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『エチカ』 〜 感情を感情のままに

前回までのお話はコチラです。
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(1) シャークの森 (2) FLY!FLY!FLY! (3) 空間と体は切り離されてはいない
 (4) 運命 (5) 涙の種 (6) きずな (7) 体は何も忘れてない

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マザームーンの言葉の意味を追い、思考が熱く動きはじめたその時、強い雷鳴を聞いた。

いや、聞いたというのでは当たらない。同時だったんだ。
あの時、ぼくが何に気づいたのか、とても重要なことだがその話しは後回しにしよう。 ただ、これだけは先に話しておきたい。ここで言う同時とは、意味ある同時生起、いわゆるシンクロ二シティを指しているのではない。意味がついた時点でそれは認識の世界のことであり、ここで指す同時とは、言語以前の世界の現出だからである。


巨大藻の根に落ちてしまった鮫を助けたい。できるかできないかは分からない。
それでもそうしたい一心でぼくは潜った。

水深が深くなるにつれ繰り言のように沈んだトーンが肌に振動してきた。お経のようにも聞こえるがそんな澄んだ響きではない。水が油のようにもったりとする感覚があった。きっとおしゃべり鮫がもがいているのだろう。ぼくはその振動の強弱を頼りに、鮫の居場所を突き止めることができた。

そこには、チューブワームのようにぐねぐねとした触手に捕まっている鮫の姿が
あった。脱出しようと必死に体をくねられているが、もがけばもがくほど絡み取られていく。しかし驚いたのは、声を発するほどの意識が鮫にあったということだ。ぼくは救出の方法も分からないまま、遠くから鮫に話しかけてみた。


「おーーーーいっ! ぼくですよ! エチカですよ!」

「…へ? エチカくん? どうしてきみがここへ…」

「助けにきた。でも助け方がわからないよ。こんなときにレディマンタが居てくれたらよかったんだけど…」

「…レディマンタ? なんだいそれ…」


おしゃべり鮫は、息を切らしながらもぼくと話しをつづけてくれた。


「あなたが南の島から追い出されて森海に流れ着いたとき、思考屑の林から助けてくれたマンタのことですよ。」

「ん?…」

「えっ!? 忘れちゃったんですか? あなたの命の恩人(恩魚?)ですよ。」

「は~~~っわかったよ、きみそれ、アカエイのことを言ってるんだね。」

「アカエイ?」

「そうさ、わたしを救ってくれたのは間違いなくアカエイさ、忘れるはずなんてない。わたしが空を飛べたのも、こうやってなんとか生きてるのも、思考屑の毒の流し方をおしえてくれたアカエイのお蔭なんだよ。」

「それは分かった、分かったよ。じゃぁどうしてレディマンタなんて名のったんだ…

「それはきっと…。アカエイはマンタに憧れてるからさ。フライに人気だったから…。マンタは宙を飛ぶ海のアイドル、それに比べアカエイは尻尾に毒棘があり嫌われる。アカエイだって悪気があってチクリするわけじゃないのさ…。わたしと同じで足とチクリは同時、ただそれだけなのに…」

「そっか。アカエイは憧れが行き過ぎて、じぶんを見失っちゃったんだね。」

「悪いコじゃないんだよ。勉強熱心で歌が上手で分かち合うことをやめないとってもいいやつさ。でもすこし、じぶんを大きく見せたがるクセがあるんだよ。ほら、マンタって、デカイでしょ?」

「ハハ。それちょっとズレてない? アカエイって、なんだかにくめないやつだね。人間っぽいよ。 でももう一つ嘘をついていたよ。あなたが泳げる鮫だって。」

「そうなのかい?」

ぼくは後を追ってダイヴしたんだ。 急にあなたが落下して、なんだか様子が変だったし。そしたら、ぼくも思考屑の林に引っ掛かっちゃってね、それでレディマンタ、いやアカエイに助けられた。気づいたらあなたと同じようにアカエイの背に乗っていた。

