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CLOSER ポップサロン 第3回 里咲りさ

里咲Zepp ビフォー&アフター(後編)

蓋を開けてみれば、おそらく誰にとっても予想以上の大盛況となった、里咲りさZepp DiverCity TOKYOワンマン。そしてまた誰にとっても予想外だったであろう「メジャーFA宣言」。「夢の中のようだった」と言いつつも、地に足をつけてこれからを語る1万字を、神楽坂凱旋フォトとともに送ります。「突然変異のロックンロール」里咲りさはどこへ向かうのか、注目の後編。

●インタビュー・テキスト/津田 真
●写真/Blanc Bleu Photo Service

◆大成功でした!

――Zeppビフォー&アフター、後編ですけども。
「うわーん!」
――前編は「号泣してるかも」という終わり方でしたが。
「《うわーん!(泣)》(笑)。嬉し泣きです!」
――まずは感想を。成功ですかね?
「はい、大成功でした!でも何か、夢みたいで、現実感がなくて。今も信じてないし、あんなに人がいた訳ないって思ってる(笑)」
――MCで「私が思ってたZeppと違う」と。(※もっとガラガラで、みんなドッヂボールしてるかと思ってた、というような発言があった)
「だって…1週間前くらいに集計とったら半分くらい売れてて…。本番前日は、ちょっとふわふわしてたんです、あんまりものごと認識できる状態じゃなくて、ぼーっとしたままイベント出てチケット売って。家帰って計算したんですよ。イープラス、手売り、って足したら、めっちゃ売れてたんですよ。《あれ?そんなはずない》と。よく作戦で、直前まで《売れてない売れてない》ってやりますよね。そういうのじゃなくて、本当にイープラスとかも売れてなくて、でも計算したら売れてるから《え、何かおかしい。私が計算間違ってるんだ》と思って、翌朝に制作の人に報告して。《何枚出てるんですけど、そんなはずないんで、200~300引いた数のつもりで準備します》って言ったら《いや里咲さん売れてるんだから、これ当日券出せませんよ》って」

――あ、そんなに?
「《2階開けますか?》って。1階しか借りてなかったんですけど。でも2階開けちゃうとリハと音響が変わっちゃうんですよ。それは嫌だから、急遽スタンディングエリアを作って《そこもいっぱいになったら横に立ち見出てもいいから、当日券出してください》って。でも予定してた当日券の枚数も超えちゃって。びっくりして。出るまで信じられなかった。制作の人から《いま何人入ってます》って言われても、嘘だろって。200人以上はもう聞くのやめようと思って《聞かないです》って言って。ドキュメンタリー入ってたんですけど《里咲さん、売れたじゃないですか》《いや、本当に来ないと思うので。信じられません。来ないと思う》って、ずーっと言ってて。出てったらみんないるから、《本当だったんだー!》って」
――騙す必要ないですけどね(笑)。
「でも誰が来たかまったく判らないから…知らない顔ばっかりだったし」
――前編で「チケットは前日に動くんだよ」と。
「本当だったねって、教えてくれたたまちゃん(姫乃たま)に言わなきゃ。絵恋ちゃんにも」

