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デザイン思考の前に押さえることがある(CRその2)

そこにあるべき機能

(episode Iから続く)

開発プロセスを起動するもの

佐宗氏の言う「妄想」は、『個人』の在り方にフォーカスし、開発プロセスの閉塞感を打破する鍵でした。
一方、本稿では一貫して対象を『組織』として、出口に近い方から開発プロセスを遡って見てきました。では、前述の鍵は開発プロセスから見ると何になるでしょうか。

ここまで社会あるいは組織の関心に基づいてそれぞれの時代において、新たに必要とされる機能があるということがわかってきました。つまり関心構造の遷移を捉えることで今はまだ見えていない場所に必要な機能が欠落したピースとして「見えてくる」とのではないかということです。
例えばブラックホールそのものは観測できませんが周囲の歪みからその存在は推測されています。メンデレーエフは仮説として周期律表考え、その結果元素そのものを発見したわけではありませんがそこに元素がはまるべき穴を発見するだけでなく、そこに存在するはずの元素の性質まで言い当てることができました。

あるタイミングで欠けているものを必要としている人の、関心と言う観点から状況を構造化することで次に何が必要になるかを見いだすことができるのではないでしょうか。
ここまでの流れに関係する形で現場プロセスを描いたものとしていくつかの例を挙げてみます。

イノベーションプロセスを起動できるもの

ISO 56002:2019 [INNOVATION MANAGEMENT --INNOVATION MANAGEMENT SYSTEM – GUIDANCE]の全体像を図に示しました。

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ISO56002: Innovation Management Systemの入力は「意志」

図に見る”Operations”が反復型開発プロセスを示しています。更に多くの支援システムが織りなす形で、初めてイノベーションマネジメントシステムが構成される、というのがこの国際規格の示すところです。
このシステム構成では、入力に「意志」が必須だと描かれている点に着目しました。意志は、Leadershipによって、自社の状況と外部環境についてのインテリジェンスを勘案した上で投入されます。国際規格イノベーションマネジメントシステムを構築してもなお、それを使うために、意志を投入しないとプロセスは起動しないのです。
ISO56000シリーズは、既存の大型組織を対象として描かれており、いわゆるスタートップ企業はそもそも範疇外としている点が大変ユニークです。意図が明確でないスタートアップは存在せず、意図が不明確な既存企業はある、ということです。スコープは本稿の考えている既存組織と同じです。

イノベーションと言えば、「意味のイノベーション」で有名なロベルト・ベルガンティ教授は、著書「突破するデザイン」の中で、イノベーションには、1.新たなソリューションを見つけるもの、2.新しい意味を見つけるもの、の2種があるといいます。その上で、ユーザ主導のアプローチには限界があるとして、「内から外へ」の意味のイノベーションを提唱しました。
下記の図は「突破するデザイン」の図を筆者が描き直したものです。端的に言えば、個人の想い、愛から始めて、アイデアを醸成しつつ実践的な批判にさらし、強い計画にしていくというものです。ここでも、個人の意志が最も重要な意味を持っていました。私は、ベルガンティ氏の2日間のワークショップに参加しましたが、彼常に「愛」なんだと言い続けていました。私たちは自分が愛したものを提案しなければならないのです。

意味のイノベーション

意味のイノベーションの醸成プロセスは個人から外へ向かう

Toivonenは革新的な個人と大規模組織との間に新たな関係について論じている論文「クリエイティブジャーニーの時代-革新的な個人と組織との間の新たな関係性に向けて」 で、クローズドな組織内の制約のある環境ではなく、オープンな環境であらゆるリソースから刺激を受けアイデアを生む革新的な個人と、開発プロセス後半に圧倒的な力を持つ大規模組織との、新たな関係性の中で作り出される「クリエイティブジャーニー」について述べています。
クリエイティブジャーニーでは、プロセス後半部分のシステムへの入力は、小規模チームや新しい働き方をしている個人に頼らなくてはなりません。後半の、実装を担うシステムの限界を示したものとも考えられます。プラットフォームに含まれるデザイン思考的プロセスよりも更に前の段階の支援が必要となっているのです。

