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インプラント上達への道

こんにちは。医療法人社団山の丘よつば会CLOVER DENTALの理事長の山岡です。よつはさんのnoteページにお邪魔しまして、今回から、歯科医療の専門的なお話を少ししていきたいと思います。

私自身は、大学を卒業してから「歯科口腔外科」を学び続けております。(日本口腔外科学会や日本口腔インプラント学会などには、ながらく所属しておりますが、専門医ではないのであしからず。)なので、子どもが多く受診するので、小児歯科が専門と思われがちですが、外科処置が大好きですし、口腔外科が得意な分野になります。そこで、今回から外科処置でもあるインプラント治療を題材に、治療の超細かい情報を提供していきたいと考えております。

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手が震える。。。

歯科医師になって、最初に困ったことは、「手が震えてしまう」ことでした。病棟の回診で、先輩の先生が処置をする時に、補助する手が震えてしまうのです。緊張もあったと思いますが、当時は、自分は手が震えてしまうので、歯科医師に向いていないのではないかと焦ったものです。一才ての震えない同期もいましたから、それは落ち込みました。。。それからは、手の震えを克服するために、どんな処置でも工夫していこうと考えるようになりました。

レストとは?

レストは、ご存知でしょうか。レストとは、例えば、ビリヤードで玉を突くキューのブレを抑えるために、左手で支える指の構えなどを言います。バスケ漫画のスラムダンクでは、「左手は添えるだけ」という名コメントが記憶にありますが、これもシュートフォームでのレストに近いものでしょう。我々、歯科医師が歯を削る時にも、削る機械がブレないように、レスト(指の支え)を駆使します。狭いお口の中ですから、レストの位置は困難を極めます。私にとって、手を震えないようにするためには、レストが非常に大切なのです。

このレストを駆使して、処置を行うようになった結果、手の震えは無くなりました。それどころか、より繊細なマイクロスコープを使用した処置までできるようになったのです!自分の欠点が、努力の積み重ねで、克服したどころか、得意なものになっていきました。レストのおかげです!

レストが使えない!?インプラントのドリリング

レストの応用によって、欠点をカバーできた歯科治療が得意なもの(歯医者だから当たり前?)になったのですが、次なる壁が現れました。それが、インプラント治療です。インプラント治療とは、顎の骨に、人工歯根と呼ばれるチタン製のネジを埋め込み、新たな歯を作る画期的な歯科治療です。私も口腔外科の出身ですから、20年以上前からインプラント治療を行なっております。そして、手の震えを克服した私ですから、インプラント治療にも様々な工夫をしてきました。しかし、顎にインプラントを埋入する穴を形成する「ドリリング」が厄介だったのです!

多くの場合、インプラントの埋入の方向は、となりの歯と平行になります。傾斜埋入という斜めに埋入する考え方もありますが、いずれにしても、術者がシミュレーションした方向へまっすぐに埋入窩を形成します。それも、0.5mm単位のドリルを4~5本使用して(メーカーにより異なります)、約4mmの正円の埋入窩を作り出します。これが、超難しいのです!そこに、レスト問題も発生します!

レストに欠点が!

手の震えを止め、安定した手元を作り出すのに必要なレスト。そのレストに弱点があるとは。。。ちょっと難しいのですが、文章にしてみますね。

手の動きは、前腕を固定し、手先で細かい作業を行います。手首を支点に動くので、動きの範囲が狭いのも特徴です。それが繊細さを生み出します。鉛筆で字を書く時も手のひらの腹の部分をレストにして、指先だけで動かし、書きますよね。字を書く時は、多くの動きが回転に近い動きです。まっすぐ線を引く時は意外と難しいものです。(定規使えばいけるけど、定規がレスト)通常は、手の腹を浮かせないと長い線が書けないので、ブレまくってしまいます。インプラントのドリリングは、繊細さに合わせて、この大きな直線運動が必要になるのです。もしそこに、回転運動が加わると、インプラントの方向すら変えてしまうのが、手のレストなのです。(動画参照)私の頼みの綱の、レストが。。。

ドリルでレスト!!

そこで、編み出したのが、「ドリルでレスト」。ドリル自体は、骨を削るためのツールなので、ドリルがブレないために手のレストを考えるのですが、ドリルをレストにして、手がブレないようにしたらいいんじゃないかと思ったわけです。ん!?

実際には、この方法でうまくいくようになったのです!理屈に合わないのかもしれませんが、私の場合はうまくいくようになりました。大事なことは、ドリリングのスピードをゆっくり、ゆ〜くり行うこと。ドリルの歯が止まって見えるくらい、ゆ〜くりです。ぐるぐる早いスピードだと、ドリルを安定させないといけないので、手にレストが必要になります。ゆ〜くり回すことで、ドリルは安定し、骨に接したドリルをレストとして手が安定する、そんな感じです。

結果的には、約4mmの正円の埋入窩を形成できるだけじゃなく、骨の硬さを診断できるスキルも身につき、そのおかげで、初期固定(インプラントが骨と固定される)が45Nのトルク値で埋入できる「即時荷重インプラント」(※またの機会にお伝えします)まで可能となりました。

研修医時代の手が震えるという欠点から、それを改善することで、多くの利点を得ることができ、それが患者さんのベネフィットに繋がるとは、当時は思いませんでしたが、よかったなと感じております。

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