クロノマギア表紙

クロノマギア SS 『私たち』

これは、レオナさんのクロノマギア アンソロジー同人誌に載せていただいたクロノマギアのSS(短編小説)です。

短いので、読了までそこまで時間はかからないと思います。拙作ですが読んでいただければ幸いです。


『私たち』


この少女は一体何者なのか。

ゼータは、不安げに自分に身を寄せてくる少女を庇いながら考えを巡らせていた。この少女から漏れ出すマギアにはただならぬものがあり、滾るような力が今にも自分のマギアとぶつかり浸食しようとしているようにも感じる。だが一方、自分の腕にすっぽりとおさまった少女の体はとてもか弱く迷子になった猫のように震えていて、そのアンバランスさが彼を一層困惑させるのだった。
「遠くには逃げてねえぞ!探せ!」
外で彼女を探す声が納屋の扉を通してくぐもって響くたびに、華奢な少女の肩がびくりと小さく跳ねる。少女の顔がゼータの胸に強く押しつけられる。
「しばらくここを動かない方がいい。奴らもそんなにしつこく追ってきたりしないだろ。」
なんとか安心させなければと思い、ゼータは少女を宥めるように小さな声で囁きかけた。幸運なことに、ゼータの予想通り、一時間もすると男たちの足音は遠ざかり静かになった。身を隠している納屋は狭く埃っぽいが、扉はしっかりと立て付けられていて声は外に通りにくい。少女の体から緊張が取れてきたことを感じ取ったゼータは、ゆっくりと小さな声で問いかけた。
「お前、名前は?」
「・・・エレナ」
少女はしばらくして自分の名前を名乗った後、それをきっかけにするように身を起こしてゼータを見つめた。赤く腫らした目をぐしぐし擦って彼を見つめる。
「取り乱しましたわ・・。まずは、助けてくれてありがとう。」
率直にお礼を言われ、ゼータは肩をすくめる。
「まだ外には待ち伏せてる奴がいるかもしれねえから、しばらくここにいるぞ。つか、なんでまたこんな場所に女一人で歩いてんだ。俺がマギアの“匂い”を頼りにお前を助けなかったら、男どもに襲われて一巻の終わりだっただろうが。」
返す言葉もないエレナは気まずそうに目を伏せたが、やがてポツポツと、納屋に舞う埃に時折小さな咳をしながら、自分がこの危険な街に足を踏み入れた理由を語り始めた。