「どうしてエチカくん、わたしが助けられたことを知ってるんだい? っと、アカエイってやめないかい? レディマンタって呼んだって、アカエイはアカエイさ。あのコが呼ばれたいように呼んであげようよ。」

「そうだね。うん!そうそう、映像を見たんだ。マザームーンの声を聞いてね。

「きみもマザームーンの声を?」

「そう。実はレディマンタをひどく怒らせちゃったんだ。 それで尻尾の警策をくらったときに毒針が刺さって意識を失っちゃったんだよ。 でもそのお蔭でマザームーンと会えた。」

「へ? エチカくんも警策をくらったのかい?!」

「え?! ひょっとして!?…」


思わぬことで笑いが起こり気持ちが和んだ。おしゃべり鮫はその間、チューブワームのような触手に体を囚われたまま無抵抗な状態で揺れていた。ぼくは少しずつ巨大藻の根に近づいていった。何より希望が持てたのは、おしゃべり鮫の声のトーンが変化したことだった。海水を伝ってきたあのもったりとした振動ではなく、心なしか芯が通った力のある響きに変わってきていた。


「でもレディマンタはね、警策のつもりなんてさらさらないんだよ。ボディの反応さ。平気なふりはしてるけど、レディマンタも涙の種の作用と闘ってるんだよ。思考屑の毒は、流しても流してもまわってくるから。」

「そっか。ぼくの記憶にあった坐禅体験が、警策と尻尾を勝手に結びつけてしまったんだね。

「それにね、エチカくん、ごめんよ。きみが怒らせたんじゃなくて、レディマンタが苛立ってたのはわたしのせいなのさ…」

「あなたの? ん? どうして、、、あなたとレディマンタは涙の種を飲んでしまったもの同士、心を分かち合ってたじゃないですか。」


「そうさ。レディマンタはわたしの心情をくみとってくれた。静かにじっと話しを聞いて、そして励ましつづけてくれた。わたしがあのサメ使いに涙の種を返したいと強く望むと、フライのいる所へたびたび連れて行ってもくれたのさ。
レディマンタは、よくよくマンタを観察して、飛び方を習得していったよ。そしてわたしにも飛び方を教えてくれたのさ。フライと仲良くなるにはそれが一番だって。それなのに、それなのに、わたしは先に高く飛んでしまって、すっかり有頂天になっているうちにどんどん飛んでいって森に行き着いた。
そしたらなんと、あの森にはフライたちがたっくさん来てたのさ。… 忘れてなどなかった。でも、そのうちに、あるひらめきが起こった。わたしがこの森で飛べるフライを見つけて森海へ戻れば、レディマンタも助けられるんじゃないかって…。
でもなかなかそうはいかなかったのさ。だけどようやく、エチカくん、きみに出会えたのさ。」

「レディマンタは、あなたがじぶんのことを忘れてどこかへ行ってしまったと誤解してるんだね。良かれと思ってやったことが相手を傷つけてしまう。ぼくらの世界でもよくあることだ…」

「誤解されたって当然さ、レディマンタは何も悪くない。それにわたしは、きみと出会って一緒に空を飛んだとき、ほんの束の間にしてもあのサメ使いのことを忘れてしまったのさ。このままきみと飛んでいられたら楽しいだろうなって…。 
涙の種を返してあげなきゃ、サメ使いはずっと苦しむことになるというのに…」

「なんだか複雑な心境だよ…。 ぼくも嬉しかったんだ、あなたと飛べて。だけれど、マザームーンの見せてくれた映像で事の次第を知って責任を感じちゃったよ。あなたの迷いがぼくせいで起こったんじゃないかって…」


