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【キャンプ飯は今】東海林さだお風エッセイ

【キャンプ飯は今】

猫も杓子もキャンプ、キャンプと空前のキャンプブームである。

近くのホームセンターはキャンプ用品が満載で、以前そこには塗料が山積みじゃなかったのかと感慨深く見る。

キャンプの楽しみと言えば、焚き火にキャンプ飯だ。
焚き火もしないコンビニ弁当のキャンプなんて有り得ない時代だ。

さあ、キャンプで何を食うか。

じゃあ、BBQでしょってか。
あのね〜それじゃ安直過ぎて女子受けせんでしょ。

じゃあ、ピザってか。
あのね〜、今電話一本でドローンが配達してくれる時代にそれは無いでしょ。

じゃあ、マシュマロ焼きってか。
あのね〜そんなんで喜ぶ女子と一夜を共に過ごせるってか。

じゃあ、何を作れば女子に受けるのかって。
急いては事を仕損じる。
漢はじっくりと構えて策を練るのだ。

キャンプ飯は漢のセンスが問われる。
仕事が出来なくても美味いキャンプ飯さえ作れたら生きて行けるのだ。

しかしこういうアホがいる。

「僕ね今日キャビア持ってきたんだ」
って言って、女子が
「わ〜。私キャビア大好きなの。キャンプ飯はやっぱりキャビアよね〜」
って...あほんだら。

「僕ね今日フォアグラ持ってきたんだ」
「わ〜。キャンプ飯はやっぱりフォアグラとワインよね」
って...おめ〜さんバックドロップしちゃろか。

「僕ね今日松茸持ってきたんだ」
「わ〜キャンプ飯はやっぱり松茸ご飯よね〜」
って...贅沢すりゃ良いってもんじゃ無いだろ。

そこで、お勧めのキャンプ飯は何か。

ズバリ。

焼きおにぎりです。

えっ?
何か不満でも。
そんな単純な料理の何処が良いのかって。
まあ、そう思うのが素人です。
焼きおにぎりと言えど奥が深い。

そもそもこのおにぎり様の米を買うのに片道二時間かけて農家さんに直接取りに行ったらどうだろう。農家さんが無農薬で天日干しした激レアのお米を準備する。
タレを作るのに高級本枯節を自分で削り、醤油やお酒も一級品を使う。
水は富士山の天然水を用意する。
そうして炊いたお米をおにぎりにする。
炭火でじっくりと時間をかけ自家製タレを刷毛で塗りながら焼き上がるのを待つ。
醤油の焼ける匂いが食欲をそそる。
そうして出来た焼きおにぎり。

それを彼女に食べて貰おう。
「絶品!」
と言うに違いない。

侮るなかれ、美味しい焼きおにぎりはそこら辺の安直なキャンプ飯をしりめに堂々のランキング一位になるだろう。

何を隠そう、私は二十年前のキャンプ飯の焼きおにぎりが未だに忘れられない。
そのキャンプ飯は友人家族二組を含めた結構な大所帯のキャンプであった。

私は鳥の丸焼きを作って子供達に大ウケだった。

友人家族の一人のお母さんがひっそりと焼きおにぎりを作ってくれた。
自家製タレを持参し何度も焼きおにぎりに塗ってはひっくり返し塗ってはひっくり返しをしてじっくり丁寧な仕事ぶりだった。

その焼きおにぎりを食べた時の感動といったらない。

日本人の魂を揺さぶる感動があった。

あの焼きおにぎりを私は未だに忘れる事が出来ず自分で色々と試行錯誤するのだがなかなかあの味に追い付けないでいる。

おしまい

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