怒りと焦りのあまり、視野が狭まってしまっていたのだ。
自分たちの街、両親、そしてソーニャを殺した張本人であるマリウスを、あの洞窟で追い詰めたのにも関わらずまんまと取り逃してしまったエレナは、なんとしても彼より先に時の神殿に辿り着き、そして再び打ち勝たなければならなかった。そのためいつしか、さらなる力を得るため見境なく能力者を探し出しては戦いを挑むようになっていたのだ。彼女のマギアは、その胸に宿した思いからか、はたまた彼への身を燃やすような憤りからか、規格外の力を発揮した。無我夢中のうちに勝利に勝利を重ねていたエレナは、しかしそれゆえに、“実際の街の危険”についてほとんど盲目になってしまっていたのだ。
「強力な能力者の“匂い”を強く感じるから。」その理由だけで深く考えず踏みこんだこのエリアは、日中ですら周囲の住民も立ち寄らないならずものが集まった危険な場所だった。現実世界ではないとはいえ、ここには人が営む社会があり、人間社会があれば相応の危険も存在する。そんな所に少女が一人で踏み込むこと自体愚かだったのだ。スキルギアの力は能力者同士の戦いでは使えても、群れて襲ってくるならずものたちを撃退する手段にはなり得ない。気づいた時にはすでに遅く、エレナは男たちに襲われかけていた。捕まれば何をされるか分からない。だが、そんな時に間一髪でエレナを助けたのがゼータだった。
「でも、そもそもその強力な能力者というのがあなただったのね。あなたがこんなに危険な場所に居なければ私も足を踏み入れなかったのだけれど……」
「おいおい、一旦落ち着いたら責任転嫁か?そりゃ困るぜ。情報ってのは危険な場所にこそ集まってるもんなんだよ。だが・・ふむ、この世界にも、そんな危険なヤツが紛れ込んでいたのか。そしてお前はそのクソ悪魔に……故郷ごと消されちまったってのか。」
「そうよ。だから私は、時を戻り、街を救わなければいけないの。」
エレナはそう言い切って、ゼータをしっかりと見つめ返した。その透き通った緑の瞳には決して譲ることのない強い意志が宿り、先ほどまで震えていたか弱い少女の面影はほとんど見られなかった。
ゼータは一つため息をついて、考え込んだ。
ゼータは研究者だ。確かに時の神殿の最奥に何があるのかには興味があるが、本来の目的は「時とは何か」という疑問に従ってそのメカニズムを解明することであり、時を支配してまでやりたいことがあるわけではない。だから、エレナがもしその願いをどうしても遂げたいのであれば、ここで邪魔をするのは気が引けた。ましてやマリウスは、複数の世界を渡りながら悲劇をもたらしているとんでもない悪魔だという。マリウスというイレギュラーのために地球の歴史が好きなようにねじ曲げられるのは、考古学者としても全く歓迎できないことだった。
そしてそこまで考えて、天才的な頭脳を持つ彼は、頭の中をもたげていた数々の歴史上の疑問が全てつながっていくのを感じた。
「ベリョーザの消失、ツングースカの爆発、・・村の集団怪死事件、・・の革命・・そうか・・そうだったのか・・!」
ゼータの声は驚きで震えていた。エレナが訝しそうにぶつぶつ一人で呟くゼータを見つめる。
歴史上には、数々の迷宮入り事件がある。そしてその事件は必ずと言っていいほど歴史の大きな転換点に関わっていた。だが、その事件の大きさに対して、どんな歴史書を読み漁っても記述がほとんどされていないことがある。時の解明を進める傍ら、そういった闇に葬られた怪事件の原因を究明しようとしていたゼータは、「マリウス」という悪魔の存在そのものが、それを説明する最後のピースになると気づいた。
「なるほど。わかったぞ。」
「な、何がですの・・?」
「マリウスはおそらく、俺たちが想像もできないほど長く生きながら、好きなようにあらゆる世界に悲劇をもたらしている悪の元凶なんだ。彼は歴史を思いのままにできると勘違いしている。だが・・」
「だが?」
ゼータは、いきなりエレナの両肩を掴み、まごつくエレナの顔を間近でじっと見つめて言葉を続けた。
「マリウスはとんでもないやつだ。だが、お前はそんなマリウスを追い、一度その洞窟まで追い詰めたんだろう?逃げられちまったんだとしても、それはすげえことだ。このクロノカルディアという世界は、もしかしたらお前のようなか弱い存在にこそ平等に力を与えたのかもしれないな。この世界でなら、マリウスを本当に倒せるかもしれない。」
「い、いきなりやる気になったのね・・。でも、つまりそれは、私に協力してくれると捉えて良いのかしら?」
戸惑いながら聞き返したエレナに、ゼータはニヤリと笑って答えた。
「ああ、そういうことだ。そんなやつにこれまで積み重ねられてきた地球の歴史をぶっ壊されてたまるかよ。お前と俺はタッグを組んでこれから時の神殿を目指す。なんとしてもマリウスが辿り着く前に先回りして、奴を待ち伏せて再び叩きのめそう。」
正直エレナには、さっきまでゼータが何を呟いていたのかがほとんど分からなかった。しかし、自分を庇ってくれた時のゼータの胸の暖かさと、その混じり気のない少年のような瞳に、信頼に足る何かがあると感じた。ほっとため息をつき、微笑む。
「“お前”じゃなくてエレナですわ。これからよろしくね、ゼータ。」