◆これが里咲りさです、というショウ

――ほぼ全編バンドでやりましたね。
「オケは“だってね。”だけかな。あとは弾き語りと。音楽は本当に真面目な気持ちでやってるから、Zeppで里咲がやるなら全部バンド、って思い込んでた。セトリ組む時も、他にやりたい曲の候補あったけど、バンドでリハやってみて、何回やってもうまくいかないやつは外したりして」
――選曲の基準はバンドありきで?
「Zeppでやりたい曲をリストにして。その中でバンドでできる曲…あからさまに絶対できないって曲もあるから。それでもどうしてもやりたい曲は候補に入れてリハやって《あ、ダメだ》《これイケる》とかやって、このセトリになりました。アルバム『サイン』を出したことによって曲の幅が広がったんですよね。だからセトリもすごい組みやすかった」
――『サイン』を聴いて“エンドロール”は本編の最後なんだろうなと。
「そうですね。それまで1回もライブでやらなかったから」
――Zeppを意識して作った?
「そこまではないけど、アルバム最後の曲…実際には最後から2曲目だけど、エンディングってつもりで。Zeppワンマン最後の曲だろうなとは思ってました。赤い照明でガーッて」
――語るポイントがたくさんあるライブで。真ん中にラジオのコーナーがあったり。
「他にほとんどMCなかったのは《音楽やりたい》っていうのをいちばんに伝えたかったからで、そこはふざけないで、ちゃんと流れのあるライブをやりたくて。でもまったく喋らないのも性に合わないので、私らしいMCの仕方っていうか。ラジオ風にっていうのはずっとやってきたことだし、前編でも話したけどラジオがやっぱり好きだから。里咲は今後こういうことをやりたいですよ、っていうのも見せたくて《音楽的に格好良いことをやる+ラジオ》という構成にしました」

――あのワンマンを観ると、里咲りさはこういう人だ、とまるごと伝わるというか。
「そうですね。これまでいろんな雑味とか失敗とかありつつ3年間やってみて、これがいちばん良い状態の里咲りさですよ、っていうのを表現したかったから、楽曲含め《里咲とはこれです!》っていうのをやりました」
――積み上げてきたものの頂点をちゃんと見せる。
「はい。雑味はあってもいいと思うけど、ショウとして見せられるものにしなきゃいけない。その中で、里咲らしさを素直に出した上で、里咲のベスト、100点を、作りたかった」

◆やさしくて、わくわくして、緊張感がある

――前編でちらっと「BGMも」って言ってたのは、ずっと流してたアンビエント風のあれですか?
「客入れとラジオのところで。すごいギリギリだったけど、最後のリハのときに編曲の灘藍さんにお願いして。提案してくれたのは灘藍さんのほうだったんですけど。ワンマンやるにあたって、BGMは何流しますかって訊かれて《“サイン”とか“Little Bee”とかのオケにしようと思ってるけど1曲目“サイン”だから何か締まらないんですよね~》とかうだうだ言ってたら《あ、じゃあ作ってみますよ》って。私のイメージは〈やさしくて、わくわくして、緊張感がある〉という世界観。あの曲を最初に聴いた時は、合うかな?と思ったけど、あれで良かった。あ、コレか、私が間違ってた、コレですね!と」
――良い雰囲気になってましたよね。
「あれ欲しいですよね」
――どこかに収録してください。アルバムの終わりにクレジットなしで入ってるとか、99曲目に入ってるとか(笑)。
「あー、いいですね!灘さんにお願いしておきます(笑)。やりたい…」
――“信号”と“カタルカストロ”がバンドアレンジでかなり良い感じになってましたね。他はわりと音源に忠実でしたが。全体的にリズムがすごく良くて、打ち込みのものがちゃんと違うグルーヴになっていて。
「バンドのノリ、グルーヴ感が、リハやってハマったなっていうのはある。“カタルカストロ”はそもそも作って灘さんに投げた時《ライブでやるつもりは一切なくて、音源だけのつもりなんです》って言ってて。ライブを想定してない。“信号”もできるか判らなかったけど、バンドですごく良くなって」
――インストアとかでは、オケで歌ってましたよね。最初の選曲の段階では?
「“信号”は絶対やりたかった。“カタルカストロ”は不安が大きかったけど」
――じゃあバンドでリハしてみて、と。
「うん、みんなプロの人達だから、私の声にハマる感じとかを判ってくれて、なんか良かったんですよね。“Little Bee”も、前にバンドでやった時は自分的にはあまり良くなかったけど、今回キーボード入ってまとまったなって」
――“カタルカストロ”はアンコール1曲目という大事なポイントで。音源の感じだと意外な位置だけど、バンドアレンジで非常に良かったですね。
「里咲りさって名前が知られはじめた頃の、最初の曲だから、そういう意味も込めてアンコールに持ってくるのはアリだなって。聴きたい人も多いと思ったし」