「それは違うよ、エチカくん。急にわたしの思考が動き出したんだ。きみが、同時の後味を追って解釈しはじめたとき、わたしは思い出した。きみを連れてレディマンタのところへ戻ること。そして飲んでしまった涙の種を人の心へ戻すこと。すると一瞬のうちに焦りが起こった。きみが解釈の旋律に乗って、同時の流れから逸脱してしまわないうちに、レディマンタのところへ連れて帰えらなきゃって。エチカくんのせいでは決してない!思考と思考が同調して増幅してしまったのさ。そしたらあっという間に落下した。」

「思考と思考が同調?」

「そうさ、円か国のものは本来、きみたち人間の思考エネルギーには同調しない。同調するのは、同じ意識の働きを持つ、分つ国のもの同士だけだとレディマンタが言っていたよ。でも、わたしもレディマンタも涙の種を飲んでしまった。思考の作用に慣れてない円とか国のものは、人間よりも急速に同調作用に絡み取られるのさ。」


そうなのか、それがマザームーンの言っていた(いやぼくがそう解釈した)涙の種のアレルギー反応の恐ろしさというわけか。
人間は成長過程で様々なことを知っていく。そうやって少しずつ分別することを覚えていく。ある意味、この世のしきたりに慣れていくというわけだ。だが、ぼくらも元々は何も知らずに生まれてきたように、円か国の生を歌うものは思考を持たない。それが急速に働きはじめるとなると、気が狂いそうになるだろう。まるで対応していないOSに、新種のアプリが一斉にインストールされるようなものじゃないか。機械ならまだしも、そこに感情が働くのだからたまったものじゃない。


「でも、悪いことばかりでもないのさ。きみの思考エネルギーに波長を合わせると、知識や経験の断片が読み取れる。人間ってこの世界の様々なことを知れるんだなって、好奇心をくすぐられたよ。」


「そう言ってもらえると、少し救われた気持ちになるよ。それに、あなたやレディマンタの出すキーワードが、どうしてぼくの経験とリンクするんだろうって、不思議に思っていたんだ。だけど、ぼくら人間が落としてしまった涙の種が、森海でそんなことになっていたなんて…」


「エチカくん、人間って複雑だね。涙の種を飲んでだんだんわかってきたよ、分つ国の大変さが。いちど思考が解釈を始めると、もうそれが唯一本当のことのように思えてきてしまうよ。どんどん解釈がふくらみ、感じたこともない感情の激痛に襲われる…」


「そうだね…。きっとあなたたちはぼくら以上に慣れていなくて辛いだろうな…。だからこそ、感情や思考のエネルギーの強さがどれほどのものなのか、それがぼくらの活動をどれだけ縛っているのかも感じられてきたよ。でもマザームーンは、それ自体がすごい可能性だとも言っていた。人間の持つ困難でもあり、とてつもない可能性だと。」


「エチカくん。レディマンタはきっと、きみにその可能性をひらく鍵をわたそうとしていたんだと思う。 さっき、レディマンタから思考屑の毒の流し方をおそわったって言ったでしょ?」 


「うん。その毒の流し方とマザームーンの言うとてつもない可能性をひらく鍵って、何か関係しているの?」


「はっきりは分からないけれど、何か関係しているのは確かさ。わたしがこの巨大藻の根に落ちてから何をやっていたと思う? レディマンタの発見した、その毒の抜き方をずっとやっていたのさ。うまくいったりいかなかったりしながら。するとね、エチカくん。ふっと楽になることがあるんだよ。感情を感情のままに、このボディがね、すぅーーーーと消化していく感覚を想い出せることがあるのさ。そのときだけ、ふわっとこの巨大藻から泳いで抜け出せるような気がしてくるのさ。」


「感情を感情のままに…。マザームーンもそう言っていた。そうだ、レディマンタは、誰よりもマザームーンの声を聞き続けてきたんだよね?」

「そうだよ。だからきっと、きみが飛べる人間であると同時に、思考屑の毒の抜き方を探している人間だということに気づいたのさ。」

「ぼくが?」

::::::
 つづく

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