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「エレナも、あの村で最初に会った時はめちゃくちゃしおらしかったよなあ。今はすっかり可愛げがなくなっちまって……。」
ゼータはそう言いながら、隣に立つエレナの頭にポンと手を置く。それを振り払い、エレナは言い返した。
「私は貴族の娘ですのよ?貴族にとって一番大切なものは尊厳!“可愛げがなくなった”じゃなくて“大人びた”と言ってもらえるかしら?いつまでもその話を持ち出して......」
「あー、わーかったって……それよりほら、着いたぞ。」
「……そうね。」
二人の目の前には、見上げるほどもある巨大で荘厳な神殿が鎮座している。といっても、二人が時の神殿の境内に踏み入れたのはもうだいぶ前のことだ。時の神殿は、地上にあり一辺数キロにも及ぶ広大な下部神殿と、高い基壇の上に建てられ百段もの階段を登った先にある、時の心臓を守る番人が居るとされる祭壇を有した上部神殿に分かれる。二人はその上部神殿の麓まで辿り着いていた。
エレナは、額にかかった髪を払い、隣で空を見上げている相棒を横目で見ながら、これまでのことを思い返していた。
あの街で助けられてから随分と時が経った。その間に戦いを重ね、どんな敵も力を併せて屠ってきた。ゼータはアグレッシブな戦い方を好み、エレナはじっくりと機を見て勝ちに行くタイプのため、相性がとても良かった。そして何よりも、この相棒と出会ってからの自分の心の変化に驚いていた。ベリョーザの街をマリウスに消し飛ばされ、家族も友達も故郷も全てを失ってしまったエレナには、ずっと頼れる人がいなかった。ひとりぼっちになったエレナを保護してくれた人も、原因の分からない大事件の唯一の生き残りに対して腫れ物を扱うかのように接するだけだった。けれどゼータは違う。彼は、いつも少年のような裏表のなさでエレナに接してくれる。彼を突き動かしているのは、無邪気すぎる探究心と、そして地球という星への愛だった。ゼータは、長い時を経て美しく変化し続ける地球そのものを愛している。その温かい感情に、自分の凍てついた心が溶かされていくのだ。
たまに、失った故郷のことを思い出さない夜もあった。それだけ相棒との旅がエレナにとって大切なものとなったのだろう。まあ、こんな気恥ずかしいことは絶対に言ってやらないのだが。
だが、この旅も今ここで終わらせなければならない。
「決着をつける時ね……私たちの。」
「ああ。そうだな。」
二人とも、多くは語らなかった。少しの距離をとり、神殿へと続く階段の前で互いに向き直る。そして、カードを構えた。
なぜ二人が戦うのか。それは、この神殿に入ることができるのはただ一人の能力者だけだからだ。いつか二人の決着をつけなければいけないことは、お互いにずっと分かっていたことだった。能力者同士は、戦うことで自身のマギアの力を増しギアを完成させていく。それは本来孤独なプロセスだ。協力して戦うことは、本当はそれ自体が不自然なことだったのだ。
二人が戦うことで、勝者は時の神殿へと挑む権利を得る。そしてそれが、二人のタッグ解消の合図でもあった。
「約束ね。どちらが勝っても……」
「ああ。マリウスを倒す。おそらく、祭壇に着けばあいつとの最終決戦が待っているだろうからな。」
自分のことではないのに、本当に真剣な目で約束してくれる相棒がふと少しおかしくなってエレナはクスッと笑った。
そして、戦闘開始の合図を告げた。