◆素晴らしかった音響

――フロアの真ん中におりての“かわいた空気の夜に”、あれエアーで音を拾ってたんですね。思った以上に聴こえて。(※花道の形に柵で仕切られた通路が作られていた)
「本当はマイクいらなかったけど《それだと全然聴こえないよ》って言われて、じゃあちょっと離れた所に1本置いてくださいって」
――あれも良いバランスで。
「音響と照明は、すごいちゃんとした人にお願いして」
――音響、すごい良かったですよ。あんな良い音のライブじたいがなかなかない。
「良かったですよね。私もびっくりしました。専属にしたい(笑)」
――耳にもやさしくて。
「けっこう音楽関係の知り合い来てたんですけど、みんな褒めてました。《里咲さんの声があんなにちゃんと聴こえるライブ初めて》って」
――今回初めて観た人にはすごく良い印象が残ったのでは。
「何も評判悪くなかった。悪い評判、あったとしても全然届いてない」

◆優秀な社畜と、社長同士の約束

――ワンマン直前のタイミングで〈社歌騒動〉がありましたが、あれは何だったんですかね(笑)。
「私も全然判らないんですよね」
――あれこそ内輪の極みというか。
「私が曲を作りますって企画に、ファンの有志の人が依頼してくれて、フローエンタテイメント(※)の社歌を作ってくださいと(笑)。で、作ったらファンの人達が《ZeppでCD-Rを配る》と。深夜に出勤、みたいなネタにして、どこかの会議室で本当に3時くらいまでCDを焼いていたらしく」(※言わずと知れた里咲りさ個人事務所。言わずもがな里咲の愛称「しゃちょー」の由来。ホワイト企業であるとの専らの評判)
――ツイッターで実況されてましたね。
「事前に流出しないように厳重注意、みたいな。それを誰かが公開設定にしちゃって、流出しちゃって、拡散されちゃって、何だったんだ、みたいな。詳しくは判らないけど、そういうのは私よりファンの人のほうがネットでバズるし面白い。ネオカイザーもそうだったし。…社歌、良い曲なんですよ(笑)」
――聴きました。あの配布してたCD-R、PCに取り込めない設定になってて、CDを持ってないと聴けないんですよ。
「そうなんですか!? すご!! 厳重!! みんな能力高っ!! 優秀!!」
――ワンマンの影にこういう話があるのも里咲りさっぽいですね。
「そうですね。〈らしい〉かったですね」
――会場ロビーに届いてたお花もすごかったですよね。
「(タワーレコードの)嶺脇社長にはずっとお願いしてたんですよ、会場借りる前から。《私が日比谷野音かZeppでやる時は出してください》って約束してて。《社長が社長のうちにやりますから》って。間に合いました!…だからお花はファンの人と社長だけだと思ってたら、どんどんロビーからいい匂いしてくるから見に行ったら、お花めっちゃいっぱいあって!ちょうびっくりしました。あれだけでもう私、帰っていいやと思った(笑)。お花、好きなんですよ。嬉しかったのはもちろん、そうやって気にしてくれておめでとうってしてくれる人がこんなにいたんだって感動して。私も人にお花をあげられる人になりたい」

――シバノソウさんとかにね(笑)。
「うん、出してあげたい~」
――ファンの皆さんの花がいちばん目立ってて。
「ですね。CD-Rが置いてあった所。…だから、ひとりでやった感じが全然しなくて。夢みたい、っていうのはそういうことだと思うし、いろんな人がいろいろやってくれたから。毎回、映像に残してても、これはDVD売るの200枚にとどめたい、とかあったけど、今回は誰に見せても恥ずかしくない。何も嫌じゃなく、自信持って出せるライブは初めてなんですよ。やるまではすごくしんどかったけど、3年間の積み重ねがなければできなかったから、いろんな要素も、3年という時間も、感慨深さにつながり。あの9・22にしかできなかったライブ。後にも先にも、もうあれはできないと思う。そういうのがライブだと思うし、そういう意味でも良かったなって」