Creative Research™

前述のような流れは、比較的規模の大きな企業のデザイン思考家らの持つ問題意識と極めて似通っていました。
そこで、これらの「入力」を補うための組織支援機能を想定し、”Creative Research™”と呼ぶことにします。

Creative Research™の必要性

Creative Research™機能は、ここまで開発プロセスの支援に必要な機能を歴史の要求する通りに、上流へ上流へと構造的に構築してきた中で、現時点で必要性が予測できた機能だと言えます。

crの存在

Creative Research™は、開発プロセスの最上流に存在が予測できた機能

ここまで見てきた開発プロセスへの入力要求を、勘案すると、Creative Research™に要求される機能は、「妄想、意志、アイデアなど自己を軸として持つこと」であると仮定できます。

そこでイノベーションプロセスにもかかわる映像作家、大学でイノベーションを教える准教授、ISO56002のセミナー参加者、アート思考の研究家ら、企業の開発プロセスの専門家、Stanford Univ.の起業家その他大勢とディスカッションしてみました。

結果、いずれも、同機能のプロセス内における位置、およびそこが担うべき機能について例外なくかなり力強い同意を得ることができた。開発の現場を知る皆がその位置での、軸や意志を固めるための支援機能を欲していたのです。
これらのディスカッションから非常に強く感じられたのは、従来のように「顧客に聞く」というOutside inの姿勢ではなく自分のビジョンを起点にするInside outの重視、いわゆる「意味のイノベーション」への要求でした。
意味のイノベーションではInside outの重要性が強調されています。ただし前述の一連のヒアリングから、このInside outの意志をユーザ中心主義に重ねてバランスをとることが運用上重要であることが、確認できました。
このことから開発プロセスを起動するための意志を紡ぐのがCreative Research™機能だとすると、ここでは、ユーザ中心を基本とするデザイン思考的アプローチとの融合が必要になってくると考えられます。

拡大の続く「デザイン機能」との整合

筆者は数年前に、自分でデザイン部門に移ってきた非デザイナです。その当時、ウォーターフォールな図が好きなメーカの開発者と話ができるようにデザイン部門のお仕事について描いたのが下図でした。

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デザインコンサルティングの一部としてのCreative Research™

"Concept Creation"と"Materialize"が外部から見て、従来インハウスデザイン部門が提供していると考えられていた機能です。実はCreative Research™に似た機能もデザイナ個々人が属人的に行ってきていましたが、現在更に必要になった機能は次の点で従来とは異なっています:

1. ユーザへの共感に基づくコンセプトの構築だけではなく、開発者側の成し遂げようとしているビジョンをも引き出すこと
2. 対象を個人だけの想いに限定せず、チームの想いを扱うこと

これは、一連の機能の必要性が、既存の比較的大きな組織の開発プロセスの一部として出てきたものだからです。チームを支援することで、大きな機動力になるとともに、既存組織の開発プロセスに柔軟に接続することができるでしょう。
ただ個人をターゲットに、コーチングするなどのサポートから始めると、既存の開発プロセスへの接続が難しくなることが、前述のToivonenの論文でも示されています。接続にはまた別の機能が必要となってしまうのだそうです。

Creative Research™の要求は、既存組織の開発リソースをうまく活用するために、現在の開発側の関心に沿って定義された機能です。先のデザイン思考的アプローチとの融合を考えるとここではCreative Research™は、次の機能を備える必要があると思われます。

要件
1. 対象となるユーザのユーザも認識していない潜在的な欲求の深堀と考察(従来の顧客中心主義)
2. 開発チームとして、本当は実現したいと考えているビジョンの種の引き出しと構築(Constructionism)
3. 上記2つを同時に掘りつつ相互に作用させていくIssue Analysis

これがCreative Research™が本質的に備えているべき機能です。

これら機能を開発プロセス初段に配置することで、初めて組織あるいはチームとしての「意志」を持つことができ、現代の状況に合った開発プロセスを起動できます。

二本柱_1000

Creative Research™は、時に応じて複数の方法論を取り上げて設計しますが、では、開発チームの意志に切り込むにはどんな方法論があるでしょうか。

episode IIIへ)

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