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「ああ・・・本当にとんでもない奴だな、お前は。」
ゼータは、堅い石の地面に体を投げ出しながらそう呟き、気怠げに笑った。マギアの力を使い切った反動で、しばらく動けそうにない。
自分を打ち倒した相棒は、ゼータを見下ろし、ツインテールを揺らしながら得意げに笑った。陽が差し込んでいるからか、ひどくその姿が眩しく感じられるのだった。
なぜ負けたのだろう。そう自分に問いかけてから、愚問であることに気づいた。マギアの力の強さは使用者の思いに比例する。エレナの家族と街に対する愛が、自分の燃えるような探究心を打ち負かしたのだ。考古学者である自分は、結局傍観者でしかなかったのだろう。真に歴史を動かし未来を作っていくのは愛と信念を持つものだけだ。
時の神殿へ登る権利を得たのはエレナだった。
「マリウスがいつ辿り着くかも分からねえ。もう行け。」
「あら、長く一緒に闘ってきた割にはずいぶん素っ気ないのね。」
エレナがいたずらっぽく笑った。
「お前にコテンパンにされて疲れてるんだよ。気を付けてな。」
ゼータはそう言ってもう一度目を閉じた。体が怠くて少し眠りたい気分だった。
薄れゆく意識の中で、ありがとう、という声が聞こえた気がした。

俺らは、最強のタッグだったな。

ゼータはそう心の中で呟いて満足げに笑い、意識を手放した。

最後に見えたのは、風にはためく彼女のフリルだった。

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「たった一回、時を戻るだけ・・?」
「そうじゃ。時の心臓に与えられた力は、たった一回時を戻す力のみじゃ。確かにおぬしはここでマリウスを倒した。“今”からマリウスが現実の世界に危害を及ぼすことはないじゃろう。ただし、過去に戻れば、その時代にマリウスはまだ存在する。おぬしが過去に戻っただけでは、現実世界でおぬしの街を守る術は無いのじゃ。ベリョーザの消失は防げない。」
デュランダルフが発する言葉は、神殿の祭壇に冷たく反響した。感情はほとんど籠もっていないが、だからこそ、その声音はそれが揺るがぬ事実であることを否応なく伝えていた。自分が立っている大理石の床が突然底なしの沼になってしまったかのような感覚を覚えて、エレナは膝からくずおれた。絶望と無力感が彼女の体を冷たく包み込む。
「で、でも、私は時の番人であるあなたを倒し、マリウスまでも倒したのよ・・?」
「そうじゃ、おぬしは“この世界”では最も強い存在じゃ。もう誰にも負けることはないじゃろう。しかし、『ベリョーザの消失を起こす以前のマリウス』を倒さなければ、時を戻っても同じ悲劇は起こるんじゃ。」
「そんな・・」
言葉を失うエレナを見つめるデュランダルフ。自分が今ここで倒し、断末魔の声を上げながら闇に飲まれて行ったマリウスが、時を戻った先でまだ存在するということが飲み込めないのだろう。そのくらい、時を戻すというのは人智を超えた領域にある行為だ。
仕方のないことだ。時とは残酷なものだ。時の番人としての理性がそう言い切り、彼の感情に蓋をする。しかし、デュランダルフは、長年封じ込めていた正義感にも似た熱い何かがそれを突き破ってこみ上げてくるような気がした。目の前で茫然とするこの少女は全てをかけてこの世界に挑み、そして時を遡る権利を手にしたのだ。その結末がこれではあまりにもいたたまれない。

本当に、目の前の少女を救う手段は無いのか?

長きにわたり傍観者として時の流れを見守ってきた彼の頭脳が、敗北し時の番人という荷を下ろしたからか、再び若き頃のように回転し始める。
エレナは、ぼんやりする頭の中で、かつての相棒、ゼータのことをぼんやりと考えていた。彼はその聡明な頭脳と底しれぬ度胸、そして熱いハートを持って、どんな窮地でも逆転の案を考えて見せた。そう、ここにゼータが居れば……。
しばし、重い沈黙が神殿の中を支配した。エレナがマリウスを倒した今、沈黙を破るものはもういない。だがしばらくして、デュランダルフがぶつぶつと小さく何事かを呟き始め、神殿を重く支配する沈黙をさざなみのように揺らし始めた。
「しかし、むう・・その選択は・・なるほど・・その手があるかもしれん・・だが・・」
デュランダルフはしばらく考え込んでいたが、覚悟を決めたように、座り込むエレナのもとへゆっくりと近づいた。そして、エレナの肩に手を置き、戸惑う暗い瞳に向かって語りかけた。
「一つだけ、街を救える方法があるかもしれん。」
「……本当ですの?つまらない慰めではなくて?」
「違う。わしはさっきお主のことを“この世界では最も強い”と言ったじゃろう?それならば、“ベリョーザの消失を起こす以前のマリウスをこの世界に呼び出し、そしてこの世界で再び葬れば”街の消失を防ぐことができるかもしれないぞ。」
だがエレナは、デュランダルフの提案を聞いても小さく首を傾げ、力なく答えるだけだった。
「そんなこと不可能よ。だってそれには、私たちの街が消える前に、マリウスがこの世界のことを知って入り込んでこなければならないじゃない。私一人で過去に戻っても、どうしたらいいのか見当もつかないわよ……。」
「そうじゃな……だが、それを可能にするピースが一つだけあるんじゃ。」
そう言ってデュランダルフは、自らの計画をゆっくりと話し始めた。
天才が考えた大逆転計画を。