◆そのままの自分で

――ちなみに本日のお召し物はZeppの時にも着ていたもので。
「はい、同じです。たまちゃんに《りさちゃん喫茶店でゴハン食べた時と同じ服をワンマンで着てた》って言われた(笑)」
――あのワンマン、衣装に関してはもう出オチというか。
「私は全然そんなつもりはなかったんですけどね。衣装やメイクについては…、人が足りなくて物販スタッフを集めてもらったりしてたベズ柴崎さんからも《この人が良いですよ》って推薦されたりしてて。…でも、私はそのまま出たかった」

――ああー。
「バンドの人達からも《メイクはつけたほうが》《服はちゃんとしたものを》《最低でも、いつものじゃなくてちょっと良さめのTシャツを》」
――あ、「最低」以下だった…。
「そうー、Tシャツとかいろいろ案出してくれる方もいたけど、私も《マニキュアくらい塗ったほうが気持ち高まるかな》《メイクしたほうが落ち着くかな》とか思ったけど、いちばん里咲らしいことをやらなきゃZeppでやる意味がない、と。そのままの里咲であそこに立つことに意味があるし、みんなにとっても希望になるのかなって。私は無理をしたくないんですよ」
――Zeppの時点ですごい無理をしていますが(笑)。
「シチュエーションは無理してもいいけど、私自身を表現する時に違和感や無理がないことをしたい。それを最近より強く思ってて。3年間の中で、音楽や見せ方を無理してる時期がけっこうあった。あれもこれもやってみようとか。でも『サイン』というアルバムを作った時点で《無理をすると人は続かないし、ファンの子がそれを真似したりするのも嫌だ》と思ったんですね。その人にとって自然な状態がいちばん良いんですよ、っていうのを表したかった、今回のワンマンでは」
――その象徴が、この…。
「衣装!!(笑) …マニキュアも本当はあんまり好きじゃない。メイクも薄いほうが好き。それをそのまま出したかった。それと、音楽が好き、という純粋な気持ちと」

◆「地下アイドル」との決別

――ワンマン当日に発売した写真集『たったひとりではじめたアイドルがZeppワンマンを成功させるまで』(※)では、ギャラクシーとかナイルパーチとか、アイドルさんが好きそうな衣装を着てますね。
「無理してた(笑)。それは最後の無理にしようと。ロフトブックスの人と、企画手伝ってくれた柴崎さんと話して《私は今後、もう地下アイドルっていうのをやり続けられないかもしれない。吉田豪さんに今までの人生をまとめてもらうインタビューをしてもらって、ひと区切りをつけたい》と。決別の1冊。で、ファンの人も1回くらいそういうのを見たいだろうと。3年間ボロボロの服ばっか見せられて(笑)。だから記念にちゃんとやりましょうと。楽しかったし好きだけど、今後はやらない」(※とのことだが、この写真集のタイトルには「里咲りさ写真集 vol.1」という記載がある。はたしてvol.2は…)
――じゃあ本当にいろんな意味でひと区切りで、これから〈ニュー里咲〉に。
「そうですね。ニュー里咲にならないと、もう終わりますよね。だってもう、やったもん、地下アイドルでやらなきゃいけないことは」
――やり尽くしましたよね。
「ひとりで、インディーズで、どこまでできるか。CD-Rでオリコン入りしたい、大きな会場でやりたい、両方やったもんな、って。それで本当はZeppでメジャー発表しようと調整してたんですけど…1社、ほぼ《あ、ここがいい》ってところがあったんですけど、決まりきらなくて、いったん保留にしようとなったのがもう2日前とかのギリギリで、じゃあFA宣言しようと。どっちにしろ、メジャーに行くか、どこかと業務提携しないと、仕事が追いつかないし、これからの里咲を見せられないと思って」

