き分けで、Aがこの判決で不利益を被ることはない。引き分けで十分ではないか、どこに文句があるのか。ちまちましたことを言うな。控訴や上告をして一審以上の判決を引き出そうとする利益はどこにあるのか。なのに、なぜ控訴、上告をしたのか」という傲慢(ごうまん)な対応だと思った。あまりに庶民をバカにしたやり方ではないか。
 Aは「一審が採用した証拠は偽造された証拠。だから、タクシー運転手が罰金刑を受け、きちんとした現場検証及び実況見分調書、現場見取り図の新しい証拠で判断してください」と主張。これが控訴、上告の理由だった。東京高裁も最高裁もAが申し立てた心情を理解せず、「生意気なことを言うな。一審判決に従え」という「お上目線」の対応だと思った。司法の思考停止といっていい出来事だった。
 Aは訴訟で厄介になる弁護士に支払う報酬の費用がなかった。控訴審は法律扶助の「法テラス」を利用して弁護士費用を工面。月賦で費用弁償することになった。上告審で依頼した弁護士はかねてからの知り合いだった。上告ではねつけられて一審に再審請求をしようと考えた。

結局、泣き寝入り

 しかし、再審が事故発生から5年以内という「時間的な制約があり、翌2021(令和3)年3月13日で5年以内という期限切れに迎える状況の中、新たに再審請求を依頼する弁護人が見つからなかったことと、再び「法テラス」の世話になって裁判費用の工面しても弁償の費用が新たな負担になること、再審の門戸が限りなく狭いことから再審請求を断念した。
 高裁、最高裁はあまりに悪い判例を残してしまった。同じような事例の裁判に大きく影響する。法の精神に背く悪質な判例だ。法の精神、法哲学はそっちのけで、法律の技術的な解釈を重視する現行制度の司法試験の大きな弊害が、こうした裁判官がいる原因かと思った。
 弱い立場の人間が、泣き寝入りである。その後、事故処理を担当した巡査部長らが何らかの処分を受けたかどうか、県警からの報告はない。また、タクシー運転手、タクシー会社からも謝罪は全くない。(一照)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?