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リアルを侵食するワイヤード

※この記事は Charlotte Fang「Reality after the Wired」 を翻訳し、訳注を加えたものです。

コンシリエンサス*1。複数の独立した情報源の収束に基づく、証拠に対するバーチャルかつ社会的な合意基準。個人レベルでのコンシリエンスはディープフェイクによって過去のものとなった。

――ザイゴート用語集(2016年)

容易にアクセス可能なディープフェイクツール [3] の登場により、ポストメディア・トゥルースの勃興 [2] と連動してワイヤードはリアルを侵食するようになる [1] 。信念は、陰謀論的様式のコンシリエンス [4] で検証されたネットワーク・コンセンサス――-コンシリエンス・リアリティ[5]――を通じて形成されなければならない。

[1] Serial Experiments: Lainで描かれた(預言された / ハイパースティショナライズドされた)現象で、デジタルな現実が本来の現実よりも優位に立つことで、バーチャルな出来事が現実の出来事を発現させるようになる、というもの。[5] を参照のこと。

[2] メディアによる記録(文章、写真、動画)は、歴史考証の手段として長きに渡って信頼されてきたが、容易に記録を偽造できる時代に突入しつつある今、歴史への信頼性が揺らぎつつある。オーウェルが「1984年」の中で国家による大衆コントロールという観点からこの点を探求したことは有名だが、我々が今目撃しているそれは、テクノロジーの進歩がもたらす分散的な症状という形で立ち現れている。

[3] 初期に公開されたGANプラットフォームは、ML/AIが非常にもっともらしいメディアを効率的かつ確実に生成できるということを実証した。ディープフェイクは、もっともらしさの「メディア・チューリング・テスト」をパスしていると言える。

[4] コンシリエンスとは、複数の証拠の一致によって信頼できる真実を発見しようとするアプローチである。個々のデータポイントが正しいことを単独では検証できない場合に有用であり、同一の結論を支持するポイントの数が多いほど個々のデータポイントの信頼性を高めることができる。「証拠は隠蔽されている」という原則に立脚した陰謀論研究では、まさにこのような推論様式が用いられている。例えるなら、「煙」のポイントを大量に見つけ出していき、火ではないという可能性より火であるという可能性が高くなるまでそれを続けることによって「火」を証明するようなものである。ただし、この推論様式は決して確実さを担保するものではなく、せいぜい「可能性が高い」とまでしか言えないということに注意しなければならない。

[5] 信念は現実であり、個人が知覚する「現実」とは、社会的に合意された知覚を個人的に知覚したものに他ならない。一方で個人によって信じられているものは、その個人を通して個人的な現実として表現され、社会的合意に影響を及ぼす――ある事物に対する集合的な信念は、それを実質的に現実化させる。

[6] テクノロジーは目的論を持つ。その進歩は自然法則に従い、一つ一つの進歩がもたらす新たな結果は必然であり、急速に拡散・分散する。このとどまることを知らない行進に対抗する唯一のアンチテーゼは、人間の意識そのものの破壊である。詳しくは他日を期したい。

----訳注----

*1 コンシリエンサス - コンセンサス(合意)とコンシリエンスの合成語。
コンシリエンスとは、無関係の独立した情報源から得られた証拠の数々が単一の結論に収束する場合、その結論は信憑性が高いと言うことができる、という原則を指す。要するに、証拠の出処が偏っておらず、バラツキがあるほど信頼できる、ということ。
例えば、進化論は、遺伝学や分子生物学、古生物学、地質学など、多くの独立した研究分野からの証拠によって支持されている(多くの証拠が「進化論」という単一の結論に収束している)ことから、信憑性が高いと言える(進化論に対する反証は、これらの独立した証拠のほとんど、あるいはすべてが誤りであることを示す必要があるため、極めて難しい)。


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