◆生き方を見せたい

「でも、Zeppで人がいっぱい入ってて、里咲が今までひとりでやってきたことに感動したり希望を見出だしたりしてくれてるのを見て、あれ?客席ガラガラ大前提で、みんなを安心させるためにメジャー発表しようとしてたのに。もしかしてひとりでやり続けて、地下アイドルとは別の、アーティスト…って言いたくないな」
――なかなかぴったりの言葉がないですよね。
「ないですね…新しい里咲を作っていくにあたって、大箱借りて埋まる、みたいな同じ物語は繰り返したくないけど、メジャーに行かないで奇跡的なこと起こしていくっていうか、そういうのを、自分でチーム作ったりしてやっていく、新しい形を開拓したほうが、みんなの希望にはなれるんじゃないか、とかも考えてます」
――なるほど。
「今まで通りっていうのはもうないけど。でも、メジャー数社とお話してるけど、自分はどっちでもいいんです、音楽ができれば。むしろ世の中にとってどっちが良いのか、みたいな。私がやらなきゃいけないのは、新型の人間?革命の時みたいな《あ、未来はこういう感じなんだな》っていうのを、…今ひとりでやってる人は業種関係なく増えてきてるから、新しい形を作るっていうのは、ひとつ、里咲の仕事なんじゃないかな、とは思います」

――まずニュー里咲のヴィジョンがあって、選択肢のひとつにメジャーがあるというか。
「メジャーデビューは判りやすいステップアップの象徴だから使いやすいけど、ちゃんと意味があることをしたいから。私は音楽が好きだから音楽をやってるけど、もしPCが好きだったら、PCで新しいことをしてたと思う。好きなものを通して、生き方を見せたい。広くみんなに共感してもらえるのは生き方とかだと思うから。いちばん格好良い生き方をしたい、そこだけ曲げないで選んでいきたい…と、ライブ中に思いました」

◆ほんわかした、キラキラした、邪気がない

――ライブ中にいろいろ考えるんですね。
「うん、でも夢の中みたいだったから。身体はもう、リハやって、ずっと歌ってる曲だし、勝手に動くけど」
――その間にいろんな考えがよぎると。
「ずっと考えてる訳じゃなくて、けっこう無に近かった。最後のMCでは感無量になって泣いたりしましたけど。夢みたいで、信じられないけど、本当なんだ、って。グッときてしまった。あの時の気持ちはなかなかね、言葉に表せないですよ。説明したら3年かかるもん」

――泣くっていうのも、言葉にならないものの表現だし。
「3年観てくれてる人はどうやっても私に近い気持ちで感慨深くなるけど、心配だったのは、初めて来た人、友達に連れてこられた人に、それが伝わるのかってこと。でもライブとして、トータルで伝わるようなパッケージにできてたと思う。バンドメンバー、音響、照明、制作に入ってくれたインリンクの方。最初、40万かけてセンターステージ作ろうとしたけど、お金じゃなくて、神楽坂TRASH-UP!!でフロアに座って歌ってたのを再現したかった。その話を引かないで聞いてくれて《じゃあZeppに言っておきますね》《でも法律上、柵がこうなるから》とか、私の意向を汲んでちゃんと作ってくれて、ライブの制作はこの人達とやりたいなって思ったし。バンドマスターの灘さんとはもう長いですけど、私が出す雑味を一般的なところまで持っていってくれる役割で。音響や照明も、もし良くなかったら、どんなに里咲が自分のマックス出しても印象違っただろうし。人に恵まれた。ファンの人達の空気感は説明できないですよね。あんなにほんわかした、キラキラした、邪気がない…光でいっぱいだった、みたいな」
――いや、だから観客席のほうも夢みたいなところありましたからね。
「みんなで夢見てるみたいな日だったと思います。私がこれやりたいって言って、来てくれた人との1対1の何かが、すごく良いものだったんだろうなあって。だからあんな空気になったんだろうなあって。そういう意味では《奇跡にしたい》って言ってたけど奇跡になったんじゃないかな。伝説になるかどうかは、私のこれからの頑張りしだいだけど」