♤♧♡♢♤♧♡♢♤♧♡♢

ロシアの極地に、冷たい雨が降る。
一人の少女が、城の一角のベッドに腰掛けていた。年端のいかぬ少女に見えるが、憂いを帯びたその表情はとても年相応とは思えない。
その日の雨は一段と激しかった。だから、その男が城に侵入し窓際に姿を現した時、それに気づいたのは、少女―エレナだけだった。
あの日、時の神殿でデュランダルフはこう言った。
“最後のピースは、過去のワシじゃ”と。
ベリョーザの街の消失を防ぐためには、それ以前のマリウスを再びこの世界に呼び出し、そこで葬るしかない。そのためには、過去へと飛び、現実世界で暗躍し、ベリョーザの消失をマリウスが起こす前に彼をそそのかしてクロノカルディアに向かわせ、自分も再びその世界に飛んで決着をつける必要がある。
実際に、マリウスは洞窟でエレナと戦った時、「部下からこの世界の情報を聞いた」と言っていた。世界中にスパイを張り巡らしているのだろう。そのスパイに意図的に情報を流せば、マリウスをコントロールするのも不可能ではない。
しかし、その仕事はエレナだけでは役不足、暗躍するパートナーが必要だ。
デュランダルフは、そのパートナーを「過去のワシにしろ」、と言った。
“未来から戻ってきた”という突飛な話を信じ、また世の中の情報の流れを掴む頭脳と行動力を持ち、そして“時”というものの解明に情熱を傾ける人物となれば、そんな変態的なヤツは一人しかいないのだ。
デュランダルフの過去の姿にして、天才考古学者。

「ゼータ、久しぶりね」
エレナはそう言って、窓際に腰掛ける影に笑いかけた。
「今の俺にとっては“はじめまして”なんだけどな……。お前からのメッセージ、しかと受け取ったぜ。未来の俺が世話になったようだな。」
ゼータはそう言って笑い、エレナのもとへ近寄った。

時の心臓を使い、自分が生まれた日まで時を戻したエレナは、自分が育ってきた半生を使いながら秘密裏に若き頃のゼータと連絡を取り合い、計画を進めてきたのだ。
時が熟した今、二人は“三たび”出会った。
ベリョーザの消失までタイムリミットはあと数年。それまでに二人で協力し、マリウスの耳に情報を入れなんとしてもクロノカルディアに飛ばし、決着をつける必要がある。
だがそれは、この二人の力をもってすれば不可能ではないだろう。
なぜなら、二人は最強のタッグなのだから。

「そういえば、おじいちゃんになったあなたが“過去のワシに送れば必ず分かるはずだ”って伝えてくれた合言葉、あれあなたが子供の時から考えてた決め台詞なの?」
「ああ……まあ、そうだな。」
ゼータは少しバツが悪そうに笑う。ずっと思っていたけど、厨二っぽいわよね。と言ってエレナはゼータをからかった。


合言葉。

“時は、俺の手の中にあり”

今は、私たちの手の中にある。