◆神楽坂TRASH-UP!!Zepp支店

――床に座って神楽坂マナーでやった時「BOФWYはなんて言ったんだっけ」と周りの観客に訊いてましたよね。「ライブハウス武道館へようこそ」を言いたかったんですよね?(笑)
「そう(笑)。神楽坂時代にファンと話してたんですよ、いつか大会場でやる時は《神楽坂TRASH-UP!!何々支店へようこそ》って言いたい、って。それ思い出して、言わなきゃって。TRASH-UP!!の嶋田さんと屑山さんがその日来れなくて、名前を出さねば!って4回くらい言ってた(笑)。原点ですからね。《神楽坂TRASH-UP!!Zepp DiverCity TOKYO支店へようこそ!》って」
――あれを観て「でんぱ組じゃん」と。でんぱ最初の武道館はステージ上にディアステージを再現して「ディアステージ武道館支店へようこそ」ってやってて、同じ発想だ、と。

「一緒だ!そうか、制作のインリンクさんはディアステージのライブも手がけてるし、その辺でやりたいことをスッと判ってくれたのかもしれない。…関係者の方もたくさん来てくれたけど、私は別にすごくないんですよ。ひとりきりでやってきた訳じゃないし、いろんな人のおかげっていうのをすごく感じて。だからどんなに有名になっても、失敗しても、原点と感謝を忘れちゃいけないなって、肝に銘じました。私レベルでもちやほやされることがあると《あ、これは罠だ。これで堕ちてく人もいるんだ、天狗になっちゃいけないな》って」

◆ニュー里咲に向けて

――ニュー里咲はこうだ、っていうのは言葉にできる感じですか?
「活動をセーブ…本当は1回旅行とか行ってリセットしようと思ったんですけど、そんなに世の中は甘くなかった(笑)。ひっきりなしに何か来るから…そんなもんですよね。まあでも、誰と・どこと一緒にやりたいかを、はっきり作りたい。灘さんとは今後も、とか、大きいライブはまたインリンクの方にお願いしたいとか。やりたいことはすごい明確。音楽はこういう感じで出したいとか、次のワンマンはここがいいとか。で、地下アイドル然としたフィールドでの活動は、もう卒業でいいのかなって。そこで続けてもどんどんお客さん減っていってゼロになって辞める、って未来しか見えないから(笑)。アイドルじゃないとは言わないけど、より里咲らしい、いちばん自然な形でやれるように」

――呼び方が難しいですよね。〈アイドルシンガーソングライター〉っていうのもちょっと…。
「語弊がありますよね。アイドル、シンガーソングライター、どちらに対しても失礼だし。台本に書いてあると仕方なく読んでたりしますけど…。肩書きいらないくらいになりたい」

――固有名詞で通用する存在に。
「やりたいのは自分メインの深夜ラジオ。ライブはZeppみたいに作り込んでやりたいから、ただ対バンをこなすみたいのはやめたい。音響も照明も信用できる人がいる上でみんなに見せられるものがある場合か、シチュエーション・場・組み合わせが面白いか。そこは選ばなきゃいけないかな」
――音楽的にはどうですか?例えば次のアルバムのイメージとか。
「『サイン』は理想に近かったけど、もっと自然な形がある気がしてて。最近も映像をお願いしてるチームから《もっと見せ方があるはずだ》って熱弁されて。あーまだ探せる余地があるかなって。音楽はウィスパーで寝る前に聴けるというのがポリシーとしてあるから、それをよりポップに、判りやすくしつつ、突き詰めたい。もっとできると思う」
――後から『サイン』はまだ通過点だったと思うような気がしますね。
「うん、まだ混ざってますもんね、いろんな要素が。やっと整ったぐらいかなって。どういう形になるにせよ、もっと里咲りさを高めていきたいです」

(2017年9月27日 神楽坂にて)

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